この夏もまた「食べ物を与えられなかった子ども」の死亡事件が報じられた。去年は大阪で、今夏は千葉だ。

聞くだけでも堪え難い、このような「子どもの餓死」報道を耳にするたびに、ソマリアではないこの日本で起こる餓死という事象の意味について考え込む。あれだけの大震災が起こった後とはいえ、日本全土が焦土と化したわけではなく食べ物は有り余っているし、医療崩壊などと言われながらも日本ほど医療アクセスの良い国はそう無い。

「それなのになぜ?」という部分に疑問を差し向けないと、どうしても感情的な部分だけで問題を決め付けたくなる。「子どもを餓死させる親マジキチ!」「親になる免許制を敷け!」「無職は子づくりすんな!」。そう断じるのは気持ちいい。だけど、それでは表層しか見えない気がする。多分、それ以前の部分に、何かがある。
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「それ以前の部分」。ことが餓死だけに、そのひとつは三つ巴の生活の礎たる“食”にあると推察する。が、「食べ物を与えられなかった子ども」たち、彼らの家庭に置ける食卓の像を想像するのは、そう易くない。果たしてその親は何を食べ、何を子に与えていたのだろう。どのように購い、どのように調理して、どのように供していたのだろう?

分からない。そのようなところまではニュースは伝えない。ニュースでは大概知りたいことは伝えず、知りたくないようなディティールを細かに伝える。いや、確か「ミルクにコーラを混ぜて与えた」という印象的なフレーズは耳に入ってきている。しかし「コーラ」が常備されているのだろうその家庭の、普段の食べ物は何だったのかは分からないままだ。

ところで、筆者には各家庭における“食”というのは、相当のブラックボックスだという認識がある。隣の晩御飯を突撃するテレビ番組コーナーに人気があるように、「それ」は秘め事に近い。そう、個人的な端緒はもう20年ほど昔になる、「お菓子はご飯か」問題に遡る。


進学して間もなくの頃、ある昼のことだ。新しくできた学友の一人が、「今朝の朝ご飯、チーズケーキだったから胃がまだもたれてて」と学食で発言、物議を醸した。「チーズケーキってデザートでしょ?」「ううん、朝“ご飯”」「一人暮らしだったっけ?」「ううん、実家」「え、お母さんがチーズケーキ出すの?」「そうだけど……」で、場の9割が「意味が分からない」と震撼した。

しかしその後、「昨夜の夕飯、“コアラの○○○”2箱だったから、おなかへっちゃったよ~」と発言する実家住まいの別の学友が出現した。また、昼食として“チップ○○○”とパックの野菜ジュースを食するのが流行した。「栄養バランスもばっちり」というのが流行の理由だった。

そのうち、朝食チーズケーキに震撼した層にも“○○○ビスケット”や“カロリー○○○”と牛乳といったコンビはむしろ「立派な食事」という認識が浸透していった。

「パンと牛乳、シリアルと牛乳、でも、お菓子と大差ないんじゃないの?」。問いは、「どこからがお菓子で、どこからがご飯なのか」という線引きに近づいていた。しかし、個人的に答えは出ないまま20年が経過した。


フランス的に朝食としてよく食されるという、「タルティーヌ」というフランスパンにバターとジャムをこんもり盛ったものと、件のチーズケーキにどれほどの差異があるのか、正直言って分からない。それと「お菓子」との栄養的な違いについても断言できる知識を持たない。「とりあえずどっちもカロリー高そう」というくらいだ。また南欧では普通に「フルーツケーキ」などを朝食にすると聞くが、フルーツケーキはパン扱いなのかお菓子なのか? 分からない。

そして、あまり公言されはしないものの、「子どもを持った普通の主婦」のうちで一人のときの昼食が「チョコレートだけ」といったようなケースは、いま決して珍しくない。果たしてこの主婦層が、かつて学生だった頃に朝食や夕食をお菓子で済ませていた人だったのかどうかは分からない。しかしどうやら、どうにも。いま、各家庭での食性はかなり「多様化している」。


そういった中での、「子どもと食べ物」絡みの事件には、一筋縄では行かない根深い問題が隠されているような気がしてならない。そもそも、人の身体は漏れなく「食べ物」で出来上がっている。食べ物こそが私であり、あなただ。母乳以後の子どもたちの身体も、すべて食べ物でできている。朱に交わったら赤くなるというが、朱さえ食えば、もれなく赤い血が流れるのか?


末筆。「お菓子はご飯か?」から10年経過した頃のこと。1歳前の赤ちゃんに、ゼリー状カロリー飲料を「離乳食」として、「昼食」と言いながら当たり前に飲ませている親を出先で見た。当時まだ子どもがいなかった筆者は単純に感心してしまったものだが、もしかすると、それと糖水「コーラ」を同列に考える親もいるのかも知れない。

「おかしいでしょ?常識的に考えて!」という人もいるだろう。でもその常識的なあなたとその家庭の食生活を、すべて詳らかに、できますか……?


藤原千秋藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。8歳4歳0歳三女の母。