『うさぎドロップ』、読者諸賢は既にご存じだろうか。現在フィールヤング誌(祥伝社)で連載されているマンガだ(ただし本編は連載終了しており、現在は番外編)。2005年から6年以上続いている。
usagidrop
この映画版が、つい一週間ほど前に封切りされたばかりであるから、そちら側から見聞している方も多いかもしれない。なにせあの松山ケンイチ&芦田愛菜ちゃんという今をときめく俳優と子役のダブル主演とあって、予告編動画を観るだけでも華やかな印象を受ける。また、アラサー&フォー好みのラインナップが続く深夜アニメ枠「ノイタミナ」(フジテレビ系列)でも、7月からアニメ版が放映されている。

実は筆者、寡聞にしてこのクロスメディア化を機に当マンガの存在を知った。というか、書店で大々的にパワープッシュされていることで作品の存在に気づいた(しかも先月)ていたらく。作者・宇仁田ゆみ氏の作品もこれまでいっさい未読である。

そもそも松ケンはともかく、芦田愛菜ちゃんが何者かを最近まで知らなかった筆者。どうでもいい情報で恐縮だが、この原稿を執筆している深夜の某ハンバーガーショップ内で何度も流れるBGMがどうも「まるまるもりもり」という芦田愛菜ちゃんソングらしいのだが(拙宅の保育園児が友だちに教わって来て家で踊る)、PC席で隣りに座っている男子中学生らもがノリノリで歌い踊っていて今、とても鬱陶しい……。

ともあれ、作品としても商品としてもアツい旬なネタなようす。よって遅ればせながらマンガを読んでみることにした次第である(とりあえず2巻まで)。映画の方は0歳児を抱える筆者は観に行くのが難しいし、深夜アニメもHDD録画したところで観る余裕がなさそうなので。育児中母には書籍メディアが一番便利だったりする。

閑話休題。ネタバレにならない程度に、まずは『うさぎドロップ』のさわりをご紹介しよう。
あらすじ
祖父の訃報で訪れた祖父の家で、30歳の独身男、河地大吉(ダイキチ)は一人の少女と出会う。その少女、鹿賀りんは祖父の隠し子であった。望まれぬ子であったりんを施設に入れようと言う親族の意見に反発したダイキチは、りんを自分が引き取り育てると言った。こうして、不器用な男としっかり者の少女との共同生活が始まる。

映画では「27歳の独身男」にダイキチの年齢が改変されているらしいのだが、いずれにしろ「子育て経験の全くない独身男性会社員が、いきなり6歳児を引き取り男手ひとつ育児を開始する」という、いささかファンタジックな設定だ。これは天界から預かるか祖父の忘れ形見を引き取るかの違いはあるが、大昔にセガサターンでプレーした萌えゲー『プリンセスメーカー2』を彷彿とさせる。

正直、読み始めて間もなくこの設定が透けて見えた時点で「リアリティゼロ」などと呟いてしまい、続けて「育児ナメてんじゃないですよ?」などと内心毒づいてしまった。いやらしいわ三女の母。

そんなメンドクサイ境涯に自ら飛び込む人間がどこにいるっていうのか。まあマンガだからいいんだけど。実在したところでそれはいわゆる阿呆扱いされるだけなんじゃないかいね? 突っ込みながら読み進めると、作中でも主人公ダイキチは親兄弟親戚部下等から喧々囂々言われたい放題なのである。ふふふほ~らご覧……。意地悪く笑みつつも、うっかり話に引き込まれてしまっていく筆者。

しかして、その後は何度も「うむむう」と唸らされるシーンに遭遇する。

「30歳の独身男」ダイキチは、極めて出来た男なのだ。もともとがデキル目の会社員。性格もまとも。身勝手な大人の事情を子どもに強いることを嫌い、子どもの思いや考えを丁寧にすくいあげることができる。想像力を駆使して感情を推し量り、子どもに与える影響を考えながら言葉を選ぶことができる。子どもに苛立って感情的に怒鳴ったりなんかしない。フェアでスマートな男。勿論、ロリコンでもない(ここ大事)。

えらそうに「育児なめんな」という筆者自身とて、せいぜいたかだか育児歴9年。3人育てていると言っても一人でやっているわけではなく、内田樹言うところの「ディセンシーとインテリジェンス」を併せ持つべき「大人」の子育てが出来ているとは、正直言い難い。

そんな後ろ暗いリアルママ、ダイキチの素敵保護者ぶりに、だんだんと肩身が狭くなってくる。えーと、このマンガって所謂少女マンガ……? じゃなく成年女子マンガ……? それとも育児マンガ……? 誰向けで、誰に感情移入して読めばいいのかしら……?

なんとすれば、可愛い幼女「りん」ちゃんの存在が萌え要素であるように見せかけて、実のところ30男「ダイキチ」の存在こそが最大のファンタジーなのではないだろーか、と思えてくる。こんないい男(何せ映画版では松ケン!だ!)が今どきの婚活市場で売れ残っている設定自体、ある意味解せないよ……。ファンタジィだよ……。

しかし反面、実はダイキチに近しいリアルパパ(独身男性ではなく松ケンでもないが)というのは、今日日それほど珍しくない存在だという現実に思い至ったりもした。そこらの保育園に行けば、「ああいう感じ」のお父さんなんて、結構うじゃうじゃいる。

否、そういう「父親」自体は、今日日どころか江戸時代には既にいた模様。有名なところで『江戸の子育て』(中江和恵/文春新書)や『江戸の親子―父親が子どもを育てた時代』(太田素子/中公新書)などに詳しいが、数百年前に育児日記をつけまくるオヤバカな「父親」たちの愛情深さ、細やかさ、辛抱強さには、正直今の目を以ってしても驚かされる。江戸の父ちゃんパねぇ!

もっとも『うさぎドロップ』は江戸時代ではなく平成の世の物語で、だいたいダイキチは「父親」ではない。これは物語中でも結構しつこく念を押されており、ダイキチに引き取られた祖父の隠し子、6歳女児の「りん」自身が、ダイキチへの愛着を持ちながらも「その点」には毅然とした態度を見せているので、大事なところだ。

そうして物語は、ダイキチの両親や妹、りんの保育園友達やその親、ダイキチの職場の皆々や、所在不明だったりんの実母などを絡めながら進んでいくのだが?!

蛇足。せっかくなので、ともに2巻までを前情報ナシで読ませた家人(娘溺愛父クラスタ)が、「ダイキチって、所謂“王子様”だよね~」と所感を呟き、ああ男の目にもそう映るのかぁ、と思った。

ダイキチが王子様なら、お姫様は一体誰なのか?!

そこはかとなくミステリアスな気配(?)満載の『うさぎドロップ』。単行本一冊1000円近くし、懐にはいささか厳しいものの、3巻以降を大人買いして続きは筆者もこれから読みます。

待て次号(多分)。

マンガ『うさぎドロップ (1)』(祥伝社)
映画『うさぎドロップ』公式サイト
アニメ『うさぎドロップ』公式サイト


藤原千秋藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。8歳4歳0歳三女の母。