最初の子どもを持った頃に掲げた理想(妄想)の多くは、日々の暮らしの中で破れ去っていった。その中のひとつが「ノーテレビライフ」だ。

いっときシュタイナー教育に傾倒した筆者は、「知的な親はテレビを見せない」などと息巻き張り切ったものだが、ものすごくあっさり挫折した。最初の子ども(現在9歳)は2歳時にはHDDレコーダーのリモコン操作に熟達している有様で、録画した“こどものてれび”(NHK教育の平日16時から19時までのプログラムや金曜ロードショーのジブリ映画)を自在に視聴できたし、居間のPCでマウスをスクロールしクリックし、目当ての“やふーどうが”を視聴することができてしまっていた。いずれも完全に門前の小僧で教えもしないうちに習得しており、「21世紀生まれは違うなあ~、オイ」などと親は暢気に感心していたのである。

suiteprecure
それでもまだこの子が幼稚園児でいる間までは、いわゆる「プリキュア」なんて見せないつもりでいた。筆者、不遜にも「だいたい害悪なのがあの前後のCMだ」ぐらいのことを放言して憚らず、「子どもの言うなりになってあんなもん見せてつまらんオモチャ買わされてる親も親でアホ」とかなんとかかんとか……。

……すいません。

●前々シリーズ『フレッシュプリキュア!』の展開をきっかけにハマる

今、日曜午前は起きられない父母を横目に、『スイートプリキュア♪』の放映時刻である午前8時半には三姉妹全員が起床している。カーテンがまだ閉められている薄暗いリビングのソファに横並び座って、冷蔵庫から出して来たヨーグルトか何かをてんでに食べながら、「新キャラ出たね~」なんて和気あいあい視聴し、まえけん(前田健)振付けのエンディングを踊っている。ちなみに「スイート」は「スイーツ」とかのsweetではなく、suite(組曲)である。

実のところ、前々々シリーズの時点でプリキュアグッズの購入活動は開始している(=アホ親)。次いでサンタクロースが変身衣装を持参するわ、100均で買ったキャラクター箸やらハンカチやらイオンで買ったキャラクタープリントワンピースやらがわらわら集積するわで、筆者宅において今プリキュアは相当の存在感を示している。

思うに、子どもたちが熱狂しながら録画のプリキュアを見ているのを、ちらちら横目にストーリーを追い出した、前々シリーズ『フレッシュプリキュア!』の放映期間中盤のことだった。完全に敵方にいた「イース」が寿命で死んだ後に生き返って、「東 せつな(=キュアパッション)」に転生してしまうのだが、彼女はこれまで己の働いた悪行の記憶に苦しめられ懊悩(おうのう)する。その姿に戦慄させられたのだ。これで筆者はプリキュア・シリーズに対する偏見を捨てさせられ、正直に言うと「はまった」。

「子ども向けアニメにこのストーリー?!」という驚愕は続く。「桃園 ラブ」という、いわゆるDQN気味な名前を持つ「キュアピーチ」の名付け親はなんと死んだ祖父(しかも江戸っ子)であり、祖父なりに未来を担う孫のワールドワイド(?)な活躍を祈念し、「愛」ではなく敢えて「ラブ」という英語な名前を命名した。この逸話には思わず「素敵やん」と呟いてしまった。

●前シリーズではついに婆さんがプリキュアに!

前シリーズの『ハートキャッチプリキュア!』では、ついに存命の祖母(キュアブロッサム=つぼみの祖母で元プリキュアの薫子)が再びプリキュアとして変身・復活してしまい、「婆さんがプリキュア……だと?」と度肝を抜かれた。

ちなみに薫子、プリキュアに変身すると50年若返り孫と変わらぬ年頃の綺麗なお姉さんになる。まあ体力は歳のせいであんまり無いのだけど……とりあえずあの衣装にくるまれた見た目がシワシワじゃないのにはホッとした。

●4歳女児の本気を笑えるか?

さてここ数年見ていて分かったことなのだが、2月に始まるシリーズ半年が過ぎる8月頃から続々と「新プリキュア」が投入されてくる。それぞれがそれまで素知らぬふりしてメインキャラの周囲をウロウロしていることもあり、その意外性を含んだ登場の格好良さに、視聴している小さいお友だちはキューンと感じてしまうものらしい。

筆者宅の4歳児がまさにプリキュア直球ど真ん中世代で、毎回ふかーく入り込み、文字通り悶絶しながら見ていて、ちょっと怖いほどだ。プリキュアの実在を深く信仰している点も看過できない。彼女らが七夕の短冊に「おおきくなたら きゅあめろでー になりたい です」と書いたらそれは本気と書いてマジなのだ。

意地悪く「じゃあさ~、みんなのしあわせのために戦えるの?」と目を見て訊くと、凄く真剣に考え込んで「死ぬのは嫌……だけどがんばらなきゃ」とか答えていじらしい。もっともCMの変身グッズさえ手に入れれば変身可能だと信じているあたり微笑ましい単純さだが、実のところ筆者自身も30数年前、『魔法少女ララベル』のステッキさえ買って貰えれば変身できるのにと思っていたので娘を笑うことはできない。

●無知というだけで傲慢になれることに気づいた

プリキュアたちは筆者が見ている限りいつも正しいが、超人ではなく、変身しなければ当たり前に弱いし、精神的にはかなり打たれ弱い「今時の子」だ。その弱さを前提にしながらも強く正しくなりたい、ありたいとひたむきに戦っていく姿は幼気で愛おしい。また、湧き出る敵方は存在するが、いわゆる「絶対悪」ではない。単純な勧善懲悪ではないところが物語の難しさであり、しかし深みでもある。

斜に構えて親が嫌らしく「こんなアニメ子ども騙し」と嘲笑うのは簡単だ。しかし筆者は気づいている。プリキュアシリーズの作り手たちの誠意に。商業的な意志や罠(!)の存在は否定しないが、その辺は所詮親自身のコントロール力の問題だ。毎回の物語に込められた「思い」のあまりに、当たり前な真っ当さに心打たれないではいられない。作り手たちは子どもたちの心に、prettyにcureする文字通りの「プリキュア」を生み出そうとしているから。本気で。

最近、1歳児がオムツのお尻を振りながらエンディングで踊りだした。キュートな振付けは大人の筆者から見ても「ちょっといいなあ」と年甲斐も無く真似したくなるほどで、娘たちに嗜められる(やめときなよ~かわいくないから~)。涙。

ああ、こんないいアニメを、何も知らず馬鹿にしていてごめんなさい。そう。時折人って無知というだけで傲慢になれるもんなんだ。これは子育てをしているなかで学んだことのひとつです。

『スイートプリキュア♪』公式サイト 東映アニメーション
『ハートキャッチプリキュア!』公式サイト 東映アニメーション
『フレッシュプリキュア!』公式サイト 東映アニメーション
過去シリーズをまとめたプリキュア情報サイト『プリキュアガーデン』


藤原千秋藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。8歳4歳0歳三女の母。