子どもの自尊心、自尊心って言うけど、そんなに子育ての上で大事なのか――。
米イェール大ロースクール教授のエイミー・チュアが、自身の極端なエリート子育てを描いた『タイガー・マザー』が世界的ベストセラーとなり、中国系エリートママが西洋的子育て観に投じた渾身の一石が、今なお大きな波紋を呼んでいる。

二人の娘にそれぞれピアノとヴァイオリンの英才教育をほどこし、幼くしてカーネギーホールで演奏させるという多大な栄誉にまでこぎ着けたエイミー。しかも音楽だけでなく、娘はハーバード大へ進学。

もちろんその代償は、幼い頃から友だちの家でのお呼ばれやお泊まりの誘いを一切断り、学校の学芸会へさえも(楽器の練習の邪魔なので)不参加という極端な厳しさだ。それを自身の成功体験から「中国的子育ては西洋より優れている」と得意げに披露したものだから、「異常の極み。厳しくすればいいってもんじゃない!」とアメリカの子育て層から猛然たる批判に晒されることに。
image
特に物議を醸したのが、子どもを「ゴミ」呼ばわりするエピソード。ある和やかなホームパーティーにて、当時7歳の長女が母親であるエイミーに対して反抗的な態度を取ったことに怒り、エイミーが「ゴミ」という言葉を浴びせる。アメリカ人ばかりのパーティーは凍り付き、一人のご婦人が「自分の子どもを『ゴミ』と呼ぶなんて、ひどすぎるわ!」と泣きながらその場で帰宅してしまうに及んで、場は騒然。

パーティーのホストが「そういう意味じゃなかったのよね?」とフォローするものの、エイミーは「いいえ、言葉通りの意味よ。中国ではこれが普通よ」と折れない。その空気を想像するだに、繊細(?)な日本人の私は気を失いそうである。

中国系教育ママの主張に英米の子育て板は紛糾

エイミーはこのエピソードから、「中国的子育て」と「西洋的子育て(この定義がザックリし過ぎで、これまたアメリカ人に不評)」の違いを3点導き出す。

  1. 西洋人は子どもの「自尊心」とやらを過剰に心配している。子どもに自信を失わせないよう、決して「劣っている」と感じさせないように、親は子どもをおだてておだてて、真綿にくるんだような物言いしかしない。
    中国人は、子どもはもともと強いものと考えていて、西洋のように柔らかくてもろいものだなんて思っちゃいない。
    子どもの心理がどうのこうのと言って、本当は良い成績を望んでいるくせに「(成績が悪くても)あなたは素晴らしい、唯一の存在よ!スィートハート」とか、正直見栄えがいい方が良いと思っているくせに「(太っててもブスでも)美しい、ママとパパの誇りよ!ダーリン」とか、結局子どもは何も学ばないしやる気も起こされないから何も達成しない。
    子どもだってパフォーマンスが悪ければ、当然正直な評価に晒されるべきだし、やる気を起こさせるために恥をかかせることだって必要。

  2. 中国人は(たぶん儒教的思想から)子どもは親に従うのが当たり前と考える。生まれた時から親に「育ててもらっている」のだから、そのお返しに親を誇らしい気持ちにさせるべく努力するのは当然。西洋人が「子どもは親を選べないのだから、むしろ親が子どもに対して良い子育てをする義務を負っている」と考えるのとは対照的。

  3. 中国人の親は、自分の子どもに何がベストかを知っていると自負している。だから子どもの生活を厳しく管理するし、子どもも親に恥ずかしくない生活をしようとする。中国系の女子高生に彼氏がいるなんてありえないし、外泊する必要のあるキャンプになんか絶対参加しない。「ママ、ワタシ学芸会で『村人その6』になったの! これからは放課後7時まで練習するから、お迎えよろしくね☆」なんて口にするノー天気な中国系の子どもはいない。


さて、これに対して「著者は西洋の母親たちを侮辱している」と、英米の子育て板は紛糾。結果的にエイミーの本は売れに売れたわけだが、読者の皆さんはいかがお考えだろう。儒教国ながら今となっては西洋色の濃い日本の子育て、子どもをしつける姿勢にも現代らしい迷いがありそうだ。

・参照記事“Lessons from 'Chinese Parenting': Do You Have to Be Strict to Get Your Kids to Succeed?”


河崎環河崎環
コラムニスト。子育て系人気サイト運営・執筆後、教育・家族問題、父親の育児参加、世界の子育て文化から商品デザイン・書籍評論まで多彩な執筆を続けており、エッセイや子育て相談にも定評がある。現在は夫、15歳娘、6歳息子と共に欧州2カ国目、英国ロンドン在住。