震災以降、池袋あたりでは目に見えて、飲み歩く子持ち世代男性の姿が繁華街から消えているという。さもありなん。終業後フラフラしている時に揺れたらどうする?

電車が動いているうちに帰りたい、帰らねば。そんな思いは遠方の実家に住む老親に対しても同様なのだろう、今冬は海外旅行よりも「帰省」を優先せんとする層が厚いらしい。これもまたさもありなん。世情である。
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ところで、そういった帰省列車や飛行機の中でたまらないのが、見ず知らずの子どもの泣き声や奇声である。すし詰めの中で聞くその高周波な騒音はこちらの疲労を倍増させ、苛つかせ、殺意さえ芽生えるかもしれない。
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実際ヤらないまでも「クソガキが!」ぐらいの呪詛は頭をよぎるかも知れない。「クソガキのクソ親の顔はどれだコノヤロ」と親の顔を見たくなるかも知れない。まあ見てどうなるわけでもないだろうが、一言言ってやりたくなる気持ちも分からないでもない。

泣きわめきを延々聞かされる方の苦痛も良く分かる……が

帰省というのは、迎える方も大変だが、行く方はもっと大変なものだ。それが新幹線であれ、飛行機であれ、みんなが疲れている。行きはそれでもまだいい。帰りは最悪だ。疲労困憊して帰宅したらばすぐに仕事始めで出社。あと3日、あと2日、祈るように数える。プレゼントに土曜日が欲しい。マジで。

そう……密閉空間でヒーとかキーとかギャーとか延々聞かされる方の苦痛は良く分かる。分かるが、今回は当メディアで書く2011年最後の原稿であることもあり、メインコンセプトである「親になったから、見えるものがある。」に即して、そのギャーヒーの騒音源たる立場からの戯言にてシメさせてもらおうと思う。

テーマは『何故、子どもは混雑した新幹線内などで狂ったように泣くのか?』。

筆者が9年+α、3人の娘を育てた経験から、子らをゾロゾロ連れて移動する中で見出したとある傾向についての考察である。親になったばかりの諸氏にもお読みいただければ幸いであるが、年末で時間がない折なのでさくっと行きます。

ズバリ大人の皆さんは、新幹線とか飛行機の中で泣きわめくことがあるだろうか?

普通は無い。だからどうしてあんな衆人環視のもとで身も世もなく赤子や幼児が泣きわめくのか理解し難い。理解し難いけど、まあ推理することはできる。「混んでて不愉快で泣いてるのかな」「おなかが空いているんだろうか」「退屈なんだろうか」「オムツが濡れてるってやつなんじゃないの?」

子育て経験は無くてもこれくらいは想像がつく。だからこそ、その状態に甘んじている泣く子の親に対して怒りも沸く。「こんな赤ん坊を混むの分かってる新幹線なんかに乗せるんじゃねえよ!」「おやつ喰わせるとか遊ばせて黙らせろよ!」「オムツ換えてやれ!」道理である。
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「狂ったように」泣きわめくその理由は……

でも、案外子どもは退屈や空腹程度ではそう泣かない。せいぜい「グズグズ」いう程度だ。
「ママーあめなめていーい?」「ママーおりがみしてもいーい?」「ねーママーあきちゃったー」とか小さい声でえんえん言い続けている子どもの声を飛行機の座席の後ろ等から聞かされた経験のある方もおいでだろう。あんな感じ。また、濡れたオムツというのも最近の高分子吸収体は優秀なので不快は少ない。だからそれで泣くのは余程のときだろう(11時間連続装着してるとか)。

筆者は小児科医でもないし育児のスペシャリストでもないただの三児の親だが、これには確信がある。電車内、新幹線内、飛行機内などで「狂ったように」泣きわめいている3歳以下の子どもの「泣いている理由」は、

『眠い!』

である!!!

……は?

大人は思うだろう。何それ。寝たきゃ寝りゃいーじゃん。なんでいちいち泣きわめくの? 意味わかんない。

しかし子どもは「眠い、でも眠れない、誰か助けて!」と言って泣いているのだ。「上手に眠れない、怖い!」と言って泣いているのだ。あの「狂ったような泣き」は「パニック」の泣きなのである。そう言われてみれば「なるほど……」と思える人もいることだろう。

上手く眠れない。焦る。パニックする。

どうやらこの世に出てきて間のない赤ちゃんや幼い子どもというのは、眠りに落ちる時に死(あの世への移動の予感)の恐怖を味わっているらしい(と昔なんかで読んで筆者は腑に落ちた)のだ。だから母や父に抱いてもらい、またはおっぱいを吸わせてもらい、またはお話を聞かせてもらいながら「恐怖を誤魔化して」ゆらりゆらりと眠りの世界に行きたいと普段から欲している。

子どもはさらに、お昼寝として夜以外にも一日のうちで何度か深く眠る時間を必要としているものだが、このリズムがどうしても帰省の際は狂いがちだ。目新しいものを体験しての脳の興奮もあり、へとへとに疲れている。でも、上手く眠れない。焦る。パニックする。

「眠れない」で苦しむ。実のところ大人だって同じであろう。大人は眠れずに焦ってベッドの上でのたうち回り、眠剤を飲むだろうが、子どもは睡眠薬など飲めないだけのことである。また、「電車内で」眠れないからといって大人は焦らないだけのこと。

そう、「眠れない!怖い!」とあの泣き声を置換して聞いてみると、それはそれで切ないものがあるが、意味が分からないものへの苛立ちを含め、聞き手の「怒り」は幾分解けるのではないだろうか。

大勢の人前で怒鳴られたとき、わが子は数分後に……

まだ最初の子を持って間もない頃、筆者は「うるせえなクソガキ黙らせろコノ!」と大勢の人前で怒鳴られた経験がある。筆者の家の子は3人ともわりあい扱いやすいタイプの子どもであったが、それでも年に何回かはどうしようもなく人前でも荒れることがあった。狂ったように泣きわめき、意味不明語を口走りながら、口の端から唾を垂らし、ハトヤのCMの魚のようにビチビチとエビ反りに暴れる我が子。

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※画像はイメージです
参考動画:ハトヤホテル公式サイトより「大漁苑篇」

勢い余って母のメガネを床にたたき落としてくれたおかげで、裸眼視力0.03の目前が滲んでいる。視力のせいか涙のせいか、もはや判然としないのであった。寒い冬なのに汗で背中はびっしょりになり、恥ずかしさと情けなさで気が遠くなりかけ、吐きそうになる。世界中が自分と我が子を憎んでいる気がした。「いっちゃってる」目をしている我が子を疎ましいとさえ思った。

しかし、子がすうっと意識を失ったのはその、たった数分後であった。上気して湯気を立てている顔、髪は汗でべっちょり。ぐったりと力が抜け、すうすう寝息を立てている顔は天使のそれであったが、もう気力体力使い果たしてしまった母は、また泣けた。「なんでもう寝てるの?今の何だったの?」……何だったのかが分かるまで、トロい筆者の場合6年もかかった。

拙稿がこの年末年始、どこかの誰かを少しでもラクにしてさしあげられればそれに勝る喜びは無い。


藤原千秋藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。9歳5歳1歳三女の母。