ちょうど2年ほど前の春先に金曜ロードショーで放映された某ジブリ映画を、最近、1歳の三女が異様に気に入っていて1日1回は視聴させられている。お陰で母も通算161回ほどCMごと同じ映画を見せられているわけだが、ここに差し挟まれている「イオン新作セレブレイトスーツ2010」の映像が、初見時から現在に至るまで筆者にいい感じの違和感をもたらしている。

CMは軽快なビートで颯爽と美しい女性たちが歩くシーンから始まる……コンサバなブライトカラー、ピンクやアイボリーの春色スーツやグレー、ベージュ、ネイビー系のアンサンブルをキラキラと着こなしている女性たち……そこに、「ママたちが、フォーマルする。」というコピー。で「3点セット9,800円」。なるほどー。

aeonceleb2010
イオンショッピングブログのスクリーンショットより


概ね誰にでも「これは子どもの卒業式、入学式に着るスーツのCMなのだな~」ということが察せられる絵だ。とても分かりやすい。また「3点セットで9,800円とはお値打ちだね!」というお得感と「パパさんが着ているスーツも同じくらいの値段かな?」という納得感も好印象。

そして「母たる者こういう服を着るべし」という言外のメッセージも明瞭に伝わってくる。ナイス。そう、いつもジーパンばっかなラフなママでも、ここぞという時にはこんな風にキラキラしちゃうんだゾ!的希望の喚起。基本的に子どもってオシャレしているママが大好きなものだしネ!的雰囲気。

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しかし、しかしである。はっきり申し上げよう。筆者は、こんなキラッキラしたコンサバ服をこれまで一度として着用したことはない。ていうか男顔の女がこういう女子っぽい格好をすると、もれなくオカマに見えちゃうので鬼門! これまでもそしてこれからも、一生、着ないと思う。

だから、このCMを繰り返し見るたび、ある種の深い諦めと納得と絶望を禁じ得ないのだ。

あー、「おかあさま」かくあるべしという“世間の要請”は、やっぱりこれかー。これなのかー。これなんだろうなー。

あー、笑顔で綺麗で背筋ぴーんとしてるのが素敵な「おかあさま」なのよなー。明度の高い服の色と低い髪の色でー、ローヒールパンプス履いててー、セカンドバッグ持ってー。

あー、無味無臭、人畜無害、個性不要こそ「おかあさま」の務めなんだなー。

それがTPOでー、これぞPTAなのだよなー。はー。

っていう……。

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さて、時に最近「美魔女」とかいう、40代過ぎても不思議と老いず美しいマダムがメディアに取りざたされているけれど、その修飾語の多くにはいつも「~なのに」という逆接の接続語が伴われているのに諸賢はお気づきであろうか。

いわく「もう52歳」「4児の母」「すでに孫がいる」なのに「美しい」「シワが無い」「スタイルが良い」「痩せている」。

「~なのに」と繋がる語の内側には「らしくない」「想定外」「普通ではない」という意図がある。とくに穿ってみたり疑ってみたりする必要も無いだろう、「年齢相応にシワシワしたりシミシミしたりするのは自然の摂理」なのであり「子どもをたくさん産んだ女性は妊娠のたびに肥え、大らかに太く土偶っぽくなっていくのも自然の摂理」なのであるというかむしろ「母さんドッシリかくあるべし」と求める“世間の要請”の存在については。

まあ“世間の要請”が言い過ぎなら“漠然とした(無意識の)イメージ”という表現でもいいだろう。とりあえず自分の無意識下に存在する「漠然としたイメージ」から大きくずれた現象が目前に存在するとき、「漠然とした世間」の皆さんは大抵困惑したり、むっとしたり、不安になったりするものではないだろうか?

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これは筆者の体験的法則なのだけれど、子連れで出かけるとき「いかにもおとなしそうな愛されゆるふわファッション(多分に森ガール系)」でいると変な人に絡まれる率がたいへん高いのだ。変な人の詳細については書かないけれど何となく察して欲しい。見知らぬ女子どもにも構わず己の優位性を訴えるべくマウント行為に及ぶ人という意味である。脅したり怒鳴ったりいろいろだけど、子どもが泣いてもいないのに「煩い煩い煩い」と言われたりして意味不明であり、身の危険を感じたことも多々ある。

しかし、意識してコワモテな格好で出歩くと明らかに様相が違うのだから驚きなのである。だいたい筆者は図体がでかく目つきが悪いのでその特性を活かし、更に感じの悪いパンクロック、ミリタリー、国籍不明テイストをドス黒く交え、サングラスをかければ画竜点睛。まるで魔除けのように作用する。これは痴漢除けにも応用できるというか既に実用している方も多かろうが、本当に効くのでお勧めだ。

また「ゆるふわ愛され系」は、これもマウントの一種であろうが、どうでもいい説教禍にも遭い易いので注意されたい。

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用事があってコンサバな出で立ちで電車遠出した帰途、筆者は娘たちを同じ車両のあちこちの空き席に座らせ、自分は赤ん坊を抱いて優先席にボケーっと座っていた。そこに後から来た見知らぬ女性から、約1時間に渡って「最近の若いお母さんは世間知らずで云々」という愚痴を聞かされる羽目に陥ったのだった。

話を聞くうち、どうやらこの女性の息子の嫁さんか何かが難で、その鬱屈から「誰かれ構わず新米母とあらば釘を刺しておきたい」との無差別説教欲求があるらしい様子に気づいた。うへぇ参ったなあとは思ったのだが、赤子は重いし席を立つのもつらいし、何より面倒臭いので素直にハァハァと1時間、頷いていたのである。

そのうち筆者の最寄り駅に近づき、散っていた上の娘達が「お母さん、荷物持つよー」などと寄って来た。母に似たか長女のほうは小3にして144センチ、小柄な大人の女性なみの背丈があり良い労働力になる。「頼むわこのバッグ…」と、この様子を見た説教おばさん、目を白黒させ「え?コレ誰?」そして「なにコレあなたの子どもなの?」と人んちの子をコレ呼ばわりした挙句「なんなの!」と怒り出した。

えー。

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後味悪く電車を降りてから、ことの仔細を娘たちに話して「お母さんさぁ、なんか悪かったかね?」と訊いた。

9歳の長女は言った。「若く見られちゃったんじゃなぁい? 今日珍しくお化粧してるしー」
「ホント!? 若い!?」おろかに喜ぶ母。

「まあね、お母さんがもうちょっと疲れてさあ、グッタリして、ボロボロで、汚ければ、怒られなかったんじゃない?」

「いつもみたくねー!」と5歳の次女。

「……。」


コスプレでもオカマでも、もうこの際、構わない。
筆者は小汚いお母さんであるより小綺麗な「おかあさま」に、なりたい……。


藤原千秋藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。9歳5歳1歳三女の母。