「専業主婦は働いていないのか?」「子育ては仕事じゃないのか?」
4年に一度の大統領選挙を今秋に控えたアメリカで、先週末、ツイッター上のバトルが繰り広げられた。

発端は、今月11日のテレビの生放送番組で、再選を目指す民主党のオバマ大統領陣営の選挙戦略担当ヒラリー・ローゼン氏が、共和党の候補者指名獲得がほぼ確実となったロムニー氏のアン夫人を、「人生で一日たりとも働いたことがない専業主婦」だと発言したこと。

これに対して、アン夫人が同日、ツイッターにデビューし、「私は自ら家庭に入る選択をして、5人の息子を育て上げた。それは間違いなく大変な仕事だった」と応戦。全米中の主婦たちが同調し、たちまちフォロワーが1万人を超えるなど、専業主婦蔑視のローゼン発言が集中砲火を浴びることになった。

慌てたオバマ陣営は、火消しに躍起。大統領のブレーンたちが次々とツイッターに批判コメントを投稿すると、ミシェル・オバマ大統領夫人も、「どの母親も一生懸命働いているし、どの女性も敬意を払われてしかるべきだ」とつぶやいた。

ついにはオバマ大統領までも、「母親は最も大変な仕事だ」とコメントすると、当初、弁明を試みていたローゼン氏本人も、ツイッターで「専業主婦の母親たち、アン夫人に深く謝罪します」と完全降伏に追い込まれた。


5人の息子を育て、現在は孫が16人いるというアン夫人だが、いわゆる「肝っ玉母さん」のイメージとはちょっと違う。なにしろ、夫は、資産2億ドル(約160億円)といわれ、共和党の候補者指名争いでも貧困層への無配慮ぶりがしばしやり玉にあがったほどの大金持ちなのだ。それゆえアン夫人に対しても、これまでは庶民感覚とかけ離れたイメージが先行していたのも事実。

一方、弁護士をしながら2人の娘を産み育てオシャレにも手を抜かない、まるでファッション雑誌のお手本のようなミシェル夫人。彼女の人気ゆえか、これまでは女性票に強いとされてきたオバマ陣営だが、ローゼン発言によって、母親の支持層が一気にロムニー陣営に傾く可能性が指摘されている。

金持ちもそうでなくても、ワーキングママも専業主婦も、子育て中の母親ならばだれでも、子育ての大変さは身に染みているはず。11月に本番を迎える大統領選挙。女性票の獲得が焦点となる中、「子育ては仕事じゃない」発言が踏んでしまった「地雷」は、あまりに大きかったのか–––。


恩田 和(Nagomi Onda)恩田 和(Nagomi Onda)
全国紙記者、アメリカ大学院留学、鉄道会社広報を経て、2010年に長女を出産。国内外の出産、育児、教育分野の取材を主に手掛ける。2012年5月、南アフリカのヨハネスブルグに移住予定。アフリカで子育て、取材活動を満喫します!