今年1月、東京・練馬に日本初、ハイハイ前の乳児ママのための漫画ルームがオープンしたと聞き、見学に行ってみた。

練馬駅前商店街のはずれの一角にあるその場所は、「練馬ママ漫画ルーム よんこま」。元は倉庫だったという地下スペースを改装した24畳ほどの空間に、約400冊の漫画が並ぶ。グリーンを基調にしたインテリアは一見、ちょっとオシャレな漫画喫茶のようだが、ここで漫画を読んでいるのは、全員、ハイハイする前の赤ちゃん連れのママたちなのだ。

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カーペットの上に赤ちゃんを寝かせて漫画に没頭するママ、片手で授乳しながらもう片方の手で黙々とページをめくるママ、抱っこひもであやしながら立ち読みするママ。持ち込んだおやつや飲み物を囲んで談笑するママたちも。

ゆるーい空間で自由気ままに過ごすママたち、穏やかでとってもいい顔をしている。だからか、赤ちゃんたちもみんなニコニコ。時折ぐずる赤ちゃんがいても、誰も気にしない。

「ママなのに漫画なんて」という風潮を感じた


IMG_8380そんな光景を温かく見守るのが、代表のうえきあやこさん(37)。5歳の男の子と1歳の女の子のママでもあるうえきさんが「よんこま」をオープンさせたのは、なにより、「ママのための娯楽の場所を作りたかったから」。

手のかかる赤ちゃんの世話に明け暮れていた第一子の子育て中、好きな漫画を読んでリフレッシュしたくても、「『ママなのに漫画なんて』という風潮を感じた」という。でも、ママだって漫画が好き。自宅に遊びに来たママ友たちが、うえきさんの漫画コレクションに歓声をあげ、夢中で読みあさる姿を見て、ニーズを確信した。

10年以上、開発系の仕事に携わってきたが、第二子の育休中だった昨年に一念発起。乳児のママたちが安心して赤ちゃんと過ごせる安全な漫画ルームで、障害者やシニアを雇用するという、それまで温めてきたアイデアが内閣府地域社会雇用創造事業の支援対象となったのを機に、「よんこま」設立に向けて動き始めた。

娯楽の少ない時期だからこそ、漫画を楽しんでもらいたい


IMG_7314対象をハイハイ前の赤ちゃんのママと妊婦に限定したのは、娯楽の少ないその時期のママたちに気兼ねなく、思う存分、漫画を楽しんでもらいたいから。確かに、児童館など公的な親子の居場所では、歩ける月齢の子どもも多く、乳児のママはひやりとすることも。「期間限定だからこそ、罪悪感なく楽しんでもらえれば。ここでは良いママでなくていい、ぐうたら漫画を読んでいいんです」とうえきさん。

6ヵ月の息子と週に一回は通っているという向笠ひとかさんは、「安心して漫画の世界に入り込めるので、いい息抜きになる。続きが読みたいから、早起きしてまた行きたいと思う」と満足そう。同じく6ヵ月の娘と通う斉藤陽子さんも、「家にいるより落ち着くし、子どもと一緒に出かけられる場所があるのは幸せ」。25巻の長編シリーズを読破したという。


さらに、うえきさん自らが講師となり、週3日、ベリーダンスやアクセスソフトの講習も開講。よんこまの利用料は1時間500円、2時間以上一律1000円なので、午前中の講習を受けた後、閉店まで漫画を読んで過ごすママが多いという。

早くも地域に欠かせないスペースになりつつある「よんこま」。将来的には、商店街の空き店舗や高齢者の一軒家の空き部屋を活用する形で店舗を広げ、ママたちには漫画の娯楽を、障害者や高齢者には雇用の場を提供していきたいと語るうえきさん。彼女の周りにまたたくさんの笑顔を広がっていくのだろうな、とうれしくなった。

練馬ママ漫画ルーム「よんこま」
東京都練馬区桜台4—21—3 
営業時間 10時30分—15時30分
定休日 土・日・祝日
料金 1時間以内500円、2時間以内800円、2時間以上1000円
練馬ママ漫画ルーム「よんこま」Twitter @yoncomama


恩田 和(Nagomi Onda)恩田 和(Nagomi Onda)
全国紙記者、アメリカ大学院留学、鉄道会社広報を経て、2010年に長女を出産。国内外の出産、育児、教育分野の取材を主に手掛ける。2012年5月より南アフリカのヨハネスブルグに在住。アフリカで子育て、取材活動を満喫します!