「え?小学校こっちじゃなかったの?」
来年小学生になる息子の母は、のん気にもつい最近気づいた。通うと思っていた小学校の通学区域と自分の住所が、ぎりぎりの線で違っていたのである。実際には、学校選択制のある区(東京都)なので、隣の学区の学校でも構わない。でも、違うとわかると一応該当学区の学校も気になる。6月は学校公開シーズン。とりあえず、両方見ておこう。
しかし、まぁ、よりによってタイプが違う。
片方は全学年2クラスの「規模の大きい」学校。6クラスが当たり前の時代と地域で育った私の感覚では2クラスだって十分小さいが、この辺ではこれでも大きい。もう一方は1学年1クラス。しかも現1年生のクラスの人数が20人ちょっとという少なさ。
両方見てしまって、「好きな方を選んでどうぞ」と言われると、これが迷う。困った。
学校選択制といっても、実際には極端に遠い学校にわざわざ行かせようと思う親はあまりいない。「どっちもたいして遠くない距離」にある場合に、迷って該当学区とは違う方を選ぶのがよくあるパターンだ。
「通学路が安全だから」「友だちが多いから」という個々の事情ではなく、学校の特徴で選ぶ人の場合、「やっぱり小さすぎるのは……クラス替えできるくらいの規模じゃないとね」というのが、よく聞く理由だ。規模が大きいところは、地名のブランド力なのか風評なのかプラスの評価が高い場合も多く、それに左右されているケースもありそうだ。
これによって、現実に何が起きているのか。
2年前、ある小学校の新入学者数が数人しかいないという事態になった。一方その隣の小学校では、2クラスが成立。自由に選んで一方に人気が集中すると、こんな極端な人数格差が生まれる。事前に希望者が少ないと知って、さらに他校に流れた可能性もある。
ここまで顕著ではないにしても、隣接する学校間には「多い方により人が集まる」人流れ現象がおきやすい。
単学級で人数が少ないことのプラス面はもちろんある。ただ、学校が小規模すぎると、多様性・社会性を学ぶ機会に乏しくないか? 集団でしかできない活動に支障がないか? 教員数が少なく業務負担が増えないか?など、マイナスの影響が大きくなることも指摘されている。
区も、小学校はクラス替えのできる、1学年あたり2~3学級が適性規模だと方針に明記している。親の方は子どもの人間関係が固定することを危惧する傾向にある。つまり、「何かトラブルがあった時にクラス替えすらできない規模だときつい」と考えるのだ。
教育方針以前の問題として、児童数というのは学校の特徴にかなり大きな意味を持っているということになる。
私のように「選べるとなると迷う」という人は結構多い。この層は、選べなければ素直に学区の学校に通わせることに抵抗がない。この浮動票ともいえる層の動きが学校間の人数格差を不安定な天秤のようにゆらゆら揺らしているのではないだろうか。
「選べること」のメリットを本来必要としている人は、選択制が導入される前から、申請をして越境入学させていたはずだ。
そもそも学校選択制が導入されたのは、保護者や子どもが「選択できる」ようにするためだけでなく、「特色ある教育活動」や「開かれた学校づくり」をするためという意味があった。選ばれる緊張感を持って学校経営をせよ、ということなのだろう。
でも、教育活動の特色に惹かれてあえて学区外の学校を選んだ、という声はあまり聞かない。一方、「噂」や「イメージ」は簡単に人を集めるし、遠ざける。
特色のある開かれた学校というのは大歓迎で、積極的に取り組んで欲しい。ただ、それを「選んでもらうため」にやる必要はない。
むしろ、公立の学校の場合、区内どこの学校でも同じクオリティの教育を受けられるという環境を保証することの方が、ニーズにあっているのではないだろうか。
私立とは違い、何より親の収入格差に関係なく一定の質の教育が受けられるというのはとても貴重で重要なことだ。安心して学区の学校に通わせられる土壌があってほしい。
それにはまず極端な人数格差を無くすこと、これは大切な条件のひとつだと思う。学校選択制が浮動票を生み出し人数格差を助長しているならば、選択制は果たして必要なのだろうか。
区は、問題の是正に着手した。来年度の新入生からは、一部の学校を「選択できない学校」に設定し、「兄弟姉妹優先枠」の段階的な撤廃を開始する。学校選択制フェイドアウト、となるのかどうか。
息子には、大人数の環境でもまれて欲しいと思う一方で、のんびりタイプには少人数が合うのかも、と思ったり。
「通学路は……」「知っている人が多いのは?」いろいろ想像するほど、結論が出ない。堂々巡りの母に、息子がぽつり。
「ぼく、うさぎがいる学校がいいなぁ」
え? あ、そう。あぁそうなの。まぁそうだよね。そんな風に考えた方がいいよね。
うさぎ、いたかなぁ…… 。
来年小学生になる息子の母は、のん気にもつい最近気づいた。通うと思っていた小学校の通学区域と自分の住所が、ぎりぎりの線で違っていたのである。実際には、学校選択制のある区(東京都)なので、隣の学区の学校でも構わない。でも、違うとわかると一応該当学区の学校も気になる。6月は学校公開シーズン。とりあえず、両方見ておこう。
しかし、まぁ、よりによってタイプが違う。
片方は全学年2クラスの「規模の大きい」学校。6クラスが当たり前の時代と地域で育った私の感覚では2クラスだって十分小さいが、この辺ではこれでも大きい。もう一方は1学年1クラス。しかも現1年生のクラスの人数が20人ちょっとという少なさ。
両方見てしまって、「好きな方を選んでどうぞ」と言われると、これが迷う。困った。
選択する理由とその実態
学校選択制といっても、実際には極端に遠い学校にわざわざ行かせようと思う親はあまりいない。「どっちもたいして遠くない距離」にある場合に、迷って該当学区とは違う方を選ぶのがよくあるパターンだ。
「通学路が安全だから」「友だちが多いから」という個々の事情ではなく、学校の特徴で選ぶ人の場合、「やっぱり小さすぎるのは……クラス替えできるくらいの規模じゃないとね」というのが、よく聞く理由だ。規模が大きいところは、地名のブランド力なのか風評なのかプラスの評価が高い場合も多く、それに左右されているケースもありそうだ。
これによって、現実に何が起きているのか。
2年前、ある小学校の新入学者数が数人しかいないという事態になった。一方その隣の小学校では、2クラスが成立。自由に選んで一方に人気が集中すると、こんな極端な人数格差が生まれる。事前に希望者が少ないと知って、さらに他校に流れた可能性もある。
ここまで顕著ではないにしても、隣接する学校間には「多い方により人が集まる」人流れ現象がおきやすい。
人数が少ないことはマイナス?
単学級で人数が少ないことのプラス面はもちろんある。ただ、学校が小規模すぎると、多様性・社会性を学ぶ機会に乏しくないか? 集団でしかできない活動に支障がないか? 教員数が少なく業務負担が増えないか?など、マイナスの影響が大きくなることも指摘されている。
区も、小学校はクラス替えのできる、1学年あたり2~3学級が適性規模だと方針に明記している。親の方は子どもの人間関係が固定することを危惧する傾向にある。つまり、「何かトラブルがあった時にクラス替えすらできない規模だときつい」と考えるのだ。
教育方針以前の問題として、児童数というのは学校の特徴にかなり大きな意味を持っているということになる。
そもそも選べなければ悩まない層
私のように「選べるとなると迷う」という人は結構多い。この層は、選べなければ素直に学区の学校に通わせることに抵抗がない。この浮動票ともいえる層の動きが学校間の人数格差を不安定な天秤のようにゆらゆら揺らしているのではないだろうか。
「選べること」のメリットを本来必要としている人は、選択制が導入される前から、申請をして越境入学させていたはずだ。
学校間の競争よりも平等であることを求む
そもそも学校選択制が導入されたのは、保護者や子どもが「選択できる」ようにするためだけでなく、「特色ある教育活動」や「開かれた学校づくり」をするためという意味があった。選ばれる緊張感を持って学校経営をせよ、ということなのだろう。
でも、教育活動の特色に惹かれてあえて学区外の学校を選んだ、という声はあまり聞かない。一方、「噂」や「イメージ」は簡単に人を集めるし、遠ざける。
特色のある開かれた学校というのは大歓迎で、積極的に取り組んで欲しい。ただ、それを「選んでもらうため」にやる必要はない。
むしろ、公立の学校の場合、区内どこの学校でも同じクオリティの教育を受けられるという環境を保証することの方が、ニーズにあっているのではないだろうか。
私立とは違い、何より親の収入格差に関係なく一定の質の教育が受けられるというのはとても貴重で重要なことだ。安心して学区の学校に通わせられる土壌があってほしい。
それにはまず極端な人数格差を無くすこと、これは大切な条件のひとつだと思う。学校選択制が浮動票を生み出し人数格差を助長しているならば、選択制は果たして必要なのだろうか。
選択制はどこへ行く?
区は、問題の是正に着手した。来年度の新入生からは、一部の学校を「選択できない学校」に設定し、「兄弟姉妹優先枠」の段階的な撤廃を開始する。学校選択制フェイドアウト、となるのかどうか。
息子には、大人数の環境でもまれて欲しいと思う一方で、のんびりタイプには少人数が合うのかも、と思ったり。
「通学路は……」「知っている人が多いのは?」いろいろ想像するほど、結論が出ない。堂々巡りの母に、息子がぽつり。
「ぼく、うさぎがいる学校がいいなぁ」
え? あ、そう。あぁそうなの。まぁそうだよね。そんな風に考えた方がいいよね。
うさぎ、いたかなぁ…… 。
狩野さやか ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。 |