ロンドン五輪開会まで、あと1日。聖火もロンドン市内へやって来て大詰めとなり、なでしこの活躍が期待される女子サッカー予選第一戦は開会前に開催と、秒読み感が高まる。

そんな中、ロンドン五輪の巨大スポンサーであるP&Gが打ち出した『Thank you, Mom』キャンペーンのCM動画がフェイスブックや動画サイトで大きな話題となっているのをご存知だろうか。
https://www.facebook.com/thankyoumom

4月に公開された第1弾CMは「世界で一番素敵な仕事」( http://youtu.be/NScs_qX2Okk )。オリンピック選手となる子どもたちを幼いときから支え続け、その生活と成長を見守って来た母親たち。オリンピックスタジアムで勝利を手にして満場の歓声を浴びる選手が、それぞれに母に感謝のジェスチャーを送り、それを見つめる母親が涙を流すというCMだ。

白人、黒人、アジア人にラテンと、様々な人種にまんべんなく配慮した作りとなっているところも、さすがグローバル企業の「政治的正しさ」である。

そしてこのたび7月に公開された第2弾は、「KIDS 2012」 ( http://youtu.be/zRaQRbAxXaA )。まだあどけない表情をした子どもたちが、五輪スタジアムで、五輪記者会見場で、オリンピック選手としての責を全うする。

選手控え室でそれぞれの競技の出番を待つプレッシャーを乗り越え、幼い彼らが「跳ぶ」その瞬間を見守って息を呑むのは、その母親だ。競技に出場するのはもちろん子どもではなく、選ばれた立派な大人の選手のはずだが、「母親にとって(たとえそれがオリンピック選手であっても)子どもはいつまでも子どもなのです」というテロップが流れ、すべて「母親ビュー」であったことがわかる。

「P&Gはママを(誇りをもって)応援します」というナレーションで締めくくられるこの2本のCM、公開から既に米国版だけで再生数は計720万回にも達し、UK版やインド版を始め、世界展開しているすべてのバージョンを足すとどのくらいになるのか見当もつかない人気ぶりだ。

このCMに対して、多くの視聴者がそれぞれ子どもの立場や親の立場で「泣いた」「これ大好き」とコメントを寄せているところを見ると、世界最大の一般消費財メーカーP&Gのマーケティング戦略の威力と実力を思い知らされずにはいられない。

家庭用洗剤やオムツ業界の巨人が「ママの公式スポンサー」なるキャッチコピーを連呼することに違和感や疑問を覚える向きもあると確信するが、ひとまずこのCMで、オリンピック選手の背後にある「成長の歴史」とそれを支えた人々の存在を意識してみるのも、悪くない。


河崎環河崎環
コラムニスト。子育て系人気サイト運営・執筆後、教育・家族問題、父親の育児参加、世界の子育て文化から商品デザイン・書籍評論まで多彩な執筆を続けており、エッセイや子育て相談にも定評がある。現在は夫、15歳娘、6歳息子と共に欧州2カ国目、英国ロンドン在住。