先日、41歳の若さで亡くなった流通ジャーナリストの金子哲雄さん。
テレビで愛嬌たっぷりにお得情報を話す姿を、覚えている方も多いだろう。

私にとっての金子さんのイメージは、テレビで値切っている人ではなく、ビジネス書ライターだった。著作は何冊か持っている。亡くなってから、まだ持っていない数冊を購入した。その中の『ボクの教科書はチラシだった』(小学館)が、育児や教育論として面白かったのでご紹介したい。
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「はじめてのおつかい」が一生の仕事を決めた


3歳の時、金子さんは200円を持って「何でもいいから買ってらっしゃい」と母親に送り出された。そこで、大好きなメロンパンを買おうとスーパーに行く。いつもは120円のメロンパンが、その日は100円!3歳ながら「いつもより安い!2個買える!」と気づき、買って帰ったところ母親にほめちぎられたそうだ。
「『えらい!』『すばらしい!』『機転がきく!』『天才!』とほめまくられ、ボクは、うれしくてうれしくてたまりませんでした。と同時に、『同じものでも、いつもより安くなることがある』『安いときに多く買っておくことは、いいことなんだ』ということが、ボクの脳にインプットされたのです」

3歳の時に親に大絶賛されたことが、金子少年の興味を「買い物」に向かわせる。
そして、「流通ジャーナリスト」「国際値切りスト」を生み出す「金子家流子育て」は続く。

 小3の時、金子さんは「買い物担当大臣」を命じられた。
 母親に毎日、買い物リストとお金を渡されて買い物に行く。
 そのお釣りが、小遣いになるというシステム。

1円でもお金を残したい一心で、金子少年はチラシを真剣にチェックする。

登校前の短い時間で、渡された予算と買い物の合計額を計算し、卵の価格と個数を割り算して単価を確かめる。その作業を繰り返す中で、暗算に強くなる。「青森産りんご」の意味が知りたくて漢字を覚え、地図を眺める……子どもの「知りたい!」欲望を駆り立てる仕掛け、責任の持たせ方、「買い物担当大臣」という楽しい命名。そのアイデアには、元塾講師の私もうなってしまう。

我が家でも「おそうじ担当大臣」に4歳の娘を就任させようか……と考えてみて「あー無理無理」と首を振ってしまった。あれ?子どもの能力や可能性を一番信じていないのは、ひょっとして自分?

形だけほめるのではなく、子どもを信頼すること。
 
このエピソードを読んで、まだまだ私は親として胆が座ってないなと反省した。

「一生、お金に困らない人になってほしい」という願い


金子家では徹底した節約と経済教育をほどこしながら、必要であれば教育費はケチらなかった。その理由を語る、父親のセリフが不況ニッポンで育児中の親にドスンと響く。

「テツオ、お前には一生、お金に困らない人になってほしい。しかし、うちはサラリーマンだから、それほど財産を残せるわけではない。たとえ、少しばかりのお金を残したところで、その価値がゼロになってしまう可能性もある。でも、教育費なら出せる。だから、お金を出せるノウハウを勉強しなさい」

子どもにどんな大人になってほしいか。
 感性豊かで優しく賢く……と並べ立てたところで、大前提として「お金」が無ければ暮らせない。

「一生、お金に困らない人になってほしい」

そうだ、本音はそうだ。

チャップリンの言葉も合わせて思い出す。

「人生に必要なものは、愛と勇気と少しのお金」


父親の願いである「お金に困らない」を「大金を稼げること」ではなく「少ないお金でハッピーに暮らす」工夫や考え方だと解釈し、金子少年は知識を蓄えた。そして、「買い物」をテーマに稼ぐプロになった。3歳の時に母親に「天才!」とほめちぎられた経験を胸に刻んで。

金子少年がウキウキと語りかけてくれた、1時間の読書。

本を閉じて、改めて彼の不在を思う。
そして、子どもに先立たれた親の悲しさを。

父親はこんな言葉で息子を送ったと、ニュースで見かけた。 
 
「学生時代から忙しい男で、1日が24時間でも足りないという生活をしておりました。人の年齢にしたら80歳まで生きたのと同じぐらいの記憶を私たちに残してくれた」
(スポーツニッポンの記事より)
 
お金も人生の時間も、いくら持っているかではなく、どれだけ濃い使い方ができるか。
41年間、金子さんの人生はぎっしり「お得」で詰まっていた。

……棺には、亡くなるまで大好きだったメロンパンが入れられたそうだ。

私はどんな人生を、子どもに贈ってやれるだろう。

『ボクの教科書はチラシだった』(金子哲雄 著/小学館)


山口照美山口照美
広報代行会社(資)企画屋プレス代表。ライター。塾講師のキャリアを活かしたビジネスセミナーや教育講演も行う。妻が家計の9割を担い、夫が家事育児をメインで担う逆転夫婦。いずれ「よくある夫婦の形」になることを願っている。著書に『企画のネタ帳』『コピー力養成講座』など。長女4歳・長男0歳(2012年現在)