中学受験シーズンが本格的なピークを迎える。とくに首都圏の私立中学のなかでも、開成と麻布の二校は「男子御三家」とも称され、人気・難易度ともにトップレベルであることはもちろん、政治・経済・法律・医学など、各界をリードするエスタブリッシュメントを輩出する名門校である。

そんな両校を代表して、「開成番長」の異名をとる、進学塾「TESTEA」塾長・繁田和貴氏と、麻布出身で『男子校という選択』(日本経済新聞出版社)をはじめ、中学受験にまつわる著書多数の教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏のお二人に、知られざる出身校のエピソードと男子校の魅力について大いに語っていただいた。


―― まずはそれぞれ自己紹介をお願いします。

おおた:現在、育児・教育に関する執筆や講演活動をフリーでやっております。元々は新卒でリクルートに勤めておりまして、そこでは海外旅行誌の編集を8年間やっていました。

麻布に進学したきっかけですが、たまたま祖父が麻布出身だったんです。で、小さい頃から、「ここはじいちゃんの学校なんだぞ」と言われ、連れていってもらったりとかして。そんな流れで自然と中学受験をするムードになっていったというか、母親の誘導だったというか(笑)。ただ、「麻布以外だったら行くな」みたいな話で、結局麻布しか受けなかったんですよ。

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おおたとしまさ
1973年生まれ、リクルート勤務を経て現在は教育ジャーナリスト。『中学受験という選択』、『男子校という選択』、『女子校という選択』(以上3点、日本経済新聞出版社)、『男の子 育てにくい子ほどよく伸びる』(主婦の友社)、『13歳からの男の子の育て方』(PHP研究所)など、育児・教育をテーマにした著書多数。各地で講演活動を行うかたわら「パパの悩み相談横丁」を主宰、いまどき子育てのオピニオンリーダー的存在である。 【 パパの悩み相談横丁


繁田:僕は親の転勤の都合で、幼稚園を卒園する直前にアメリカに移り住み、小学3年のときに日本に戻ってきた帰国子女です。日本に戻ってから親戚に、「塾って楽しいよ」みたいな話をされ、知的好奇心は旺盛だったこともあり、「楽しいならやってみるかな」と。ちょうど当時はSAPIXが設立されたばかりの頃で、中学受験をするにあたって先生方には手厚く面倒を見てもらいました。

開成ではアップダウンの激しい生活を送りまして、ここでは言えないようなこともたくさんあったのですが(笑)、結局一浪したのち東大に入りました。でも入ったはいいけどそこで目標を見失い、授業をサボって麻雀やパチスロに明け暮れて、留年も複数回経験し(苦笑)、人生を挫折しかけたんです。「卒業したらパチプロでしばらく暮らそうかな」なんて。でも卒業する直前になって自分のありようを見つめ直し、できることを追求した結果、「自分で塾を始めちゃえばいいんだ!」と思い立ち、個別指導塾「TESTEA」を設立しました。2006年のことです。

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繁田和貴(はんだ・かずたか)
1979年生まれ、東大経済学部卒。開成中学・高校在学中は派手な遊びが過ぎて退学寸前に追い込まれるなどやんちゃな青春時代を過ごし、「開成番長」の異名をとる。大学進学後は目標を見失い、留年を繰り返すなかで挫折を味わう。自らの苦い経験から、生徒に同じ回り道をさせぬよう「自立」を理念に掲げた個別指導塾TESTEAを設立。現在は久我山に2校舎、西永福に1校舎を運営するかたわら、執筆活動やメディア出演多数。著書に『開成番長の勉強術』(白夜書房)ほか。 【 個別指導塾TESTEA


―― どうしてそんな挫折があったのでしょうか?

繁田:もともと東大に入るモチベーションに強いものがなくて……。これは開成という学校にいたことの、ある意味で弊害なのかもしれませんけど、周りがみんな「東大に行こう」みたいなムードになっているから、「俺も行きてえな」くらいの感じでしかなかったんですよ。行って何しようとか、将来どうしようみたいなのは全然なかったんです。

でもそんな自分に強いモチベーションを与えてくれたのが、東大に合格したら付き合ってくれるって約束した女の子でした(笑)。でも、実際に合格して付き合っちゃったら、もうそれで「達成」なので、何もやる気がなくなっちゃって……。

結局彼女には愛想を尽かされ振られてしまい、その後はパチスロを極めるべく毎日パチンコホール通いを続ける、セミプロみたいな生活をしていました。当然就活もいっさいせず……という有り様で。まっとうな道からは完全に目を背けていました。

しかし卒業する直前になって、ある時ふと、「こんな生活のままでいいんだろうか。自分ってなんでこうなっちゃったのかなあ……」と振り返る機会がありました。

その時思ったんです。結局自分って、テストで点数を取ることだけに目が向きすぎていたんですよ。その先に何があるとか、そういう意識を全然持っていなくって。本当の勉強の意義を何にもわかってなかったんです。で、「これ、まずいじゃん」と。

でも、そういう自分のダメだった部分って、本当は受験勉強をしながら教えられるはずだし、もっと大事な部分、社会に出たら役立つ力や考え方を育てることもできるはずだと思って。そういう思いで自分で塾を始めました。

―― 中学・高校時代の思い出について教えてください。

おおた:麻布は私服登校が認められていたのですが、ぼくは標準服を着て通っていました。いわゆる詰襟の学生服です。当時は半分くらいの学生は標準服でしたね。半分は私服で、もう半分の面倒くさがり屋が、標準服。ぼくはその面倒くさがり屋の方でした(笑)。でも、自転車通学だったので、もうなんでもよくってね。

学校行事では文化祭が一番盛り上がりました。1日1万人くらい来るんですよ。だから、マイナーな国の年間旅行者数よりも多いみたいな(笑)。で、もちろん男子校だから、女子校の子たちがやってくる。うちだと東洋英和とか聖心とか慶應女子とか。文化祭が電話番号を交換する唯一のチャンスでしたから、それは大いに盛り上がりましたね。

繁田:うちはやっぱり運動会ですね。開成の運動会はテレビでも何度か紹介されているように、入学直後の5月に催される一大イベントです。小学生時代の、敬語っていうものが基本的に存在しない状態から、いきなり強烈な「シメ」で上下関係を叩き込まれるんですよ。それが強烈なインパクトというかカルチャーショックで。

でも実は先輩たちの行動は、自分たちのことを思ってのことなんだっていうのが、運動会の一連の流れの中で分かってきて、それが強い絆となり当日のあの熱い戦いにつながります。そして自分が上の立場になったら、今度はそれを下に伝えていく。駆け引きや打算のない、男同士の熱い師弟関係や友情。ここに開成の良さが集約されていると思います。

―― 学校の先生は?

繁田:たしか定年が70いくつとかなんで、化石みたいな高齢の先生もいるんですよ(笑)。もう見るからに「大丈夫?」みたいなかんじで、おそらく何十年も使っているような手書きのプリントを配ったり……。いわゆる名物教師です。当時も今も、開成は3分の1から半分くらいがOBの教員なので、学校全体で愛校心が強いというのはありますね。

おおた:長くいられる教員の方々が風土を守って愛校心を育んでいる、というのはたしかに私学の魅力ですよね。

―― 男子校ならではのエピソードはありますか?

おおた:日常的に馬鹿話ばかり話していましたよね。誰かがエッチな本を持って来ては回し読みしたり……。

繁田:たしかに、そうでしたね(笑)。本だけじゃなくてビデオも。あとは競馬とか、そうした賭け事系の話題でも盛り上がったかな。あ、時効ということでお願いします(苦笑)。

おおた:それと、女の先生がいようものなら容赦なくからかってしまうんですよ。でも男子としてはギャグのつもりでやっているんだけど、そんなに傷つけちゃうんだっていうのが分からなかった。男子校らしい鈍感さというか、無神経さというか……。
ちなみに僕の頃には女の先生はひとりもいなくて、この話は後輩から聞いたエピソードですけどね。

―― 男子校という独特の環境の魅力って何でしょうか?

おおた:全国にある高校が5千数百校で、そのうち男子しかいない学校って130校ほどしかない。つまり2~3%程度の希少種なんですね、男子校出身者って。

いまの子育てって、しつけをちゃんとしなきゃとか、社会性を小さい頃から求められたりしてるんですが、むしろ子どもなんだから、やんちゃでワーってやってて、あとから丸くなっていけばいいじゃないの、最初は思いっきりその子らしさを伸ばしてやんなよ、って思うんです。

で、共学か男女別学かっていうところでいうと、同じことが言えるかなと思っていて。別学で、男子校だからこそ、さっきの女の先生をからかったりじゃないけど、社会的な感覚とずれちゃうところとかってのはあるかもしれません。ただ、いびつではあるけれど、その子らしさがそのまんま素直に出せる。なんの遠慮もなく。

ただ、後から、ここがいけないんだ、あれがいけないんだ、みたいなことが分かってくる。失敗して分かっていくっていうのでしょうか。それが、もしかして共学だと、女子にも気を遣いながら、ある程度の枠の中でやんなきゃいけないのかなって思います。

よく学校は社会の縮図であるべきだから、男女が一緒にいるべきだ、みたいな、そういう論理もあるんですけど。じゃあ仮にそうだとすると、教室の中に、いま既にある社会の、たとえば男らしさ・女らしさ、男の役割・女の役割とかっていうような既存の常識が、そのまんま教室の中にも持ってこれちゃう。でも男子校にはそれがないんですよね。男だけであるがゆえに。

これ男か女かっていう話だけですけど。そういう既存の常識みたいなものっていうのがまったくない環境の中で、男同士遠慮なく、ずばずば物を言えるし、っていうようなところですね、とくに男子校は。

例えるならば、素っ裸で入る温泉が好きか、水着を着けて入るクアハウスが好きか、その違いかなって気がしています。

向き不向きで言えば、ちょっと汚くても男だけの方がリラックスできていいわ、っていう子が男子校向きなのかな。で、ちゃんと水着を着けて、男も女もいるんだけど、それなりにそれぞれマナー守って、設備もある程度綺麗で、みたいな方が好きなら、共学向きなのかもしれません。

いずれにしても、ぼくにとっては学校って精神的に裸になれる空間でした。実は物理的にも裸になったりする奴がいるんですけどね、意味なく(笑)。

遠慮がいらない、なにも隠さなくてもよくて精神的に素っ裸になれる。でも女の子がいたら、やっぱりそうあることはなかなか難しいだろうなと思います。

繁田:非常に同感ですね。男子校にいると遠慮がいらないっていうのが、やっぱりすごく大きかったです。中高の時期って男子だけの方が楽しくやれるんじゃないかと思っています。

ただ、そういう場所で育ってしまうと、女子のいる環境に行ったときに、うまく立ち振る舞えないっていうのは、卒業後のある時期、ずいぶんと抱えた悩みではありますね。なんか女子の前ではどうしても格好付けてしまうというか意識してしまうというか……。

女子の中で上手くやれるヤツを見ていると、それはそれで羨ましいな、とか思うわけですよ。ただ、どっちがいいかは分からないけど、男子校にいると、男同士の粋な付き合い方のようなものが、より身に付くのではないかと思います。

今となってはいろんな方面で活躍している同級生がたくさんいて、そうした仲間たちとかつて損得ない時代にいろいろやり合っているわけじゃないですか。だから大人になった今でも損得勘定なしに付き合っていけるというか。

他の学校は知らないので一概には言えませんけど。たとえば共学出身で卒業後もつながっている関係性の強さより、男子校出身者のつながりって強い気がします。

―― お子さんの進学先を考えるなら?

繁田:うちは今女の子だけですが、男だったらやっぱり男子校に通わせたいですね。女の子は……ちょっと分からないです、感覚として。別にどっちでもいいかなって思っています(笑)。ただ男の子だったらぜひ開成に行かせたいですね。

おおた:男だから男子校とは思わないんだけど、少なくともウチの息子は男子校向きだろうなとは思います。枠にはめられるのが苦手なタイプなので。でも、男子校は難関校ばかりになっちゃったからなあ……。もちろん母校に行ってくれたら一番いいとは思いますけど。

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【 対談を終えて―― 】

教育ジャーナリストでもあるおおたさんによると、OECDによるPISA(学習到達度調査)における男女差は、世界平均においても、圧倒的に女の子の方が平均点が高く、その差は学年にすると1年分くらいであるという。

対談のホスト役をつとめた筆者も中学からの男子校出身者であるが、男子校というある意味動物園のような環境で、男子という生き物たちを保護しながら学ばせ育てることは、理にかなった一面があるのかもしれない。

現在はmixiやfacebookといったソーシャルサービスを通じて、同窓の仲間たちとのつながりを大人になっても持続することが容易になった。大切な思春期を精神的に裸の関係で過ごした仲間たちとの絆は、やがて社会に出たときの強力なネットワークであり、よりどころでもある。

今回の対談による“男子校論”をご参考いただきながら、男の子の進学先の選択肢として、男子校を好意的に捉えていただければ幸甚である。


深田洋介深田洋介
学研で学年誌や幼児誌の編集者を経て、ネット業界へ。AllAboutで育児・教育ジャンルの立ち上げ、サイバーエージェントの新規事業コンテストでは子育て支援のネットサービスでグランプリ獲得。現在は独立して、子育て・教育業界×出版・ネット媒体における深い知識と経験・人脈を駆使して活動中。編著に『ファミコンの思い出』。