首都圏の私立中学入試シーズンはピークを越え、すでに終盤戦に入っている。そんななか、秀逸な大学進学実績はもちろん、政財界はじめ各界に著名OBを多数輩出する名門校、麻布中学の入試問題がネット上で大きな話題となっている。

2月1日に行われた同校入試の理科で出題された問題は、
「(略)『ドラえもん』がすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい。」
というものだ。

ちなみにこの問題、大手中学受験塾・四谷大塚による模範解答は、
「自分が成長したり、子を作ったりするという特徴がないから」
であった。

すでに「NAVERまとめ」のページでは、20万ページビューを越え、3,000リツイート・2,000いいね!の広がりを見せている反響ぶりだ。


なぜ、このような出題がされたのか?
その要因と背景について、『中学受験という選択』『名門中学の子どもたちは学校で何を学んでいるのか』などの著書があり、麻布中学・高校出身でもある教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏による分析を緊急寄稿いただいた。
名門私立中学が入試問題に込めるメッセージ性についての解説も興味深い。

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麻布の入試においてはとんちの効いた問題が常套です。
一見奇想天外な問題でも、問題文をしっかり読めばヒントが見つけられる形式です。知識ではなく、課題発見・解決能力、論理的思考力を試す問題です。

今でこそ、「知識量ではなく、活用力が大事」などといわれる世の中になりましたが、「自ら学び、理解したことを、自分なりに表現する教育」を標榜する麻布では、1970年代後半からすでに「知識量より活用力」という方針の入試問題を出題していました。

麻布のOBには、「オレたちのときの算数の一番最後の問題。こんなのだったよな!」なんて、20年も30年も前に自分が受けた入試問題を今でも覚えている人が少なくありません。それだけ特徴的な問題が毎年出題されますし、それを楽しみにしている受験生が麻布に合格するのだと思います。

ただ、ドラえもんという「アイコン」を用いた点が、今回はたしかに新鮮でしたね。
今回は、ドラえもんが注目を集めてしまったわけですが、ほかにも“しびれる”問題が多々あります。

たとえば社会。
まずコミュニケーション形式の進化についての長文を読まなければなりません。石碑の時代にはじまり、最後は現代のSNSやブログ、動画サイトにまで言及しています。
「多数派の意見に安易に流され、少数意見をないがしろにする現在の社会の風潮」や、「インターネット上で、自分と似たような意見をもつ人同士で集まり、違う意見の集団との間に思想的な壁を作る風潮」を痛烈に批判しています。

そして、受験生の考えを問う、「正解のない問題」が課されます。
異なる意見をもつ者同士が自由に議論を交わし、理解し合うことを旨とする「麻布の教育」を、見事に表現した入試問題だと思います。

そもそも、「こういう子どもに入学してほしい。こういう教育をしたいと思っている」という学校の姿勢が表れるのが入試問題です。

いわば入試問題は学校から受験生への公開ラブレターです。そのラブレターを読み解くために、受験生は勉強するわけです。

ラブレターに「ドラえもん」を出すことで話題騒然になることは、麻布もある程度“計算”していたとは思います。しかしながら、その“計算”とは、自校のPR効果のみを狙った“したたかさ”ではないと私は感じています。

麻布が入試問題にドラえもんを登場させた目的は、入試問題そのものに注目を集め、「本来中学入試とはこうあるべきではないか」と訴えることだったのではないでしょうか。


大学進学実績を売り物にしてみたり、広告手法を取り入れた聞こえのいいキャッチフレーズを並べて学校パンフレットをつくってみたり、学舎をきらびやかに飾ってみたりという、およそ教育の本質とは関係ないところで過当競争を続ける現在の「私学のあり方」や「保護者の学校を選ぶ観点」、「中学受験にまつわる世の中の風潮」に対する麻布なりの問題提起が込められていたのではないかと思います。

時間をかけて長文を読み(=他者の意見を受け入れ)、時間をかけて自分の文章で答える(=自分の考えを述べる)。それが麻布の入試であり教育姿勢です。

だから、麻布の入試は午後までかかります。麻布を受けてしまうと最近流行の2月1日の午後入試を受けるチャンスはなくなります。また、受験生の想いのこもった答案の採点には時間がかかります。だから最近流行のインターネットによる即日合否発表もできません。

それでも麻布は、毎年の入試に、渾身のメッセージを込めることをやめません。
卒業してからも時折り、入試問題に込められた「変わらぬメッセージ」を見て、母校への誇りを感じるのが麻布生なのです。

●寄稿:育児・教育ジャーナリスト/おおたとしまさ(麻布OB)
Facebookページ:http://www.facebook.com/otatoshi


名門私立中学を受験・合格するような子どもたちは、おそらくその多数が将来の社会をリードする“エリート”になっていく人材である。

受験生たちにとっては緊張の極みである中学入試。その張りつめた場において、「ドラえもん」という不測の出題に対しても、限られた時間のなかで明解できる力。こうした経験の積み重ねが、“先の読めない世の中”における真の問題解決能力を養っていくのだろう。

出題の話題性以上に、中学入試の本質が凝縮された良問であるといえよう。


麻布中学校 2013年入試問題 解答速報(インターエデュ・ドットコム)
http://www.inter-edu.com/nyushi/2013/azabu/
麻布学園ホームページ
http://www.azabu-jh.ed.jp/