「悪魔の二歳児」という言葉をご存じだろうか? 筆者は、最初の子が2歳になった頃、人から聞いて知った。それまでボ~ヨ~としていた娘が、にわかに扱いにくくなった頃合いであった。

「魔の二歳児」「テリブル・ツー(terrible two)」とも言われるが、要は「第一次反抗期」のことである。大人になった親は、おのれの「第二次反抗期」の記憶は多少あっても(それでももうぼんやりだが)、さすがに1歳半~3歳ごろ顕著となる「第一次反抗期」がこの自分にもあったなんて記憶は殆どない。

だから、最初は「え?」と思う。あのオットリのほほんボヨヨンとしていた我が子がいきなり「イヤ!」を連発し出すことに、新米母は戸惑い、おののく。「は、反抗的……」ガーン、てなもんである。

そう、反抗期と言うだけあってその言動はなにかと反抗的であり、気まぐれなわがままのようにも見える。バスで出かけようとしても、「ばしゅ、おにゃらい!(=バス、乗らない!)」とステップで抵抗したり、出かけるとき靴を履かせるとそれだけで烈火のごとく怒ったりする(「いや! じぶんで!」)。とにかく、何をするにも2歳児の意思がはさまり、親子の行動に時間がかかるようになる。

世の中には嫌いな人が多いベビーカーも、2歳を過ぎた子を持つ親にとっては無くてはならない福音の道具だ。慌ただしい朝、子どもを保育園に運び込む際には、「なんてありがたい子ども運搬車!」と日々感謝感激であった。のんびり赤ちゃんをゴロゴロという時期には想像できなかった感慨である。

まあ、もうそんなものには乗りたくない、わたしはげんき歩きたい、という意思のある子も出てくる頃ではある。その気持ち、理解できないわけではないが、2歳のココロのままに歩くとなると、大人の足で5分の距離に1時間費やすことにもなりかねない。

また、ある程度聞き分けの良い子であっても、この年頃ではまだ突然に興味を引くものに対してはなかなか自制が効かない。要は、車道に飛び出す。親は、肝が冷える。その点ベビーカーなら、一度安全ベルトで拘束してしまえば安心。危険度も少ない。言うこと無し!

だが、毎朝そんな攻防を玄関先で繰り広げながらの登園になるので、家を出る時間が押したり、道すがら延々、「すわ虐待?!」という勢いで号泣されっぱなしだったりするのも、この「魔の二歳児」期の風物詩だったりするわけだ。


そもそも。
親目線、親の都合視点でいえば、ただの「魔」「わがまま」「気まま」である反抗の数々も、子ども自身の発達といった面で考えればたいへん喜ばしいことの表れでしかなかったりはする。

子の成長につれて持てはやされるようになるアノ資質、「自主性」「表現力」「強い意欲」「しっかりした意志」……が、あればこその「イヤイヤ!」ではあるのだ。

そう、「自我の芽生え」……生えてきたばかりの芽に毒があるのはジャガイモだけじゃない。ヒトの子どもだって、「我こそは!」と立ち上がるためのその芽に毒を仕込むのだろう、「やっちゃうぞ!」的な毒を。

思うに、この時期の子どもに鬱々とした子はほとんど見かけない。潰さないようにしないと、親は、その芽を。

まあ、理想を言えば、いちいち「イヤイヤ!」されるごとに「ひゃっほう、スゲーぜ!」「そうきたか、新しいぜ!」とか言祝ぎ(ことほぎ)、ツイッターに成長記録ツイートを垂れ流したっていいくらいなのであろう。……あろうよ。でもそんなの言うほどたやすくないけれど。


かつて2人の娘の「テリブル・ツー」を過ぎ、ただ今まさに三女の「テリブル・ツー」を経過している筆者。人としての器に問題があるので、未だに「イラ~」とすることは多々あるが、どうせ終わっちゃえばあっけない一時の大変さなので、概ね面白がっている。

やっぱりツイートじゃなくても「記録しておく」のが良いと思う。振り返った時、絶対にイイコチャンだった我が子の記録よりも、ダダッコチャンだった記録(泣き顔の写真も、泣き声の動画も)のほうが思い出深いから。その時に自分がどう思い、対応したかも思いだし、自分の幼さと成長に気付くこともできるから。


ついさっき、姉たちと父親とショッピングモールにお出かけするときの2歳児のようす。姉に履かせてもらう靴を「イヤもん! じぶんでもん!」と拒絶し、左右逆に履いて自慢げに「できた!」と言いながら土足でリビングまで上がってきた。「ちょっと~、くっく履いてお部屋に上がって来ちゃダメでしょ~」とたしなめるが、2歳児は「いいもんもん!」(キリッ)。

「あーあ。まだ自分がさあ、2歳で、赤ちゃんぽくて可愛いからって、……タチ悪いよね……」

そう嘆くのは6歳になった次女だ。って、あんたもさんざんこういうことしてきているんだけどね!と母は苦笑する。ていうか「タチ悪い」なんてコトバ、しれっと言うようになるんだから、本当に、子どもの育つのは、あっという間。


藤原千秋藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。10歳6歳2歳三女の母。