世界初、子ども向けデザイン番組としてNHK Eテレで2011年4月に始まった『デザインあ』。
(本放送:毎週土曜日朝7:00~7:15/再放送:金曜午後3:45~4:00)

先日、この番組がテレビ番組としては異例のグッドデザイン大賞を受賞したこともあり、その名前を目にした方もいらっしゃるかと思う。

「子どもにデザインの概念を伝える」

大人に伝えるのだってそう容易いことではないのに、それを子ども、未就学児や小学校低学年児にどう展開するのか?

一応デザインと名のつく職業に就いている身としては気になるところだったし、番組スタッフに「佐藤卓(グラフィックデザイナー)」「中村勇吾(WEBデザイナー)」「コーネリアス(ミュージシャン)」の名前を見て、「これはちょっと、……Eテレはじまったぞ!」と思い、初回からほぼ全部視聴している。

この番組に関しては始まった直後から衝撃過ぎて、
「このテンションでずっと番組作っていたらどこかでスタッフの心が折れちゃう!」
「面白いけど、みんなが見なかったら番組終わっちゃう! でもみんなに広めた結果内容が薄まったらどうしよう!」
と、勝手な心配をし続けていた私であるが、大きな賞を取り、世間への認知とともに局内での認知もされたであろうし、これでしばらく、少なくとも次年度は安泰だなー、とまるで自分のことのように思っているのだ。

コーネリアスによる番組のサントラが発売され、六本木での展覧会がスタート、番組関連本も出るというこのタイミングで、『デザインあ』のスタッフ等によるインタビューがいくつかの媒体で掲載され、制作の裏側が少し明らかにされたので、それをふまえて、「大人のための『デザインあ』視聴ガイド」をお送りしたい。


ざっくり解説すると、この番組、短いコーナーがモジュールのようにたくさん存在し、それらが結びついて毎回ひとつの番組となっている。
そのへんが、我が家の2歳児にも食いつきやすくできているのだなーと、テレビにかぶりつきで見ている息子を見て思う(そして「もう少し後ろに下がりなさい」と促す)。


解散!


特筆すべきコーナーは、やはり「解散!」であろうか。

とにかく「バラす」のだ。
分解系番組でいえば、フジテレビCSの「ばら・す」などもあるのだが、「解散!」はその「バラし方」が尋常ではない。
「はっさくの回」と呼ばれる回があるのだが、ぶどうとはっさくを分解していく様子を、コマ撮りで追う。ぶどうは、皮を向いて中の種まで。はっさくは、一粒一粒まで分解し、きれいに並べる。その並べ方もまた、デザインなのだ。
バラバラにしたあと、巻き戻しで見せる回もあれば、さらに細かく分解していく時もあり。

想像してみてほしい。
あなたが、剥いたはっさくを粒までばらして、ピンセットでひとつひとつ並べてはコマ撮りしていくさまを……。

いやあ、これ、ADにやらせてたとしたら途中で何人か逃走するよ!って思っていたのだが、なんと本職はグラフィックデザイナーである岡崎智弘氏が、材料集めの段階から一人で担当し、カメラマンと照明さんの計4人だけで作っていたというから驚いた。
(その様子は「解散!の解散!」というタイトルのついた回で見ることができた)

いつの日か子どもに「ねえ、解散!やって」とお願いされたらと思ってゾッとしている親御さんたちの姿が目に浮かぶ。
(『ピタゴラスイッチ』の「ピタゴラ装置」も、いつの日か来るのであろう「あれつくって!」がこわいなあ……)

ちなみに「七味唐辛子の回」も結構衝撃なので、再放送や「デザインあ 5分版」で放送されたあかつきにはぜひご覧いただきたい。


デッサンあ


文字通りデッサンをするコーナーなのだが、その対象はたぬきの置物、消防自動車、宇宙服に、ゴン太くん(!)と様々。

これを集まった12名がデッサンする様子を見せるのだが、キャスティングに「有名人枠」があり、Eテレでよく見るラーメンズ片桐仁をはじめ、楳図かずお、蛭子能収、HITOE、鉄拳、さかなクン、しずちゃん、坂本慎太郎(元・ゆらゆら帝国)、八代亜紀、水森亜土、安齋肇、五月女ケイ子などが一般の人に混じって描いている。

このキャスティングについて、演出のNHKエデュケーショナル・佐藤正和氏が「(朝7時と早く、視聴環境が厳しいので)まずチャンネル権のある大人に番組の存在を気づいてほしいと思って」とテレビ誌のインタビューで答えているのだが、我が家はまんまとその術中にハマった形なのである。

(参考までに、他のコーナーにおける「大人にフックがありそうな出演者たち」→森本レオ、パンツェッタ・ジローラモ、笑い飯、ヨーロッパ企画のメンバー、ほか)

絵ってどうやって描いていくんだろう、というのは、大人になったり、まして絵を描くような仕事をずっとしていると考えることはないのだが、改めて他人の描き方を見ると面白いなあ、参考になるなあと思ったりするのだ。

さかなクンのときは、アタリを付けずにいきなり描き出してたのが興味深く、また、「しずちゃん、意外とうまいなー」と発見があったり、蛭子さんは……やはり蛭子さんだったり。

このコーナーを見ていて思い出したのが、20年近く前に東京MXテレビでやっていた「ソニーテクノTV」という番組。

確か30分枠だと思ったが、その半分くらいをずっと、DJの手元のアップだけ映すという、今だったら考えられない(というか一社提供だからできたのだろうか)番組だったのだが、
本職の人は気にならない日常の作業を、そうでない人が見た時の驚き。
本職の人は「ああ、こういうのもあるんだ」と感じられる新鮮味。
そういう感覚も狙ったのかなあと、このコーナーに関しては思ったりする。


みんなの「あ」


絵を描くコーナーにはもうひとつ「みんなの『あ』」という、「あ」の文字が薄く書かれたテンプレートにアレンジする絵の投稿コーナー(『おかあさんといっしょ』や『いないいないばあっ!』でやっているアレのようなもの)があるのだが、20代や30代の大人 ──それもたぶんデザイン職の人であろう── が、ガチで送ってきたものに対しても子どもの作品と同じ土俵にあげて選んでいるのだ。

日曜日にやっている『みいつけた!さん』の絵のコーナーでは、大人からの応募が通った場合は年齢のところに「おとな」と書かれているのだが、こちらは年齢がしっかり記載された状態で紹介される。

ちなみにこのコーナーの選者は佐藤卓、中村勇吾の両名であるが、「大人も子どもも関係ない、いいものはいい」という視点でのあのチョイスなのだとしたら、クリエイター・箭内道彦氏が前出のテレビ誌での対談でこの番組を指して、「ハッピーでポジティブなトラウマ」と表現していたが、この「衝撃」に立ちあってきた2010年代の子どもたちが大人になった時、デザイン業界がどう変わっているのか、期待をもってきちんと見届けたいのである。


……種をまいてから回収するまで、えらく長い年月になるかと思うが、子どもの成長を見守るって、きっとそういうことなのかもしれない。


とにかくコーナーの多い番組なので、全部について書いていくといくらあっても足りないくらいなのだが、それはまた別の機会に、ということで。


ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在は日本テレビグループ・LIFE VIDEO株式会社のデジタルコンテンツ全般を担当。