「がおー、おおかみだじょー!」
それは突然やってきた。息子に今、空前の「おおかみブーム」が到来。

「おおかみ、おおかみ」と言い出したのは、昨年末の生活発表会(という名のお遊戯会)あたりからだったのだが、上級生の演目「三びきのこぶた」を見て、どうも彼は、こぶたさんたちのほうではなく、おおかみに感情移入をしたようなのだ。

その後、「赤ずきん」「おおかみと七ひきのこやぎ」など、おおかみが出てくるお話ならなんでも受け入れる息子。

しょっちゅう家でも、「ふー!ふー!」と風で家を吹き飛ばすおおかみの真似をする息子は、とりわけ「三びきのこぶた」の話がお気に入りの様子。

そんなに好きなら!ということで本でも買ってやるかーと検索すると、どうも、私が小さい頃知っている話と内容が違っていることに気づいた。


――誰も死なないバージョンが存在する。


気になったのでネットでもこのネタをちょっと振ってみたが、
「え、ずっとそうだったけど?」
「あれ、そうだったっけ?」という反応。
おかしいな、老化かな、私の記憶が錯誤しているのかな……。

息子(2歳)に念のため聞き取り調査を行った。
「ねえねえ、『三びきのこぶた』のお話あるでしょ?」
「うん!」
「おおかみさんは最後どうなっちゃうの? 食べられちゃう?」
「ううん、たべられちゃう、ないよ! あちちち!って、にげるの。」

まあ、子どもの言うことだし、と、翌日担任に連絡帳で質問してみた。すると、
「三びきのこぶたが力を合わせて、おおかみをやっつける。そしておおかみは逃げていく、という結末ですよ!」

……やっぱりか。


私(1976年生まれ)の記憶のストーリー展開は、こぶたたちはどんどんおおかみに食べられ、残った末っ子のこぶたがおおかみを鍋で煮て食べてしまう、という結末。

そうこうしている間に、母が実家近くの本屋で絵本を買ってくるのだが、これもまた誰も死なないバージョンのお話。

もしかして、今はそちらが主流なのか?と思い、近所の大きめの書店に在庫があるもので調査してみた。

※ 単行本を対象に調査。「お話集」などに入っているものを除く。

■誰も死なない
ポプラ社 世界名作ファンタジー(2)「三びきのこぶた」(1985年初版)
 (⇒我が家にあるのはこれ)
永岡書店「三びきのこぶた (世界名作アニメ絵本 (5))」(2002年初版)
金の星社「3びきのこぶた―イギリス民話より (いもとようこ世界の名作絵本)」(2007年初版)
世界文化社「3びきのこぶた」(2011年初版)

と、ここまで子ぶたもおおかみも死なないお話オンパレードの中、反逆児が現れる。
「こどものとも」でおなじみの福音館書店のお話だ。

■末っ子以外全員死亡
福音館書店「三びきのこぶた―イギリス昔話(こどものとも絵本)」

ちなみにこちらの初版は1967年。

参考までに他のタイトルに関しても初版年度をカッコ内に入れておいたが、近年になってソフトな内容のものが増えているということが伺える。

さらにネット上で検索したところ、「こぶたは全員生き残っておおかみだけ死ぬ」など、もっと細かいバージョンも出てきた。

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話は少しそれるが、時代にそぐわないなどの理由で内容が差し替えられた絵本には、有名なところで「ちびくろさんぼ」があるのだが、数年前、「さんぼ」が「さんぽ」に差し替えられ、犬が主人公のお話になっていたことを発見。大変びっくりしたのを覚えている。

チビクロさんぽ
北大路書房「チビクロさんぽ」(1997年初版)

パロディかと思いきや、日本で初めて著作権問題を正式にクリアした翻訳書なのだそうだ。

さらに、別の出版社からは、「これがホントのちびくろさんぼだ!」とばかりに、イラストなど原書をできる限り忠実に再現したというものが出ている。

ちびくろサンボ
径書房「ちびくろサンボ」(2008年初版)

「ちびくろさんぼ」を巡る争いはまだ終わってはいないのかもしれない……。

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こうなると、きっと「三びきのこぶた」以外にも、近年結末をソフトにして流通されている絵本はあるのではないかと思われる。

では、子どもにどの結末の絵本を買えばよいのか。

保育園、幼稚園などですでにお話を知っている場合は、担任に聞いて、できるだけ同じ展開のものを読んであげるのが、違和感がなくていいのではないかと思う。

もしそうでなくて、ということであれば
「あなたはどの結末を子どもに読ませたいと思っているのか」。
そういう選択が迫られることになろう。

自分が20歳くらいの時は、「本当は怖い童話」という切り口の本を「そうだそうだ!」と喜んで読んでいたのだが、いざ自分の子に、と思うと正直ちょっと躊躇するのは否めない。

この件についての私の結論は、まだ、出せそうにない。


ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在は日本テレビグループ・LIFE VIDEO株式会社のデジタルコンテンツ全般を担当。