先日、娘が生後6ヵ月を迎えた。
近頃は「ハーフバースデー」という言葉も浸透し、記念に撮影やお祝いをしたり、離乳食を始めたりと、ひとつの節目として認識されている。

6ヵ月経ってみて新生児のときの写真を見ると、「こんな顔だったっけ?」と思うことが多い。3ヵ月、いや1ヵ月前の写真でさえ、別人のように感じるのだ。

どんなに写真におさめていても、実物の娘の姿かたちは日に日に上書きされて、同時に自分の記憶も更新されていく。

友人やお互いの両親は数ヵ月に一度会う程度なので、会うたびに「大きくなったねー」と言ってくれるが、私は大きくなったのかもよく分からないくらい、以前の娘の姿を思い出せなくなっている。

この調子だと、今見ている顔も1ヵ月後には思い出せなくなるのだろうと一抹の淋しさも感じるのだ。


とくに新生児期の記憶がすっぽりと抜け落ちていることも大きい。
産前からよく、「新生児は3時間おきに起きて授乳」とか聞かされていたのだが、私はその言葉を額面どおり受け取りすぎて、「授乳したら次の授乳までは3時間暇になる」ものだと思っていた。

だから、「新生児のうちは寝られないよー!」という話も、「細切れでも3時間ずつ睡眠できるなら何とかなるんじゃない?」と甘く見ていた。

そう、授乳が終わったら赤ちゃんはすんなりと3時間くらい寝てくれるものだと思い込んでいたのだ。


新生児の時期はとにかく寝かしつけに苦労した。
抱っこしていたら寝てくれるのに、布団に置いた途端ギャーっと泣き出しておろおろ。
すぐに抱き上げてゆらゆらと揺らしてみたり、その場で足踏みして、これで寝たかな?とそっと布団に置くとまた泣き出す。

これを繰り返しているうちに、また3時間が経過して次の授乳……ヘタすると一晩中ということもざらにあった。そのときようやく、「ああ、寝られないってこういうことね……」と先輩ママたちの助言が身に染みた。


「退院したら大変だから入院中は体を休めて」と労われたけど、入院中こそ面会時間が終わった後は娘を見ているのは自分一人。

病院なのだから赤ちゃんが泣いているのは当然なのに、一瞬でも泣かせてはいけない、という恐怖心すらあり、同室の産婦さんたちに、「昨夜はうるさくて本当にごめんなさい」と謝って回った。

最初の一週間は寝られなさすぎて顔色は真っ青だったし目の下はクマがびっしり。疲労のあまり手や首に湿疹が出だした。

最初からスムーズに育児ができるわけもないのだが、ここまで自分がボロボロになるとは予想もしておらず、追い討ちをかけるようにホルモンの影響なのか気分が落ち込む。

毎日のように泣いていて枕が涙でびしょびしょ、ご飯を食べながらも泣くという漫画みたいな展開だった。

母親学級や産院での事前講習で、「産後うつ」という言葉を聞いたときには、「フーン、そういうケースもあるんだなあ」と悠長に構えていたのに、まんまとその袋小路にハマっている自分……。他人事だと思っていてすみませんでした。

「こんな状態が1ヵ月も2ヵ月も続いたら死んでしまうかもしれない、早く時間が過ぎてくれ!」とカレンダーに1日1日×印でもつけたいくらい気分が逼迫してしまっていた。
今はむしろ、もう一度新生児期の娘に会いたくて時間を返してほしいくらいなのに……。


また、母乳育児に対する拘りがまるで強迫観念のようにつきまとっていて、1日中授乳していた。

最初は満足するほどの量が出ないなんて分からなくて、何十分も授乳してるのにどうして泣きやまないんだろう、とパニック状態。粉ミルクにすれば寝るかもしれない……と思いつつも、最初が肝心って助産師さんも言ってたし、ここで頑張らなきゃ!と完全に意地の域。

「そろそろ粉ミルクに切り替えたほうがいいかもよー、そしたら少し休めるかもよー、それでも無理なら新生児室に預けるのも手だよー」と、半年前の自分にアドバイスしてあげたい。多分聞く耳持ってないと思うけど……。


結果として今は完全母乳で育てているが、もう少し睡眠を確保して自分に余裕があれば、娘の様子をじっくり目に焼き付けられたのかもしれないな、と口惜しさが残る。
産後の肥立ちのために休息は非常に大切だし、娘をよくよく見ておきたかったのに。

不測の事態が発生するたびに「こんなの聞いてない! 何で誰も教えてくれなかっの!!」と気が立っていたが、大体産前に、「私はマニュアルなんて気にしない、だから育児雑誌や本なんて参考にしないもん!」とタカを括っていたのは自分自身。

自らの不勉強を棚に上げて何て不遜な態度だったのだろう……ここでもまたすみませんと言いたい。

それ以上に、赤ちゃんには個人差も個性もあるのだから、何でもかんでも一般論に帰結することなどできないのだということを受け入れられるようになったのはごく最近のこと。

平均○時間寝る、1ヵ月で○センチ、○キロ大きくなる、○ヵ月になったら手がかからなくなる……すべての数字を妄信しないこと、育児には「スルー力」や「鈍感力」が大事と言われているが、数字に対するスルー力も身に付けていかないと首が絞まりそうになる。

そして自分がこれまでに経験してきたことも適度に忘れていく必要があるのではないかと感じている。


密度の濃い半年だった分、得たものも大きいが、それだけに自分が得たものが絶対だと勘違いしてしまいかねない。

ただ、この「適度に忘れる」というのも、さじ加減が難しくて、もう忘れちゃってもいいや~と思うと、覚えておきたいことも忘れてしまいそうだし、そうそううまく記憶なんて操作できるものでもない。

せめて、娘の姿だけ覚えておければなあ……と、スマホのカメラで今日もパシャパシャ。
このスマホが命綱のようなものなので、一度バックアップも取っておかないとなあ。


真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。