猛暑の続くフランスはバカンス真っ盛り。7月に入って以降、筆者の住むパリは日々閑散としていく一方である。

個人の店などは、客足が減るこの時期に店を閉め、1ヵ月くらいまとめて休暇を取る。小さなスーパーなどでは、交替で休暇を取り従業員が減るため、昼前後は店を閉めたり営業時間が短くなる。お目当ての店まで来たら閉まっていた、というのはよくあることで、この時期のパリ観光はおすすめできない。

年間5週間の有給休暇の取得権利が法律で定められているフランス。これは形だけの権利ではなく、実際に行使されている権利である。

そして、長期の休暇が取れれば、家に閉じこもってひたすら寝て疲れを取る、なんてことはもちろんなく、バカンスに出かけるのだ。

とは言っても、長引く景気低迷、相変わらず高い失業率に苦しむフランス。
フランス人のどこにそんなお金があるのかと思われるが、実際、夏のバカンスに出かける人の数は年々減っているのが現実だ。

それでも、調査によると、6割弱のフランス人がこの夏もバカンスに出かける予定であり、その期間も平均14.7日と、日本人から見れば十分長いバカンスだ。

しかし、一世帯当たりの平均予算は1,015ユーロ(約13万円)で、昨年に比べると142ユーロ(約1万8千円)減っている。

バカンスに出かける、と答えているのは子連れの家族が多く、子どもがいない人々は、バカンスを控える傾向にあるそうだ。

■「バカンスはどうするの?」


実際、毎年夏前になると、人に会えば、「いつからバカンス?」「どこに行くの?」とたずねあい、夏が終わると、「バカンスはどこどこに行った」と自慢しあう。一種の風物詩のようだ。

フランス人はバカンスに太陽を求め、日本人のように日焼け止めで白い肌を保つなんて発想はなく、老いも若きも真っ黒に日焼けした肌こそバカンスの証、筆者がかつて部屋を借りていた60代のマダムが、誇らし気に真っ黒(というか真っ赤?)に日焼けして帰ってきて、「お肌大丈夫!?」と心配になったくらいだ。

バカンスについてたずねあうこの風物詩、大人にとっては何気ない会話だが、子どもにとっては切実だ。

約2ヵ月という長い夏休みが明け、新学期にバカンス自慢をし合う仲間たちからさりげなく足を遠ざけてしまう子どももいるからだ。

バカンスに連れて行ってもらえなかった子どもが、「君はどこに行ったの?」と聞かれたら、聞いた子どもに悪気がなくても、聞かれたその子は傷つくかもしれない。

■さまざまな形の家族にそれぞれのバカンス


先日、子ども7人の9人家族による、1ヵ月のバカンスを追うルポを見た。
父親の給料はスミック(法定最低賃金)、母親は専業主婦、普段の生活はフランスが誇る家族手当に頼っていると思われるが、この1ヵ月のバカンス予算は2,000ユーロ(約25万円)。

大きなワゴン車で移動、宿泊はキャンプなので、毎日夕方になるとキャンプ場を確保しなければならない。

車内でビデオゲームに励む高校生から、泣き叫ぶ赤ちゃんまで、ワゴンの中はつねに大混乱、助手席から振り返る母親の怒鳴り声が車内に響く。ひとりにアイスを買ってしまえば、7人平等に買ってやらなければならず、つねに財布の中の残りを気にしながらのバカンスだ。

1ヵ月が経ち、「さぁ家に帰るぞ」の父親の一声に、「やったー!」と答える子供たち。正直なところ、親も子どもも誰も楽しんでいるように見えなかった……。

そこまでしてまでバカンスに出かける意味があるのだろうかと思ってしまったが、親の「自分たちが住む世界とは違う世界を見せてやりたい」という思い、学校でバカンス自慢ができる子どもたち、やはりそれなりに意味があるのだろう。


一方、大人のバカンスにも、日本では考えにくい特徴があるような気がする。
一緒に住むカップルなのに、必ずしも一緒にバカンスに出かけるわけではなく、それぞれが自分の家族や友だちと出かける、というケースも結構多いのだ。

それぞれに前のパートナーとの間に子どもがいたりすれば、それぞれが自分の子どもとバカンス、ということもある!

両親が別れている子どもなら、例えばパパと2週間、ママと2週間、など、ひと夏に二度も違うバカンスが楽しめたりする。

これもフランス独特の自由な恋愛観によるものだろう。

■バカンスの過ごし方


また、バカンスの過ごし方も、日本人とは大きく違う。
日本人は、限られた休暇を最大限に使うべく、日々移動しながら観光に励む。
フランス人の場合、たとえ2週間という長い期間でも、一般的には、1ヵ所に滞在し、ひたすらのんびりと過ごす。

フランス人の友人に誘われて、田舎の別荘に滞在した日本人の友人は、あまりの退屈さに2日で嫌になったという。

朝のんびり起きて、午前中は遠くの店まで歩いて買い物に行き、昼食を作って食べ、昼寝をして、山に散策に出かけ、夕食を作って食べて、寝る。
……この毎日がひたすら続くのだ。


もちろんアクティヴなフランス人もいないことはないが、フランス人にとっては、バカンスは、「楽しむ」というよりも、日常から離れ、リラックスすることが目的なのだ。

もちろん子連れの場合にはそうもいかないが、地方には、プールなどのレジャー施設が充実した、ファミリー向けの手頃な宿泊施設もたくさんあり、親も含めた家族全員がリラックスできるようになっている。


筆者はといえば、息子が生まれるまでは、まとまった休みが取れると、ここぞとばかりに日本に帰っていたので、フランス式バカンスはまだ初心者である。

昨年のバカンスは、10ヵ月の息子を抱え、慣れない場所で、息子の食事や昼寝に頭を悩ませながら慌ただしく過ぎて行った、リラックスとはほど遠い一週間であった。

今年は息子ももうすぐ2歳、去年よりは少し遠出を、と張り切った予定を立てているが、フランス人のように、「日常から離れ、リラックスする」という目標を達成できるかは、はなはだ疑問である。

フォルク 津森 陽子フォルク 津森 陽子
食品メーカーにて営業を経験後、一念発起してパティシエに転身。半年のパティシエ修行で来たはずのパリ滞在が伸び、いつの間にかパリで一児の母に。妊娠後はパティスリーを退職、現在はフランス人の夫の仕事を手伝いながらパリで2011年生まれの息子の子育て奮闘中。