既出コラム、『平成サブカルお母さん考』を読んで、筆者は自分の10代を振り返ってみた。

私もメインカルチャー寄りの日々ではなかった。
でも渋谷系というのは一世代上だから通っていないし、また関西在住だったのでサブカルというのは東京周辺での出来事、という勝手な印象で、いまひとつピンと来ない。

ということで、
おもに90年代後半に中高生だった皆さん、サブカルもあるけどビジュアル系にハマってたことはありませんか?いや、現役でハマってるお母さん、バンギャルお母さんはいませんか!
(※バンギャル=ビジュアル系バンドの熱心な女性ファンの総称)

「ビジュアル系の定義ってどこからどこまで?どこからがバンギャル?」という議論をし出すと、それだけで本稿が終わってしまうので、ここではざっくり「お化粧をして歌ったり演奏したりするバンド」と、「それらのバンドが好きな女性」としておく。

私は今、ゆるーい、でも一応現役のバンギャルである。
お気に入りのビジュアル系バンドがあり、ライブに行って叫んだりヘッドバンキングしたりもする。でも、ライブに行くのは関東近郊限定、今は年に数回のペースである。

ビジュアル系の持つ、耽美だったり退廃的な世界観と、子育て。
これが一見相容れないようだが、バンギャルも着実に年齢を重ねていくため、このところ私の周囲のみならず、バンギャルお母さんは増えているように思う。

(ただし、バンドの世界観が退廃的なだけで、バンギャルはいたって勤勉で堅実な生活をしている人が多いのだ。だってバンギャル活動のためには、日頃節制したり、倹約したり、慎ましい生活を送らざるを得ないから!)


90年代後半に活躍していたバンドの多くは、現在活動休止していたり、すでに解散しているパターンが多く、それに合わせて、「上がる(卒業する)」バンギャルも多く、そこから結婚、妊娠、出産、というコースは結構王道だったりする。

しかし、ここ数年、再結成したり活動再開するバンドが後を絶たない。
私の一番好きなバンドは現在活動していないのだが、再結成するのしないの噂がまことしやかに流れている昨今。

独身時代は稼いだお金を注ぎ込んでも痛くなかったが、子どもにお金がかかるようになった今、再結成されては、ただでさえカツカツな財政事情で日々暮らしているのに、益々困窮が予想される。
でも、活動が再開するならCDはもちろん買いたい、ライブ行きたい、ライブ遠征もしたい!!!

今でこそ、生活する上での優先順位を鑑みて、ライブに行くのは関東近郊と限定しているが、果たしてそのバンドが再結成されたときに、我慢できるかどうかは定かでない。

また、これはビジュアル系に限ったことではなく、子育て中に限った悩みでもないが、ここ最近はライブが土日ではなく、平日に開催されるパターンが非常に多い。ライブに出かけるのに、会社員である夫に子どもの世話をお願いするため、もろもろ調整するのも一苦労。


筆者は臨月のときに、ビジュアル系ではないが、ロックのライブを見に行っている。
オールスタンディングではない席ありのライブだったので、半分くらいは着席しながら観賞。最後はちょっと疲れてしまったが、体調も悪くならず楽しむことができたので、やはり妊娠中のライブは席ありに限る。
(ただ、ライブハウスによっては事情を事前に話しておけば、2階席などに通してもらえる場合もあるとか)

そして、産後2ヵ月でもライブに行ったのだが、さすがにこれはこたえた。
産後の疲れが抜け切っていない&運動不足になっているので、飛んだり腕を上げたりするだけでゼーゼー、脇腹も痛い、「あ、多分今骨盤グラグラになってる……」と、このときばかりは自分の衰えを感じずにいられなかった。

妊娠してから産後の今も、ライブに行く回数はめっきり減ってしまったが、しかしビジュアル系バンドの興業そのものは、子持ちに優しくなっている気配。

ビジュアル系の超大御所、X JAPANのライブでは、子連れ客(特に故・hideさんのコスプレを子どもにさせているご両親が多い!)が多く、GLAYのライブでは、会場によるが託児所やファミリー席を設けているらしい。また、LUNA SEAのライブの物販では、ベビー服やスタイがグッズとして売られているらしく、完全にこれは我々子育て世代がターゲットにされているではないか!

安定した人気を誇るバンド群だからこそ可能な話ではあるが、このようなバンドはこれからも増えていくと予想される。

私はまだ子連れでライブに行けるほどではないが、バンギャル流の楽しみ方で子育てしている。娘を抱っこしながらモッシュの要領で「ヴォイヴォイヴォイ!」と縦ノリしたり、激しいリズムに合わせてヘドバンしてあやしてみたり。

ただし、これはウケなかったときに我に返ると物凄く恥ずかしいので、潔さが肝心。
ちなみに我が家は夫も異常にビジュアル系に詳しく(とくに誰のファンということもないのだが)、どちらがより上手にあやせるかを競うべく、日夜ビジュアル系の物真似の鍛錬にいそしんでいる。

ここで自問することとして、「娘が成長して、バンギャルになったら?」

もちろん止める権利はまったくない。ビジュアル系に限らず、何を好きになっても口出すような親にはなるまいと、今は思っている。


そして思い出したのが、『バンギャルちゃんの日常』(蟹めんま著/エンターブレイン)。
昨年発売され、バンギャル界隈で大ヒットしたコミックエッセイにはこんな1コマがある。
ライブに行きたい娘に対して母親が「高校行くまでコンサートはホール以外禁止!」と制し、娘が「オールスタンディングじゃないと意味がないんや!」と反論する。

bangal


ライブの真髄を感じるなら、席のあるホールよりより臨場感のあるライブハウス、それもオールスタンディング……。バンギャルにしたら、「あるある!」なネタ。
今までなら娘の気持ちにどっぷり共感していたところなのだが、母親の心境も分かるようになってしまった。

スタンディングのライブは周囲と押し合いにもなるし、足を踏まれることもあれば、腕をつかまれることもある。酸欠になったり、青アザができたり、人の下敷きになることも。毎回危険な目に遭うわけではないし、決して危険な場所でもない、でも可能性はゼロではない。
となると、快く諸手を挙げて「行っておいでー」とは言えない、そんな母親の気持ちも物凄く分かるようになった。

ちなみに筆者は二十歳前後の頃、スタンディングのライブでモッシュピットの中で男性の下敷きになったことをペロっと母親に話してしまい、「何でそんな危ないことするの!」とめちゃくちゃ怒られた(当たり前だ)。でも、そんなことを武勇伝のように話してしまうのも若さゆえ……。

音楽やライブの楽しさは味わってほしいけど、危険な目には遭わせたくない、毎回この手の「今から考えてても仕方ない悩み」で悶々とする。大体人生ってそんなに都合よくできている訳じゃないけど。


娘が成長して、一緒の音楽を聴いて盛り上がれたら楽しいだろうなと思う反面、私の嗜好などには左右されず、自分で好きなものを選んでほしいなという思いもある。

でも、今日もどの曲でヘドバンして遊ぼうか?なんて考えていたりする。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。