この年末年始、実家のある関西へ帰省してきた。
ひとつ前の年末年始は産後間もない時期だったため、私は出産に際して里帰りせず、自宅で過ごした。つまり実家に帰るのは実に2年ぶりのことだった。

寝泊りしたのは元々私の部屋だった洋室なのだが、洋服、大量のマンガ、雑誌、ビデオテープなどが処分され、私が20数年間過ごした形跡が見られないほどにスッキリしていた。

帰省する前に、「マンガとか捨てていい?」と母からきかれていて、「帰ってから確認するからまだ捨てないほしい」と頼んでおいたのに、容赦なく「断捨離」されていた……ひどい。

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でも、ビデオテープ(好きなアーティストがテレビに出演するたびに録画し、擦り切れるほど見ていた思い出の品、私の青春の結晶でもある)は、もし取っておいてももう再生できる機器がないし、日記帳や手紙など、見返したら顔から火が出るほど恥ずかしいアイテムも盛りだくさんだったので、逐一確認しなくてよかったんだと自分に言い聞かせた。

しかし、兄の部屋に置いていた『スラムダンク』と『キン肉マン』全巻がちゃんと残っているかを確認できなかったことが悔やまれる。

「いつか娘に読ませるマンガ」リストにも入れているし、久しぶりに読み返したかったのだが……。東京の自宅は子どもの物が増えていく一方なので、なるべく自分たちの物、とくにマンガは買うのも極力控えているのだが、実家に置いてあるものは処分される前に引き取った方が良さそうだ。まだ処分されてなかったら、の話だけれど。

私も兄も実家を離れてだいぶ経つが、母がこのところ思い立ったように荷物を整理しているのは「何かあるのかな?」と考えたときに、思い当たることがあった。

3年ほど前、母方の祖母が要介護認定を受け、現在はグループホームに入っている。
祖父は7年前に亡くなっているので、祖母が施設に入ってから家は留守状態。定期的に母が祖母宅を訪ね、空気を入れ替えたり掃除をしている。

この先、祖母が家に戻れる保証もないのだけれど、でもこのまま家を残していても固定資産税がかかっていく一方だし、かと言って勝手に売るわけにも行かないよね、と母に会うたびに、「結局、おばあちゃんの家どうするの?」問題が議題に上がっている。

なかなか結論が出ない問題ではあるが、せめて物を減らしていこう、と掃除とあわせて荷物の整理をしているらしい。


高齢者の家というのは大体どこもそうだと思うが、ものすごく物が多い。
一部屋まるまる荷物置きなんて家も多いのではないだろうか。嫁入り道具の考えも根強かっただろうから、着物を収納する桐の箪笥があったり、家具の一つひとつも重厚で大きい。

「物がある」ということが豊かさの指標だった時代の名残なのだろう、物をそう簡単に捨てたりもしない。それこそ「断捨離」なんてここ最近のブームであって、年配の方には考えられないことなのかもしれない。書類や写真、本などを電子化するのも何のこっちゃと思っていそうだし。

祖母宅も同様で、紙袋や包装紙も丁寧に取っているし、とにかく衣類が多かった。
祖父が会社勤めしていた頃の背広(スーツ)だとか外套(コート)もまだ残っていて(何十年前!?)、掃除に行くたび、母からゴミ袋何個分の荷物を整理したか聞くのが恒例になっている。

さらに家具などは処分しようにも人手が必要だし、粗大ゴミとして出すにはお金もかかるし、なかなか長い道のりのようだ。


だからこそ、母も今、自分たちの荷物を整理する必要を感じているのかもしれない。
5年ほど前、実家のキッチン、浴室、トイレのリフォームをしたのだが、リビングの中でも一番面積を占めていた食器棚がシステムキッチンのダッシュボードに取って代わったため、食器の大多数を処分したようだ。来客用のティーカップセットなどはなくなっており、実用的なものが少しずつ残っているのみだった。

そこそこ値段が張ったり、思い入れのあるものもあったと思うが、今となっては来客もそうそうないみたいだし、捨ててしまうのもひとつの手かも知れない。その他、リビングの真ん中に置いていた大きな棚もなくなっていたし、玄関の下駄箱も小さくなっていた。

まだ60代前半、老い支度というには早いけれど、いつ何が起きるか分からないし母の取っている行動はきっと正しいのだろうなと思わざるを得なかった。

とは言っても母も祖母の血を引いてるので、やはり洋服の類は膨大な量で、チラっと母の寝室を覗いたところ、洋服やカバン、アクセサリーがあふれ返っていた。もちろんこの血は私にも受け継がれているため、あまり偉そうなことを言っているとブーメランになると思い、口には出さなかったが……。


こうして、かつての記憶とずいぶん様子が変わった実家を後にして、自分が所帯を持ったという実感が改めて沸いてきた。夫と娘と暮らす東京の自宅こそが私の今の家で、家庭なのだという思いを強くした。

賃貸というのもあるし、そんなに広いわけでもないので、買い控えているものはいくつもある。家具や食器もこだわって選んだというよりは、間に合わせだったり、自分たちの身の丈に合ったものが中心だ。

でもこの先も大きな洋服ダンスや食器棚は買わないだろうなと思っているし、それが親世代の価値観とは異なっていても、それとなくかわしながらやっていこうと話している。


……それにしてもやっぱり『スラムダンク』の行方が気になる。
「まだ置いてある?」とききたいけれど、やぶへびになりそうできけない。複雑な心境だ。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。