ずっと気になっていた子ども向けの商業施設に出かけた。息子は大喜び。体を使う遊びも、手先を使う遊びも、今の彼にはぴったりで無理なく楽しめ、一日たっぷり遊んだ。一緒に行った私もなんだか妙にうれしくて、とても楽しい日になった。

こんなふうに、子ども向けの遊び施設やイベントで、「ちょうどいい」と感じられるのは、じつはむしろ珍しい。あぁ、今まで何度不発を繰り返してきたことか……。


■「早すぎる」場合


息子が2歳の頃、たまたま券をもらったので、大きなホールの子ども向けコンサートに行ってみた。クラシック系アンサンブルで、もちろん子どもに合わせた選曲なのだけれど、ホールコンサートのルールは守りましょうね、というコンセプト。

前半は楽しめたものの、案の定、後半は怪しくなってきたので、いったん外に出て気分転換させたり、席に戻らずドア近くで立ったまま抱っこでゆらゆらしながら観たり……。

そうそう、幼い子どもの集中力なんてそんなに長くもつわけがない。「ほら、○○の曲始まるよ?」と、必死にテンションを上げさせようとしている自分だけが最後は空回り。

■「気が乗らない」場合


最近も不発が続いていた。7歳になった息子と書店のお話会に行ったら、「ぼくはやめた」と抜け出して来た。お話会コーナーに背を向け、自分が好きな本をただひたすら見る。あぁ、それは今じゃなくてもできるのに……。

子どもの遊び場企画に出かけていったら、期待していたダンス体験には見向きもせず、自由工作コーナー中心。それはいつも家でやってるじゃないか!

地域のスポーツイベントにお相撲さんがやってくる。ちびっ子たちが大きなお腹に突進していって、ひょいと投げられちゃうあれ、絶対やりたいよねぇ……とわくわくしていたら、「やめておく」と別のコーナーへ。

どれもこれも、せっかく来たのにっ! え?そっちなの?……である。

■失敗して見えることもある


私の膝の上でお話会を楽しんでいた時期も長い。それを思えば、「ぼくはやめた」と出てくるのも、自分で選択する意志が強くなったということで、むしろ成長なんだろう。

子どもがあまり興味を示さず、これは失敗したなぁ、と感じたイベントでも、翌年また行ってみると格段に楽しめるものが増えて、「あぁ、去年は怖かっただけなんだなぁ」とか、「こんな動作もできるようになったんだ」と、発達の定点観測になることも多い。

■有料の失敗はがっくり度倍増


とはいえ、だ。無料の地域イベントに連れて行って失敗するのと、高額の商業施設に連れて行って失敗するのは、大人のがっくり度はだいぶ違う。徒労感は同様でも、お財布が痛い。

そろそろ楽しめるかなぁと思って、3歳で初めて連れて行った大きな遊園地。息子の目はコイン系の乗り物に釘付けで、本来の「大きな乗り物」は怖がって乗りたがらないものが続出。持て余し気味のキッズパスポートと、減る100円玉、という現実を目の前に、大人心は複雑だ……。

■大人的な「特別」は子どもにはない


ちょっと「特別なおでかけ」の時、大人の頭の中には、「けっこう奮発したんだよなぁ」とか、「一泊したいくらいの遠くまで来ちゃった」とか、「ここでこれを体験しなかったら来た意味が無い!」とか、そんな思いがある。

でも、幼い子どもは金銭感覚も距離感覚もないから、そんなことは気にせずいつもどおりだ。

誠に理不尽なことに、天下のディズニーランドだって、「近くのデパート屋上の乗物+お子様ランチ」と同レベルにしか捉えていない時期が、絶対に、ある。

「せっかく来たんだから……」という気合いで空回りするのは大人の方。子どもが「特別さ」を感じていない様子でも、まぁ、気にしないことだ。それはきっと失敗じゃない……と思いたい。

■「ちょうどいい」は難しい


「ちょうどいい」感じで楽しめるかどうかは、その施設やイベントの質だけでなく、むしろその子の発達段階に合っているかどうかが大きなポイントになるから、ものすごく相対的で個人差がある。

行った人の話や評判を参考にしても、自分の判断を信じても、見込みが派手に外れることはあるし、どこへ行ってもなんとなく遊び尽くせていない気分が残ることが多い。

だから、この前の「ちょうどいい」具合に楽しめた日は、うれしさ倍増だった。

でもじつは、そんなに満足感があった日でも、ひとつだけどうしても怖がって乗らなかったものがあったほど。だから、大人の感覚で全体の5割程度楽しめていたら充分、くらいに思っておくのがちょうどいいのかもしれない。

来月、行こうか迷っているコンサートがある。去年の夏は、子ども対象のオーケストラのコンサートを迷って見送ったんだよなぁ。今度はあれよりだいぶ敷居が低い内容だけれど、どうかなぁ……。コンサートは5割じゃなぁ……。最後まで聴きたいしなぁ……。


あぁ、あなたがもっと大きくなって、そんな心配もせずに一緒に楽しめるようになったら、大人が行くコンサートにも行こう。大ホールで聴くオーケストラの響きや独特の緊張感もいいし、ジャズ系のライブの空気もいいぞ。ほかにもいろいろなジャンルがあってねぇ……。うん、楽しみだ。

あっ。でも中学生くらいになったらもう、「親と出かけたくない」とか言うのかなぁ……。親のそんな夢想に「ちょうどいい」時期っていうのも、そう長くは続かないのが現実かもしれない。

狩野さやか狩野さやか
ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。