みなさんは、子どもの写真をどのくらいの枚数撮りためているだろうか。
スマートフォンのカメラ機能の進化に伴い、ついiPhoneでパシャっとすることが多い私の、子どもの写真専用アルバムの保存枚数を見たら5,000に近い数字が示されており、単純に子どもの年齢で割って年間1,700枚。ざっくり計算して、ひと月に140枚は写真を撮っていることになる。

動きの緩やかな新生児のうちはスマホでパチリ、成長し機敏に動くわが子をだんだんスマホのCMOS(シーモス)センサーが追いきれなくなって、デジタル一眼レフに手を出し、それすら振り切ってターッとかけていく3歳児を日々動画で残す。普段使いは手軽さと本体の軽量さから、結局スマホに戻ってきている我が家である。


そして動画というのは、静止画(写真)に比べてとかく空きデータの容量を食う。
先日、保育園の運動会で動画を撮ろうとしたら、肝心なところでiPhoneが容量オーバーになる事態があり、それ以降、スマホの中のデータはすぐPCにつなぎ、さらにはPCの中身を外付けHDD(ハードディスク)でバックアップを取るという厳重体制にした。正直面倒な作業ではあるが、失うものの大きさを考えると仕方ない。

しかし、IT職が長い私はHDDが消耗品であることを知っている。
5年使うとだいたいどこかが傷んできて、ある日突然うんともすんとも言わなくなるのだ。

■それは1本のビデオテープから始まった


ある日、親戚から夫の幼少期を映した映像の入ったディスクが送られてきた。古いVHSが出てきたとのことで、ブルーレイに焼いて送ってくれたのだ。

昭和50年代。懐かしい色彩の画面、子どもたちがわさわさしている中に、小学校に上がるかあがらないかという丸坊主の“ちいさい夫”がいた。どことなく息子に似ているし、似てなくもある。

映像には、すでに他界している夫の父と思われる人物も映っており、写真で見るのとは違い、動いてしゃべる、息遣いのようなものまでビデオというのは残るのだなあ、と改めて映像について考えるきっかけになった出来事だった。

■3倍画質の私と33年ぶりの対面


そういえば、私の小さいころのビデオも実家にあったのではないだろうか。
勢いのあるうちにと実家を大捜索することになった。幸いすぐにVHS群は見つかり、問題は「どうやって再生するの?」

こんなこともあろうかと、以前夫は自分の実家からちょっと性能のいいビデオデッキを持ち帰っていたのだった。しかし、VHSというのはカビが生えると再生どころかデッキもろともやられてしまうので、チェック用に予備のビデオデッキを探していたが、これも私の実家の押入れからあっさり見つかり、幸運にも機材はそろった。

「これ大丈夫だったから再生していいよ」と夫からビデオを数本渡され、私もついに幼少期の自分と対面することに! 『’81 おゆうぎ会』と父の字で書かれたラベルの貼られたものを再生すると……

そこには水曜ロードショーで放映された『宇宙戦艦ヤマト』が3倍画質でまるまる録画されていたのだった。

うわあ!がっかりだよ! ラベル詐欺だよ、お父さん!

と落胆したところにカットインしてきたのはバレエの発表会。
そうか、ヤマトを上書きしてしまったのだな……(※テープのツメは折りましょう)

父は娘がどこにいるのか最後までわからなかったのか、ずっとカメラが何かを探すように動いていたのが印象的だったが、私は画面に推定5歳の自分を発見した。性別が違うだけでそれは完全に今の息子の姿そのものだった。ああ、DNA……。

■廃れ行く機材、残したいメディア


「いやあ、しかしテープってすごいね、30年前のがまだ見られる」
この様子を見ていた夫がボソっと言った。

たしかに、磁気テープやフィルムの耐久性は優れており、テープメディアにバックアップを取るのが一番確実だということは、サーバなどでも言われている。写真であればフォトブックなどで紙焼きにしてしまえば万が一データが飛んでも手元に残る。しかし、映像となるとそういうわけにも行かない。

もちろんプロの人たちは万全な保存体制を確保しているわけだが、個人レベルで、2014年の私たちはどうやって映像を保存したらいいのだろうか?

「HDDに入れて、定期的にひたすら新しいものにバックアップを取り続ける。それしかないよね」と夫は言う。

バックアップのバックアップのバックアップ。まるで無限増殖だ。バックアップし続けるだけの人生。……うわあ!
想像したらなんだか恐くなったので、ほかの策はないか考えた。

MOはどうだ。
たしかに丈夫ではあったが、容量に問題があるのと、家にあるそれはSCSI端子である。もう「SCSI」をなんて読むのかわからない世代もいるのではないかと思う。

「あ、じゃあMINI DVはどうなの?テープだよ?」
「いつまでも再生機材売ってると思う?」
確かに、近年ビデオカメラもHDD録画やメモリーカードに記録するものが増えた。MINI DVに記録するハードがなくなるのもきっと時間の問題なのだろう。

■いつまでも あると思うな そのデータ


では、私たちはいったいどうやって映像を保存したらいいのだろう。
そのヒントが国会図書館のQ&Aにあったのでご紹介したい。

電子情報の長期保存と利用に関するよくあるご質問
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation_03.html

以下、この内容をふまえながら、いろいろな保存方法の可能性について書いていく。

【1】 過去から未来へ

VHSから昔撮ったホームビデオを取り出して保存する場合は、

1.VHSデッキをHDDレコーダーなどと接続する
2.VHSの内容をHDDにバックアップする
3.念のためブルーレイなどのディスクにも焼き、別のHDDにもバックアップする
4.1年に1回などサイクルを決めて複数メディアへのバックアップを繰り返す

これが一般的なやり方ではないかと思われる。
問題は家にデッキがあるか、それは動くのか。業者によるバックアップサービスもあるが、テレビ番組など著作権のある録画物に対しては対応できない。もし自分や家族が出演したテレビ番組を保存したいのであれば気をつけなければいけないだろう。

【2】 現在から未来へ

今我々が日常的に接している保存メディア。
その寿命は「20度以下で涼しく、湿度30%前後、紫外線の入らない場所」という最適な環境で保存したとしても、CDやDVDなどの光ディスクの寿命は20年、磁気テープ類で30年といわれているそうだ。
ちなみにフラッシュメモリーに関しては10年程度、データの書き換え可能な回数は1~10万回程度とのこと。

では、クラウドはどうだろう?
最近スマートフォンのデータをクラウドサービスを使って保管する人も増えているかと思うが、そのメリット・デメリットは……

▼メリット
・通信環境があればどんどん保存できる(容量は各サービスによる)
・端末が故障してもデータは残る
・SNSへの投稿がラク

▼デメリット
・通信環境がないと何もできない
・ログインIDとパスワードを忘れるとどうにもできなくなる
・サービスがある日突然なくなる可能性がゼロではない

注意しておきたいのが、ログインIDがメールアドレスだった場合、携帯キャリアのメールアドレスを使わないこと。
MNPしたあとサービスにログインできず、八方ふさがりになるので、PCのアドレスにしておきたい。

また、常時同期をかけておかないと、とっさの水没の時には直近のデータが飛んでしまうことにもなる。ちなみに友人は先日、急にスマホのデータが全飛びするという目に遭った。故障は急にやってくるのだ。

そのほかアプリに写真をログとして残している人もいるかと思うが、そのサービスが突然終了してしまったら? サーバ障害ですべての保存データが飛んでしまったら? データセンターに人災・天災で何か起こったら?
考えすぎといわれそうだが、これらのことはいつか必ず起きる可能性がある。

また、デジタルデータにおいては、いつファイル形式が変わってしまうかわからない。数年後の未来、そのファイルを再生できるアプリケーションは存在するのだろうか。今は誰にもわからない。

■50年後、そこにいないかもしれない人の姿を残したい


幼少期の夫の映像を見たその日、私は産まれたばかりの息子を連れて祖母の家に行った時に、写真だけではなく映像を残しておかなかったことを後悔した。祖母は息子が1歳になる直前に他界している。

息子は写真を見れば、それが“ひいおばあちゃん”であることは認識するのだが、声を覚えていない。どんなしぐさで話し、動き、笑ったのかが残されていない。発掘したVHSにも祖母の姿は残されていない。私の両親の姿すら映っていなかったのだから。

50年後、どう考えても私の両親はもうこの世にいないだろう。私だって正直生きていないかもしれない。私の親世代は残念ながら映像が残っていないのだが、自分の知らない、覚えていない、自分のルーツを映像で疑似体験できるのは楽しい。

息子や私たちが映像で残されていれば、いつでも見ることができる。そう思い、息子以外の家族もできるだけフレームに収まるように写真や動画を撮ることにした。遠い将来いるかもしれない“息子の子ども”に、「お父さんは子どものころ、こんなだったのよ」をせめて残せればと思っている。

それをするためには、今からコツコツと時流に合わせたメディアでの“バックアップのバックアップのバックアップ”。大変だけど、これが未来につながるかと思うと楽しくなるだろう。

ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。