先日、人気女性お笑いトリオ・森三中の大島美幸さんが、子作りに専念する「妊活」のために、5月から芸能活動を休業することを発表した。

森三中・大島といえば、交際0日婚が話題となり、その結婚生活は夫である放送作家・鈴木おさむさんによって、著書『ブスの瞳に恋してる』(マガジンハウス)に収められているが、「次の本が出るころには家族がもう一人増えているといいな」という趣旨の記述があり、そうか、また前向きにがんばろうとしているのだな、と思っていたのだった。

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■「妊活」を発表した勇気


鈴木おさむさんのブログでは、子どものいる男女や不妊治療中の方から応援コメントがたくさん寄せられているが、一方で「妊活」という言葉に違和感を覚えるという意見もツイッターではいくつか見られた。

しかし、ほかに代わる言葉とはなんだろうか。「子作り」? それはダイレクトすぎる? 「ベビ待ち」なんて言ったりもするが、これについては何かいいフレーズをみんなで考えていくのが前向きでいいのではないかと思う。

ところで、大島さんがこの件を発表するに至った経緯を考えてみる。
女芸人というジャンル、さらにはグループの中でもとくに体を張るタイプの仕事が多いことで有名だ。番組内で相撲をとったり海外ロケで絶叫マシンに乗ることも多い。

「スタントマンみたいな仕事なので、赤ちゃんがおりてくるにはきついのかな、と考えたこともある」と会見で話しているとおり、妊娠初期の安静を保てるようにあらかじめ休業しておきたかったということだろう。一度流産を経験していることもあり、念には念を入れて慎重になったのだと思われる。

「妊娠したら、出産できると思ってた」。
記者会見とブログで夫婦の発したこの言葉が大変に重く、心に響いた。

■大島さんに捧げる「妊活」の流れ


おせっかいながら、大島さんにこの先どんなことが想定されるのか、妊活の流れをまとめてみる。もしこれから通院を考えている方の参考になれば幸いだ。

  • 基礎体温に基づいた自己流→病院選び→各種検査(男女)→タイミング法→人工授精→体外受精


だいたいこのような感じだと思うのだが、この中からいくつかピックアップしてポイントを紹介したい。

▼病院選び
高度生殖医療を得意としている病院が最短ルートではあるが、一般不妊治療の患者を受け入れていないところもあるので、ステージにあわせて選びたいところだ。なお、35歳以上の場合はなるべく早めに受診したほうがいいとされる。

・土日祝はやっているか
これは、排卵日のタイミングをつかむためにはいつでも診てもらえる体制が欲しい、ということ。もうすぐ!というときに大型連休に入ってしまい、自己流でタイミングを取るもチャンスを逃すということがありうるからである。
診察時間については休業しているなら特に問題はないと思うが、仕事を持っている場合は遅くまでやっているところでないと仕事と両立が難しい。

・家から1時間以内に確実に到着できるか
男性側の検査の際に、精液を採取して1時間以内に病院に持ち込む必要が出てくる。病院内でそのような部屋が用意されている場合は問題ないが、そうでない場合は近さも重要だ。

なお、二人目不妊で通院を考えている人は、子どもを連れて行けるか事前に調べておいたほうがいいだろう。ほかの患者に配慮し、子どもの同伴ができない病院もある。託児所のある病院もあるが、念のため一時預かりや家族への協力要請も頭に入れておきたい。

▼各種検査(男女)
血液検査、尿検査、性病検査、女性は子宮がん検査も行うのが一般的とされる。女性の検査には生理周期別に複数あるため、いつスタートしてもどれかの検査は受けられる。心配な場合は病院に通院スタート時期を相談しよう。

また、男性の精液検査結果では運動率や奇形率などがわかる。ひとつの医療機関で済ませたほうが何かと便利なので、不妊治療専門のところでなく一般の産婦人科に相談しに行くのであれば、男性の検査も行っている病院を選びたい。

▼タイミング法
内診で卵の成長を見て医師から日程の指示があり、夫婦がタイミングを取る。
診察と医師の方針によっては排卵誘発剤(飲み薬、注射)や黄体ホルモンを補う飲み薬を用いることもあるだろう。薬の相性もあるのでよく相談したい。
同じ薬でも病院によって値段に開きがあるようなので、事前に問い合わせておいたほうが安心だ。

……以降は検査結果と時期や年齢を見てステップアップすることになるが、費用も高額になっていくので、自治体の助成金制度を調べておきたい。

■気持ちの整え方


「妊活」に重要なのはメンタルをいかにフラットに保つか、ではないだろうか。

ホルモン剤を使えば気分のアップダウンやイライラが出ることもある。幸運にして早期に子どもが授かれたなら、それはとても幸せなことだが、長期になるとだんだん心が疲弊する。トイレで血を見ては泣き、街で赤ちゃんを見ては泣き、タイミングを取る日にうっかり眠ってしまい後悔の念で泣き、自分ばかりを責めて泣いて過ごす……というのは少し悲しい。できるだけ“活動期間を楽しむ”にはどうしたらよいか。

まずは、「過度に期待をしない」ことが重要かもしれない。
周期40日目くらいまではフライング検査をしないで待つ。生理が来たら心機一転でおいしいものでも食べにいってみる。たまには夫がサンドバッグになってみる(!)。気にしないでいても落ち込むときは落ち込む。夫が心身ともに妻に寄り添える環境。それがきっと理想的だ。

次に、「ムダな検索をしない」。
不妊や妊娠・子育てに悩んで検索したとき、ネガティブなブログにぶち当たってしまうことも多い。いい情報はもちろんあるが、不安なときの無防備な検索は地雷を踏むことが多い。

こういうときの男性というのは、自分の体に起きることではない事象に対してやや冷静に見られることもあるだろう。フィルタリングの役割をしてみてほしい。

そして、「線引き」。
大島さんは休業を1年程度と考えているようだが、不妊治療は目標値を先に決めておかないと、長いトンネルをひたすら走っている気分になりやすい。「卵子の老化」と言われているように、加齢とともに妊娠のしやすさはどうしても下がってくる。各種リスクを考えても年齢や予算、一定のステージでの線引きは必要になってくるかもしれない。

これについては、通院2年目を迎えた筆者も考え始めている。まさか自分が……、である。「どこでやめるか」。つらい決断ではあるが、決めないほうが残酷になる気はしている。

「ココロの省エネ」に重きを置いて生活するというのは、子育てのステージになっても必要だと最近思う。気分の上げ下げは体力を奪われる。感情的になりやすい自分としても、この技は今後積極的に習得していきたい。

■「妊活宣言」が働く女性にもたらすもの


「お子さんはまだ?」「二人目は?」
デリケートになっているときのこれらのワードは非常にダメージが大きい上に、事情を知らない相手は挨拶代わりに言いがちである。悪気はゼロなので仕方がない。

もし今後「妊活宣言」が一般化するならば、我々はそれらを回避できるかもしれない。

今回の報道を受けて、「うらやましい」という女性の声も目にした。実際働いていると「妊活するので休みます」とは言いづらい。しかし、通院が必要な段階になると会社員の場合は頻繁に早退する必要が出てきて多少なり支障が出ることは考えられる。

不妊とストレスの相関性も言われているので、できることなら休んで専念したいと思う女性は多いと思うが、休んで「妊活」に集中することが逆にストレスを招く可能性もあるし、経済的に厳しい側面はあるだろう。

今回の大島さんの決断というのは、社会にとって大きな意味を持つと思うのだ。

男女平等といえ、体はどうしたって違う。妊娠・出産は女性でないと物理的にできないことなので、「芸人として面白くあること」に対して、ストイックな大島さんは、「女性として、愛する夫との子どもを持ちたい」という気持ちとの間できっと悩みぬいたことだろう。

休んだことによる収入減。妊娠~出産がうまくいったとして、その間の自分のポジションはどうなるのか。復帰できるのか。休業中に「仕事したい!」という気持ちとどう向き合うか。これらは職業関係なく働く女性なら誰でも同じだと思う。

妊婦へのハラスメント「マタハラ」や男性の育児参加を妨げる「パタハラ」問題も叫ばれるなか、妊婦や子どものいる男女、これから子どもを持とうとする社員にも優しい企業が増えるならそれは素敵なことだ。

企業だけの問題ではなく、社会全体が妊産婦や子どもを望む人にも優しい世の中になって欲しいと願う。感情論はもちろんだが、公的な制度という意味でもだ。

妊娠~出産~育児といった個人のライフステージを公的に支援することについてネガティブな意見を目にすることはある。しかし、明日はわが身。いつ自分にはね返ってくるかわからない。これは筆者も経験したことである。

それら地道なことの積み重ねが、将来的に「自分にも他人にも優しい国、ニッポン」になっていくのではないかと思うのだが、どうだろう。

ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。