「ラジオドラマ」というのがあるのをご存じだろうか。音声だけの世界。ドラマだけど、ラジオ。先日その試聴会の機会をいただいた。ドラマのタイトルは『産後途中下車』。今週土曜(2014年10月25日)夜10時から、NHK FMにて放送される。


木村多江さん演じる新米母・尾野洋子は、産後、育児を一手に引き受けるものの、イメージと違うことの連続。夫・安夫(野間口徹さん)は仕事で忙しく、次第に溝を深めていく。そんな中、洋子は「イクメン」DJジョンイチロー(山口智充さん)に出会い、アドバイスを受けるのだけれど……。

いわゆる「産後クライシス」をテーマにしながら、脚本家・池谷雅夫さんによるコメディータッチの展開で、ストーリーは重くなりすぎずに、テンポよく進んでいく。

自己イメージが高すぎてひとりテンパり気味の妻の独り言、夫への遠慮気味かつレベル高めの要求、夫が耐えきれず妻に投げかける言葉……。産後の夫婦が直面する問題のキーワードがまるで教科書のように散りばめられたセリフの応酬には、ニヤリとしたり、グサリとやられたり。

あぁ、あの言葉は、私、言いました、あぁ、その言葉、夫に言われました、と、リアルにオーバーラップする人続出だろう。過ぎた人は笑えるけれど、もしかしたら真っ只中の人にとっては、セリフがリアル過ぎて笑えないかもしれないことが、コメディとしては一番の障壁かもしれない……と心配になるほど。

女性の言い分ばかりでなく、男性の方の「じゃぁこれ以上どうしたらいいんだ!」という率直な気持ちもほぼ対等に表現されていて、女の側の独り語りに終始せず、バランスよく描かれている。

これ、もやもや真っ只中の夫婦が一緒に聴けば、あくまでも「ドラマの話題」として、「他人のこと」として、「この夫婦ってさぁ~」と、語り合えるかもしれない。自分たちの問題としてリアルに話すと感情抜きには無理だけれど、ドラマの中の「よその夫婦」の話題としてなら、意外と客観的になれる可能性がある。自分のやりきれない気持ちの向こう側にある、相手のやりきれない気持ちにお互い素直に想像が及ぶかもしれない。

さて、ドラマのふたりがすれ違いにどう決着をつけるのかは、聴いてみてのお楽しみ。そして、この結末を、「そうだこれこそ解決策!」と思うか「そんなに甘くないでしょ!」と思うか、それは聴く人によってきっと違う。

自分たち夫婦はどう乗り越えたのか、まだ乗り越えていないか、場合によっては決裂したか……。当事者としての思いを重ねながらそれぞれの感想を持つだろう。そして、小さなきっかけやヒントをもらえるかもしれない。


テレビドラマに慣れていると、音声だけで展開していく故のちょっと誇張された雰囲気は、少々気恥ずかしくもあるけれど、これはひとつのスタイル。声を聴いたら顔が思い浮かぶキャストで聴きやすく、あの木村多江さんがはじけ気味にきゃぁきゃぁした声で一気にまくしたてるのはなかなか新鮮。演出の宮本えり子さんは、ご自身も子育ての当事者であり、リアルな感覚が各所のディテールに生かされているのは間違いない。

普段ラジオを聴かない人でも、「らじるらじる」(http://www3.nhk.or.jp/netradio/)というNHKのネットラジオがあるので便利。「らじるらじる」ウェブ上で、もしくはスマートフォン/タブレット用アプリ経由でも聴けるので、子育て中の皆さんには、スマートフォンにイヤホンなんて聴き方がおすすめだ。

土曜の夜10時、子どもが寝入った横で、寝ない赤ちゃんに授乳しながら、残った家事を片付けながら『産後途中下車』を聴く、なんていうのはどうだろう。「夫」の皆さんも、ぜひ。もちろん夫婦ご一緒でも!!

FMシアター 産後途中下車
http://www.nhk.or.jp/audio/html_fm/fm2014036.html

狩野さやか狩野さやか
ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。