「もち米や生クリームは母乳に影響しない」。
これは先日知って大変驚いた話である。

ツイッターでは複数の産婦人科医がその日、同様のツイートをしていたので、医療関係者にとっては「何をいまさら」という話であることは、ちょっとだけ横に置いといていただきたい。



さて、筆者が初めての出産をしたのは約4年前のこと。
帝王切開だったので、2日ほどは新生児室に移動するのもなかなか厳しく、母乳の出もさほどよくなかったのだが、3日めあたりからちょっと仮眠をとろうものなら胸が痛くて目がさめるほどになり、定期的に助産師に来てもらってはマッサージをお願いしていた。

助産師からは、「もち米や洋菓子系は乳腺炎になりやすくなるから気をつけてくださいね」といわれ、病院のお祝い膳に入っていたお赤飯に、同室の女性と二人困惑しながら、おそるおそる食べたものだった。

その後も律儀に油ものと乳製品と餅を避け続けた日々。
卒乳とともにそれらを解禁したのだが、抑圧からの開放 ──そのパワーはすさまじく、産後減った体重は一気に臨月時と同等の重さに。

子どもの成長とともにうっかりヘビー級になってしまった筆者なのであったが、じわりじわりそれらを少量食べ続けて満たされていたら、こんなにリバウンドしなくて済んだじゃないか!あの我慢を返せぇー!
……と、ややあさっての方向に怒りをぶつけたのだった。

■妊婦、それは都市伝説との戦い


「信じるか信じないかはあなた次第」とは、あるテレビ番組で有名になった芸人さんのフレーズであるが、妊産婦にはとかく都市伝説が付きまとうように思う昨今である。

じつは筆者、現在4年ぶり2度目の妊娠中なのであるが、とにかく日々、「思ってたのと違う」の繰り返しなのだ。

前回の妊娠時にかなり細かくメモをつけていたので、それを頼りにしばらく過ごしてみたのだが、まず、つわりの状況がまるで違う。

4年前の食べづわりに対して、今回の……これは「何づわり」と呼ぶべきか、果物以外受け付けず、かといって吐くところまでは行かず、しかしずっと気持ち悪く、気温が上がるととくに具合が悪くなる。

前回のときに大丈夫だったメニューは一切受け付けなくなり、その日その日で食べられるものを探す作業が再び必要となった。

おかげさまで8キロほど体重が減って指導が入らずにすんだのはラッキーだったが、つい先日まで大変につらかった。

現在も「つわりが終わったか?」といわれれば、気温が高いとまだ気持ち悪くなることがあり、室内に暖房が入るようになった最近は、再び予断を許さない状況である。

しかし、同一人物に起こる事象で、「中の人」の性別も同じだというのに(これは早々に判明した)、妊娠というのは毎回ここまで異なるものなのか!と、自分のことながら少し感心してしまった。

初産とは年齢も環境も家族の人数も違うのだし、そもそも「中の人」が違う人なのだから、よく考えれば違って当たり前である。

・おなかが前に出ると男の子、全体的に丸みをおびたら女の子
・ファーストフードのポテトを欲したら男の子

など、妊娠に関してはいろんな俗説があるが、今回は上記のどちらも該当していない筆者である。

■妊婦は冷やしちゃだめ、の真相に迫る


筆者は、今回の妊娠にいたるまでに長いこと婦人科の通院を経験した。
そのクリニックでも、助産師に「冷やしちゃだめよ」と繰り返し言われ、腹巻とレッグウォーマーを必ず装着する熱の入れようだった。

妊娠がわかったときもしっかり腹巻着用だったのだが、早々におなかのサイズアップが始まったため、苦しくなり腹巻をあきらめた。

それにしても暑い。
夏だったせいもあるが、自分の体温も高いし、暑いと気持ち悪くなるので、気温の高い時期をまるまるグロッキーな状態で過ごした。

そんな夏のある日、ツイッターのタイムラインに流れてきたのは、書籍やテレビ出演などで知られる、産婦人科医・宋美玄(そん・みひょん)医師の、「腹巻きやレッグウォーマーは寒くて使いたい妊婦さんは使ってもらっていいですが、やらなきゃだめという認識は誤解です。」という一言。

https://twitter.com/mihyonsong/status/492592437525618688

「……マジか!」。
思わず声に出して言ってしまった。

今までがんばって厚着していたのは何だったのだ。
前回の妊娠は逆子だったのだが、「温かいほうに赤ちゃんの頭が行くからおなかを温めてね」などといわれた。それも関係ないなんて!

その数日後、やはり同じようにツイッターのタイムラインで彼女たち産婦人科医のやり取りの中から、冒頭の「食べ物と母乳(詰まりや出や味)は関係ない」という事実を知るのだ。

【参考記事】
乳製品で乳腺炎? おっぱい都市伝説2:宋美玄のママライフ実況中継:yomiDr./ヨミドクター(読売新聞)
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=63596


……これはヤバい。
私のたかだか4年前の出産に関する知識がもう古くて使い物にならないのかもしれない。
そんな状態でこれから初産を迎えようとする友人たちにアドバイスなど、まるで老害ではないか……!

危機感を覚えた私は最新情報へのアップデートをこころみることにした。

■自分の妊娠・出産の知識をアップデートする


入手したのは、その宋美玄医師の書いた『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトブック』(メタモル出版)。2014年3月に出た、比較的新しい本である。Q&A方式になっており、目次をぱらぱらめくって気になる情報から読み始めた。

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そもそも筆者、前回の妊娠時には、平日開催だったのを理由に母親学級のたぐいに一切出ていない。会社を休んでまで行くことに抵抗があったのだ。

今にしてみれば、そんなにしがみついても後に出産を理由に解雇されるのだから、母親学級行っときゃよかったのに、と思うのだが、あとの祭りである。

「ベタなもの」に対してことさら抵抗があったのも重なり、育児雑誌もまったく読まず、“Google先生”だけを頼りに妊娠~出産期を過ごしてしまったので、インターネットのマユツバ情報が多く入る一方、本当に知っていなくてはいけない知識がまったく入っていなかったことをこの本で知るのだ。

さすがに今回は保育園などで情報が入るので、うっすら知識のある状態での妊婦生活再びだが、それでも「あれ?これっていいんだっけ?」というタイミングは日々やってくる。

気になったときにさっと目次を見て、該当する箇所を読めばいい。
摂取していい食品情報のほかにも、妊娠中の服薬問題、世間で言われているけどじつはしても大丈夫なものと本当にダメなこと、体重増加はそこまで気にしすぎなくてよいこと、“妊娠中のセックスはどこまで大丈夫なのか”問題、エコー写真の見方まで、コンパクトでありつつ盛りだくさんの内容であった。

妊産婦、街を歩けば古い知識でしゃしゃり出てくる「余計なおせっかいオバサン」につかまることが多いのは、この4年でリアルに感じていることなのであるが、「今は違うんですよ~。ほら、産婦人科の先生がこう言ってる」とエビデンスとして使えるのは大変ありがたい。

また、自分自身が「余計なおせっかいオバサン」にならないためにも、今後定期的に情報はアップデートして行こうと思ったのであった。

■母親学級で助産師に質問してみた


産院のほうから「基本全員参加で」と言われたこともあり、経産婦ではあるが母親学級に参加してみることにした。

カリキュラムは、病院の紹介、病棟の説明、部屋の案内やLDR(陣痛分娩室)の説明、グループトーク、助産師による出産の流れ、インストラクターの資格を持つ助産師によるマタニティビクス体験(これが大変に恥ずかしいものであった)、理学療法士によるリハビリ相談、管理栄養士による食事の話、小児科医による生まれたあとのケアについて、薬剤師による妊娠中の薬の話、などなど……。

大学の講義か!というほどみっちりした内容の2時間半であった。

「体を冷やさないように」「体重に気をつけて」「塩分を控えて」「母乳にいい食べ物・悪い食べ物」といった、本の中で「そうでもない」と語られていたワードが出てきたこと、また、産婦人科医が出席していなかったのが気になり、最後に助産師への質疑応答の時間があったので、質問をぶつけてみることにした。

――4年前に一人めを出産しています。この4年で出産・育児に関して、何か変わったことなどはありますか?
「とくにないと思います」

――もち米や乳製品、油などは乳腺炎の原因にはならないと複数の産婦人科医が最近言っていましたが、それについてはいかがですか?
「ああ、そうですかー、……(なるかどうかは)人による、というような回答をしています」

夏ごろには助産院での事故が報じられたこともあり、大学病院や総合病院ではどうなのだろうか、産婦人科医と助産師間の連携や最新情報の共有は適切にされているのだろうかと気になっていたところだった。


出産まであと4ヵ月弱。不安なことがあったらQ&Aサイトにきくのではなく、“トンデモ”な情報を排除するアンテナを持つ。

信頼できる筋の育児書を読んでみる。通っている病院の産婦人科医と助産師両方の複数にきいてみる。そして、対話を重ねて出産までに産院と信頼関係を築く以外に方法はない、と改めて思った次第なのだ。

ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。