困った。娘が野菜を食べない。

離乳食の時期は差し出したものを何でもぱくぱく食べ、「よく食べるね~、ほんと食べるのが大好きだね~」と喜んでいた私たち夫婦。

1歳を過ぎ、離乳食から大人の食事とほぼ同じものに移行し、調理も楽になってよかったよかったとほっとすること数ヵ月。しかしここ最近、意思表示がかなりハッキリしてきて、食べ物もイヤなものは拒絶する素振りを見せるようになった。


野菜を食べさせようとすると首を横に振り、それでもあーんと食べさせようとすると手で振り払う、もしくは私に差し出して代わりに食べろと強要する。

だいたいこれくらいの月齢だと野菜が嫌いな子どもが多いということは聞いていたし、ネットでも「野菜嫌いな子にはこうやって対処しましょう!」と、野菜を食べさせるためのレシピやテクニックがたくさん載っている。

ご飯に混ぜる?お味噌汁に入れる?お焼きのようなものを作って中に混ぜ込む?
トライしてみて成功するときもあるが、大抵は「こ~れ~か~!!!」みたいな顔をして口から野菜を取り出す。

そして「はい、バレましたか……」とうなだれるのであった。

今のところ積極的に食べてくれる野菜は、かぼちゃ、じゃがいも、さつまいも……糖質ばっかり! 葉もの野菜は絶対に自分からは食べないので、細かく刻んでご飯に混ぜて、だましだまし食べさせる。でもそんなに大量に食べさせられないので、ごくわずかな量のみ。

こんなことじゃ栄養が偏ってしまうなあと、ぽつりツイッターでつぶやいたところ、中学生のお子さんを持つ先輩ママから返事があった。

「私もどうすればいいのかなーって悩んだけど、今となってはそんなに気にすることなかったなって思う」
「うちの子たちだいぶ大きいけど、未だに好みが変化してるし大変よー」

そっか、気にしなくていいのか。
そっか、大きくなってもまだ好き嫌いは続くのか……。
いいニュースと悪いニュースを同時に聞いた気になった。


自分自身の過去を振り返ると、幼稚園に通ってるときはほうれん草がすごく嫌いだった。でも今では大好きな野菜のひとつ。ピーマンが食べられるようになったのは高校生になってからだったし、グリーンピースはいまだに嫌いなので、シュウマイに入っているものは取り除いているほど。

好き嫌いは少ないほうだと思っているけど、それでも好んで食べない食材はちらほらある。

野菜の苦味、エグさ、香り、食感……大人になって開眼する味わいもあるので、これを1歳児に理解しろというのも酷だな、と思う気持ちもあるのだ。

それでも何となく、「食育」という言葉が頭をかすめたり、検診で何か指摘されたら嫌だなあという心配もある。保育園では前日の夕飯メニューを連絡帳に書いて報告するところもあるというから、気を使っているお母さんも多いことだろう。

しかし、「今となってはそんなに気にすることなかった」というのは真理だと共感する。

新生児期の「なかなか寝てくれない!何で!」という焦りに始まり、思うように母乳が出ない、乳児湿疹ができた、おむつかぶれした、動き出して目が離せなくなった、夜泣きが始まった、と一難去ればまた一難、な日々をずっと続けてきた。

「お腹すいてるんだったらミルクをあげたら?」と言われようものなら、「母乳で頑張ってるんだから余計なこと言わないで!」と荒れ狂っていた産褥期に始まり、困ったことがあるとすぐグーグルで「赤ちゃん ○ヵ月 ××しない 理由」と検索……。

何もかもが初めてなのだから、「まあそのうちできるようになるでしょう」と大きくかまえることができないのも当然なわけで。


離乳食を与えている時期もなかなか手づかみ食べをしてくれないので、検診で栄養士さんに相談したこともあった。
「ママやパパが手づかみしてお手本を見せてあげたら、そのうち真似するようになると思いますよ。ダメならしばらくは様子見でいいし、もしどうしても気になるようだったらトレーニングすることもできますからねー」と言われて、私もかなりオーバーアクションで手づかみをして見せた。

その後間もなく手づかみするようになり、順調に食べるようになると、あのときの心配は何だったのだろう、と思ったのも事実。喉元過ぎれば……、というやつである。

もちろんなかには、放置しておくと深刻な事態に変化する類のものもあるのだろうけれど、悩んでいるよりも子ども成長スピードが速くて、ソリューションを見つけた頃にはもう一件落着していることが往々にしてある。

でもその渦中にいるときは、悩みが解決できないとこの世の終わりみたいな気分になってしまうし、今この時点でも、「もうこのまま一生野菜食べないんじゃないの?だとしたら私の責任……」と青ざめたりする。

「そんなに心配しなくてもいいよ」と言われても、自分の目で大丈夫ということをたしかめられるまではなかなか安心はできない。

そして、そんなことを繰り返して日々は過ぎ、子どもはぐんぐんと大きくなり、私自身もらせん階段を上るように少しずつ経験値を上げている。



まだ私は子育て歴2年弱なので、何で悩んでいたか、どうして困っていたか、割と細かく覚えているのだけれど(SNSなどのログに感謝)、あと5年、10年もしたらぼやっとしか思い出せなくなる悩みもあるのだろう。いや、5年もかからないかも。

私が子育てしている様子を見て、よく母が「本当に申し訳ないんだけど、あなたにどんな子育てしてたか全然覚えてないのよねえ。お兄ちゃんがいるから構えなかったせいかなあ」と笑いながら懺悔してくれるのだが、祖父母世代は子育てなんて数十年前だから、そりゃ忘れてもいるだろう。らせん階段も上りきって多分雲の上くらいにいるのだもの。


今回、友人の言葉をきっかけに、「大きくなっても好き嫌いが変化するのであれば、今がむしゃらにやる必要はない」と発想を変えてみようと決めた。

中学生くらいまで手がかかるのか、結構長いな、というショックもあったが、逆にひとつの目安が見えたような気がして、息切れしない程度にペース配分しようという気になった。

たとえゴールまでが長くても、そこまでの距離を知っているのと知らないのでは、ちょっと精神的負担が違う気がする。「食べてくれたらラッキー」くらいの気持ちで食卓に出すのも悪くないのかもしれない。

それにしても、中学生になったらどんな風に好みが変わるのだろう。
その時は今と真逆で、「ダイエット中だからサラダしか食べない!」とか言うのか?言ってるだろうなあ……。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。