年明け早々、ネット上の子育てクラスタではある動画が話題となった。


働くママたちに、よりそうことを。|cybozu.com
http://cybozu.co.jp/company/workstyle/mama/

こちらの動画についての感想はある程度出そろった感もあるので、今日は「その先のこと」についてちょっと考えてみたい。

こと育児界隈における話題の提起は炎上しやすいテーマでもある。そこにあえて切り込んでいった勇気(?)を称えたほうがいいのかもしれないが。


この動画の第一弾に関しては「泣いた」「自分のことかと思った」と好意的な意見が多かったように見受けられたが、そこで期待値が高まりすぎたがゆえの今回、である。

正直、これは炎上を狙ったものなのか?単に読みが外れてしまったのか?筆者には見極め切れていない。しかしながら、「じゃあ、どういう展開だったら面白く見ることができたのか」を、今回は勝手にご提案したいと思う。

■もしも……あの動画がこんなシナリオだったら(1)


『大沢綾子に怒られたい』

この動画の主人公、大沢綾子のデスクに同僚男性・面川が自身の子どもの動画を見せに来る。
「イクメンしてるねー」という綾子に面川が一言。
「そうそう、結構手伝ってるんだけどさー、なんかいつも怒られるんだよねー」

その言葉を聞いた綾子、とたんにブチっとなにかが切れる。

「……はぁ? “手伝う”だ?」
「……え、なに、なに、ちょ、どうした?」
「このスマホの中に映ってるかわいい赤ちゃんは誰の子なんですか? 奥さんがひとりで作ってひとりで産んだ子なんですか? コピーロボットかよ、そんなわけねえだろ! あんたの血は一滴も入ってないとでもいうんですか? ふざけんじゃねえよ! なにが“手伝う”だよ、他人ごと気取ってんじゃねえよ! ちょっと保育園の送迎したくらいでイクメン気取りかよ! こちとら、んなもん毎日やってんだよ! おめえどんだけ育児にコミットしてんだよ、言ってみろよ! これが仕事だったらチームの中に『お手伝い感覚』で働いてるやつがいたらどう思うんだよ! 会社だったらクビにすんだろうがコンチキショー!」
「……ご、ごめん。……なんかごめん」
「……あ、うん、こっちこそ、ごめん。ちょっと“手伝う”って単語に腹立っちゃった」

―― 面川の携帯電話が鳴る。
「あ、もしもし? どうした? ……え、熱? あ、そう……。俺、行くわ。うん、大丈夫。調整するし。保育園電話しとくからいいよ。うん。はい、はい、じゃーねー」
「大丈夫?」
「あ、ごめん、俺、今日ちょっと早退。」
「いいよいいよ、引き継ぐよ。早く行ってあげな」

面川、行きかけたところで振り返って言う。
「大沢の言うとおりだな。俺、もっとがんばるわ」
「ピントずれてることやってもまた怒られるだけだから気をつけなねー」
「うるせえ!」

そういい残して笑いながら保育園に子どもの迎えに行った面川を見送った綾子は、自分の夫にもこんな台詞言えるだろうか、とふと考えてしまったのだった――。

■もしも……あの動画がこんなシナリオだったら(2)


『トウサン』
【第2週 ~渡る世間に鬼が来た~】

「ただいまー」
主人公、大沢綾子が保育園から子どもをピックアップして帰宅すると、そこには地方に住んでいるはずの義母・早苗が。

「……お義母さん、どうなさったんですか?」
「来たくなったから来たんだよ。あれかい、私は息子に急に会いたくなったらいけないとでもいうのかい?」
「いや、そんなことないんですけど……あ、お茶、入れますね!」

綾子は台所で夫のタカオにメールを入れる。
≪帰ったらお母さん来てたんだけど、聞いてた?≫
夫からはすぐ返事が届く。
≪ごめん、言うの忘れてた≫
≪……忘れてたってなんだよ……!≫

「綾子さん、ずいぶんと忙しいのねえ、台所に食器がこんなに。洗濯も毎日はしてないのかい? ……いてっ!」
ルンバにつまづく義母。その拍子に動き出すルンバ。あわてて止める綾子。

「なにこれ! え、掃除ロボット? 綾子さん、お掃除をロボットにさせてるの? あなたはいったい家のことなにしてるのかしら!」
「……すみません……」

「これだから、あの子にはちゃんとしたお嫁さんもらえばいいのにって何度も言ったのよ。仕事にかまけて、子どもは保育園に預けっぱなし、家の事はロボットにさせっぱなし。別にあなたがいなくたっていいじゃないの。ねえ、ハルくん?」

お茶を出した後、綾子はトイレにこもって泣くのだった。

その日は義母が息子のお風呂と寝かし付けをしてくれたおかげで、寝落ちすることもなく、深夜に夫婦の時間をとることができた綾子とタカオ。
「もう、連絡事項くらいちゃんと伝えてよ。話す暇ないんだったらメールくらいできるでしょ?」
「ごめんごめん、忘れてたんだって。俺だって忙しいんだよ」
「私だって働いてるんだからね! 会社だったらそういうの全部カレンダーつっこんどくでしょ? 普通は!」

そこに、寝ぼけて寝室から這い出してきて、急にめそめそ泣き出したハル。こういうときの対処法に慣れていなくておろおろするタカオ。抱きあげるとずいぶん重たくなっており、成長に気づく。
「おばあちゃんがね、ママのこといらないっていった」
言葉に詰まるタカオ。
「ママ、いつもがんばってるのに、かわいそうだよ」

泣き止んだハルはタカオに抱っこされたまま眠ってしまった。
「子どもって、あんな小さくてもよく見てんだな」
「……そうだね」
「ごめんな、俺、そういう風になってんの気づかなくて」
「ううん、こっちだって言わなかったわけだし」
「もうちょっと、なんつーか、ちゃんとディフェンスするから」
「うん、それもうれしいけど、もっと別にお願いしたいことあるわ」
「なに?」
「私の業務量、キャパ超えてるんでもうちょっと減らしてください」
「お?」
「こうやって言われると実感するところあるでしょ?」
「……そっか」

翌週、保育園の送りをタカオが担当することになり、綾子の家には大型の食洗機が導入されたのだった。(……続く。全150話)

■もしも……あの動画がこんなシナリオだったら(3)


そのほかにも、こんなパターンが考えられると思うのだ。

【1】
冒頭、スタッフ全員の土下座からそれは始まる。
「私たちがわかっておりませんでした!」
「そこで、第三弾は新メンバーを投入します!」

新しいスタッフが紹介される。
乳児育児真っ最中の男性ディレクター。
料理も得意、保育園の送り迎えももちろん毎日やっている、といったプロフィール。

「次回作は彼の意見も取り入れつつ進めて行こうと思っています」
そこに≪撮影快調≫のテロップ。

【2】
『いっそのことあなたが作るムービー』の巻

YouTubeであればリンクボタンが設定できるはずなので、岐路に立った主人公の行動を二択で選んで行き進んでいくゲームブック風ムービー。

【3】
『よりそうのは、働くママだけでいいのでしょうか?』編

このムービーのテーマ「働くママたちに、よりそうことを。」というコピーを見て、「あー、私除外ね」というリアクションが意外と見られたので少し気になったのだった。

もし、このムービーが啓蒙すべきものが“出社することに頼らない働き方”や“子どもを持ちながら働くことをもっと希望のあるものに”であるのだとすれば、それはママに限らなくてもいいのではないかと考える。

たとえばパパが主軸で「夫婦間で使うグループウェア」という切り口もできるだろうし、第二子・第三子妊娠中で家にいる奥さんをフォローしつつ、上の子の対応もするのでグループウェアを使って会社との連絡もばっちりなお父さん、というストーリーだってあるだろう。

グループウェアが主力商品の会社なだけに、最終的には製品を打ち出す方向に持っていくのではないかと思うのだが(商品宣伝一切なしのただの啓蒙運動でもそれはすばらしいとは思うが)、家族がみんな幸せになるストーリーをそろそろ見たいと思う。

■「ママにしかできないこと」なんて思い込みさ


この動画には、「ママにしかできないこと」「パパに言うほどのことでもない」という台詞が出てくるのだが、まずその意識改善ではないかと思ったのだ。

お願いすることをあきらめてしまう前に、相手に伝わる言語で話し合いはしたのだろうか。

これはすでにいろんな方が言っていることであるが、子どもが「ママじゃなきゃイヤー!」となった場合を除いては、本当の意味で「ママにしかできないこと」というのは生物学的に難しいことだけではないか。

夫婦間の育児に関する意識の断絶がディスコミュニケーションを理由にしたものであるならば、夫婦はもっと会話を重ねていく必要があるだろう。

そのツールのひとつとしてのグループウェア、という流れに持っていくのが一番きれいなのではないかと個人的には思ったのだが、何を目的地に定めてあの動画を作っているかについては、直接聞いてみたいところである。


ちなみに我が家は、紆余曲折あって保育園の送り迎えから日々の食事、お風呂、寝かしつけにいたるまですべて夫が担当している状況だ。

「夕べ遅かったのに早く子どもに起こされてツラい」などと夫が愚痴をこぼすことも最近は増えてきたが、「え、自分が早く寝りゃいいじゃん」と冷たい返答することも多々あるので、実のところ、あの動画を見て己の態度を反省した筆者であった。

ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。