―― 都市鉱山とは、資源(レアメタル等)を含んだ廃家電などを、鉱山に例えて表現した言葉。うまく活用すれば、廃棄物は宝の山に変わる。
この都市鉱山という考え方は、日本の家庭の女性にも当てはまるのではないだろうか。

■トリリンガルの女性より、英検4級の男性


テレビ番組で取り上げられていた、ある女性の事例を紹介したい。
彼女はフランスの大学を卒業して現地で就職した後、帰国して結婚・出産。その後は子どもの預け先が確保できず、10年近く専業主婦だったそうだ。しかし最近、日本語のメニューをフランス語と英語に翻訳する内職を始め、「毎日が楽しくなった」と顔をほころばせていた。

その姿を見て、ため息が出た。

こんな優秀なトリリンガル女性が家庭で皿洗いをしている間に、「少々お待ちください」も英語で言えない男性が会社で国際電話を受けてあたふたしている……。なんともやるせない気持ちになった。

彼女はまさに、都市鉱山のひとり。子どもがいるからという理由で、本来のポテンシャルを発揮できないまま、社会からはじき出されていたのだ。

きっと日本中には、彼女のような優良な“資源”が山のように眠っているはず。この能力を活かさないのは、女性個人にとっても、社会全体にとっても大きな損失である。

■子持ちの女性を阻む、ガラパゴスな労働環境


とにかく会社に来て残業する。長時間労働で経済発展を遂げてきた日本には、未だにこんな傾向がある。

しかし世界的に見ると、日本の働き方は効率的とはいえない。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本人の1時間あたりの労働生産性は41.3ドル[※USドル]。これは、トップのノルウェー(87.0ドル)と比較して半分以下であり、アメリカ(65.7ドル)やフランス(61.2ドル)との比較はもちろん、OECD平均の47.4ドルよりも低い。
【参考】日本の生産性の動向2014年版|日本生産性本部
http://www.jpc-net.jp/annual_trend/


日本の労働環境は、専業主婦の妻が家事育児を一手に担うことを前提にしている。時代は変わっているのに、だらだらと働く癖が残っているのかもしれない。この働き方が、子持ちの女性とは非常に相性が悪いのだ。

少し話がそれるが、ベルギー人男性の友人は、会社での過ごし方についてこう話している。
「出勤したら、まずコーヒーを飲みながらゆっくり新聞を読むでしょ。そうしたら仕事。すぐに休憩時間になるから、のんびりランチをして食後のコーヒー。その後仕事をして、疲れたらコーヒー。もう一度仕事をして、定時になったら帰るんだ。コーヒー飲んでばっかりだって? でも仕事をするときは、すごく集中するよ」

ちなみに彼はうだつの上がらないサラリーマンではなく、日本に遊学する資金を余裕で持っている青年実業家。ベルギーでは、こんな働き方は珍しくないそうだ。それでも1時間当たりの労働生産性は63.2ドルと、日本より21.9ドルも高い。

■大切なのは、保育園よりも社員のマインド


政府は「女性が輝く日本」を目指し、待機児童解消を推進している。
【参考】人材の活躍強化 ~女性が輝く日本!~|首相官邸
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/kagayaku_josei.html


もちろん子どもの預け先は必須だが、働き方が現状のままでは都市鉱山に逆戻りしてしまうだろう。そもそも子持ちの女性たちがキャリアを諦めたのは、残業が難しい上、子どもの発熱などにより仕事に穴を空ける可能性が高いから。そんな制約の中でも能力を発揮できる環境も、同時に整えていかなければならない。

振り返ってみると、筆者が新卒で勤めていた企業はまさに都市鉱山を量産していた。
子どもの急病で仕事を休む社員について、課長は「私が頼んで子どもを生ませたわけじゃない。どんな理由があろうと会社に来ないのは論外」と言い放っていた。

係長たちは、どうすれば突発的な欠勤を防げるかを話し合っていたが、今考えると滑稽以外のなにものでもない。子どもの体調を、大人の事情でコントロールできるわけがないのに。そんな環境に嫌気がさして、退職する社員が後を絶たなかった。

逆に、子持ちの女性にとって理想的な職場で働いていたこともある。
たとえば子どもがRSウイルスにかかり、一週間以上欠勤したことがあった。しかもそれは、育休からの復帰直後。一年ぶりに出社するや否や、あちこちに謝罪をして回った。そのときにかけられた言葉に、思わず涙が出そうになったのを覚えている。

「子どもが病気になるのは仕方がないよ」
「ママに仕事に行ってほしくなかったんじゃない?」

その後も何度も欠勤してしまったが、責め立てられることはなかった。
ここまでサポートしてもらえると、逆に「絶対に迷惑をかけられない」という気持ちが強くなる。毎日仕事を持ち帰り、急な欠勤の際にはフェイスブックや電話でやりとりをしたり、子どもが寝ている間に仕事をしたりと、できる限りのことをやっていた。

最終的には諸事情により退職したが、子育てとの両立を支援してくれたこの会社には本当に感謝している。

企業は社員の状況に合わせて働ける環境をつくり、子持ちの女性はそれに甘えず成果を出すことに全力を尽くす。これこそが、むやみに保育園を増やすことより大切だと思う。

ヒラタ ケイコヒラタ ケイコ
大学を卒業後、サラ金、貿易事務、IT、外資系銀行など、あらゆる業種・職種を経験するも適職には出会えず。35歳で出産後、夫が出張族のため家事育児の負担がのしかかり、36歳で退職。現在は子育てや女性の働き方などをテーマに執筆活動をしている。