米国東部・メリーランド州で起きた、2014年12月の出来事。
10歳と6歳の兄妹だけで約1マイル(約1.6キロ)離れた公園から、歩いて帰宅させた夫婦が、大人が一緒にいない状態で歩いている子どもたちを見かけた第三者が警察に通報したため、育児放棄の疑いでチャイルド・プロテクティブ・サービス(=CPS)局の調査対象になる、という事件があった。

この夫婦は子どもたちが自分で考えて行動できる自立精神を養うため、"free-range parenting" を徐々に取り入れていっているのだと説明した。しかしこの4月にまた、子どもたちだけで公園から帰宅させていたとして、CPSが子どもたちを自宅から3ブロックの地点で保護した。帰宅させたのはそれから数時間後。そしてまた、CPSの調査対象となったという。

この件が報道されて以来、ネットでもテレビでも、「子どもたちだけでどこまで行動させるべきか」「親はいつまで・どこまで子どもについているべきか」について、日々さまざまな意見が出されている。


「まったく常識はずれ」という意見もあれば、アメリカの今の育児世代やその親世代は、子どもだけで行動することがもっと多かったらしく、「今は "free-range parenting" なんて言うが、昔はそれが普通だったんだ」「それを自分の子どもにも体験させたい。子どもだけで行動することで、自主独立した精神を養える」「そもそも政府が一個人の育児のやり方の善悪を判断するのはおかしい」という意見も。

また、「気持ちはわかるが、今の社会状況では、自分たちの主張を通そうとCPSや警察と闘うことは賢いと思えない。子どもは“自分たちだけで行動したら、また保護されて親から引き離されるかもしれない”という不安を感じるだろうし、親は子どもを取り上げられるかもしれないというリスクをわざわざ負うほどのことではないのでは」という意見もある。

実はこの議論、最近では2008年からずっと続いているらしい。
そもそものきっかけとなったは、2008年にコラムニストのLenore Skenazyさんが書いた、「なぜ私が9歳の子どもを一人で地下鉄に乗せるのか」という記事。
http://www.nysun.com/news/why-i-let-my-9-year-old-ride-subway-alone

"free-range parenting" という言葉が生まれ、これで一躍有名になった彼女は、テレビ番組『World's Worst Mom』の司会から、著書『Free-Range Kids』の出版もこなし、ブログ( http://www.freerangekids.com )も書いている。


2008年となると、筆者はまだ親ではなかったし、小学生が一人で電車に乗ることが珍しくない日本から来たこともあり、インパクトが少なかったからか、その頃にこの言葉を聞いた記憶がまったくない。

とは言え、Lenoreさんもメリーランド州の夫婦も、何もいきなり子どもたちを家の外に放り出したわけではない。実際は行動範囲を少しずつ広げるなどして、少しずつ慣らしていっていると主張している。

しかし、やはりこの件で気になるのは、大人がそばにいない子どもたちを見た人が、子どもたちに直接声をかけるのではなく、すぐに警察に通報したこと。

そして、政府機関が子どもを「保護」し、両親に問題ありとしていることだ。それでも自分たちの考えを主張するこのご夫婦には、よほどの信念があるのだろう。


我が家の息子はまだ4歳なので、"free-range parenting" は考えられないが、私だったらやはり息子が一人で行動するとしても、ローカルの公共交通機関に一人で乗るとしても、小学生では考えられない。それでは中学生ではどうかときかれても、「その時の環境や状況、子どもの成長具合による」と答えるように思う。

ちなみに歩いて30秒の所に住む義姉一家とは、普段から子どもを一緒に遊ばせているが、7歳の甥っ子と4歳の息子の行き来には、必ず大人が同伴する。

天気が良ければ、夕方に近所の子どもたちが家の前で自転車に乗ったり、チョークで絵を描いたりして一緒に遊ぶが、それぞれの親は見守りながら立ち話をする。

そして午後8時半ぐらいまで明るい今頃の時季から、午後10時ぐらいまで明るい夏にかけては、キャンプに使う折りたたみ式の椅子を歩道に並べ、子どもたちを見守りながら話をしたりする。たまに、「ご夫婦がお出かけしているので、私はベビーシッターなの」という女性が混じっていたりするのがアメリカらしい。


親になってから知ったのだが、アメリカでは一人で留守番をさせられる年齢を州別に法律、またはガイドラインで示している。

昨年、lifehacker.com に掲載された記事( http://lifehacker.com/the-age-kids-have-to-be-before-you-can-legally-leave-th-1652321850 )によると、「驚いたことに、ほとんどの州は最低年齢が決められていない」「決めてある州では、カンザス州の6歳からイリノイ州の14歳」で、ほとんどの場合は8歳、10歳、12歳と定めているという。ちなみにワシントン州はガイドラインとして10歳、メリーランド州は8歳だ。

こういうのはあくまでも政府が決めたものだが、「絶対安全」を保証することが不可能な限り、できるだけ目の届くところにいてもらいたいと思ってしまう。でもいわゆる「ヘリコプターペアレント」ではなく、ほどよい距離感……というのは難しいだろうか。

大野 拓未大野 拓未
アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材コーディネート、リサーチ、ウェブサイト構築などを行う。家族は夫と2010年生まれの息子。


【関連アーカイブ】
小型ヘリで我が子の安全を追跡する“ヘリコプターペアレント”が出現
http://mamapicks.jp/archives/52094822.html