「これぞ次世代の名作!」と思えるような素晴らしい絵本を紹介すべく、100人以上の絵本作家を取材した経験を持つ筆者が、独断と偏見からいちおし絵本作家にフォーカスする、「今どき絵本作家レコメンズ」。

第3回のレコメンド作家は、新井洋行さん。年間10冊以上というかなりのハイペースで作品を生み出している人気絵本作家だ。


『れいぞうこ』
作:新井洋行(偕成社)


書店の絵本コーナーをときどき訪れる人なら、こちらを向いてにっこり笑う『れいぞうこ』を見かけたことがあるだろう。赤ちゃん向けのコーナーで平積みされていることが多い、新井洋行さんの代表作「あけて・あけてえほん」シリーズの一冊だ。ほかにも『おしいれ』『おふろ』『ひきだし』など、シリーズは全部で7作品、出版されている。

『れいぞうこ』は、表紙がそのまま冷蔵庫の扉になっていて、開けると中には、牛乳や卵、野菜など、おいしそうなものがいろいろ並んでいる。「ぎゅうにゅうさーん」と呼びかけると「はーい」と元気にお返事。とっとっとっ、とコップに注がれる。呼びかけと返事、擬音語が繰り返されて、最後はにっこり笑顔で「いただきまーす」。

この絵本を初めて書店で見かけたとき、「おもちゃみたい」という印象を抱いたのだが、新井洋行さんの絵本の特徴はまさにそこ。おもちゃ感覚で楽しめる赤ちゃんのための絵本を、新井さんは数多く生み出している。今回はその中から、特におすすめの3作品を紹介する。

■カラフルな絵の具が元気に飛び出す!『いろいろばあ』



『いろいろばあ』
作:新井洋行(えほんの杜)


赤ちゃんが好きな定番の遊びといえば「いないいないばあ」だが、この絵本は絵の具のチューブから色が飛び出すので「いろいろばあ」。赤、青、黄の3色の絵の具が「いろいろ…」のかけ声でいろんな形に変身する、楽しい赤ちゃん絵本だ。

縦開きの絵本で、ページをめくると変身した絵が現れる。「いろいろ…」のあとにくる擬音語もさまざま。赤×青、青×黄など、色を混ぜ合わせて違う色をつくるページもあって、次はどんな形、どんな音、どんな色がくるのかな?とワクワクさせられる。

続編の『もっと いろいろばあ』には茶色、ピンク、きみどり、水色、黒も登場して、さらにパワーアップ。0歳児は「いないいないばあ」遊びの感覚で喜び、1歳児は楽しみながら色の名前を覚える。もう少し上の子なら、色が混ざり合うことで生まれる新しい色に興味を持つだろう。赤ちゃん向けの絵本のようでいて、わりと長い期間楽しめるのも、この絵本の魅力だ。兄弟姉妹での読み聞かせにもおすすめしたい。

■ぴったりはまる爽快感がたまらない『かくかくかっくん』



『かくかくかっくん』
作:新井洋行(学研教育出版)


真っ赤な四角の主人公「かっくん」が、ぞうさんやいぬさん、へびさんを遊びに誘う。「かくかくー かっくん」とくっつくと、あら不思議。動物たちがかくかくの形に大変身! 最後はみんなで集まって、ページいっぱいの大きな四角に。かっくんがパズルのようにぴったりはまるところは、何とも言えない爽快感があって、子どもと一緒に読んでいる大人までうれしくなる。

リズミカルな言葉と、シンプルながらカラフルでかわいらしい、かっくんと動物たち。四角という形のおもしろさを活かした絵本ではあるが、図形のわからない0歳の赤ちゃんから十分楽しめる。

筆者の息子は0歳8ヵ月のころ、この絵本のラスト「ばいばーい またあそぼうね」のページが大好きで、絵本の中の動物たちに一生懸命手を振っていたのだが、2歳になった今は図形の楽しさが理解できるようになってきて、動物たちの変身ぶりを楽しんでいる。

がっちりとした表紙のボードブックで、角も丸くて安心。赤ちゃんが自分でめくりやすいのも、この絵本のうれしいポイントだ。

黄色い丸が主人公の続編『ころころ まるりん』は、動物たちが丸くなってころころ転がる姿がかわいらしい一冊。合わせて楽しみたい。

■見えない風を楽しく可視化『かぜ びゅんびゅん』



『かぜ びゅんびゅん』
作:新井洋行(童心社)


こちらは四大元素「火」「水」「風」「土」が主人公の「かんじてあそぼう ひ・みず・かぜ・つち」シリーズの一冊。このシリーズは全作おもしろいのだが、特にこの『かぜ びゅんびゅん』は、目に見えない風をとてもうまい具合に表現した、気持ちのいい絵本だ。

風船を揺らす優しい風、風車を回す元気な風、木の葉を散らす豪快な風……いろんな風の様子が、「ふわわー」「びゅるるーん」といった擬音とともに描かれている。可視化された風には表情があって、みんなとってもいい笑顔。風が吹くって、風が遊んでるってことなんだな……なんて思わせてくれる。

この絵本で風をたっぷり感じたあとは、ぜひ外に出て、本物の風を体感してみよう。「お、今日の風は静かだね」「わ~、今日の風は元気いっぱいだね!」など、これまで以上に風の動きに気づくことができるはずだ。

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わかりやすい絵と鮮やかな色合い、リズミカルな言葉と擬音、心地よい繰り返し……赤ちゃん絵本に必要とされる要素はきちんと踏まえつつ、独自のアイデアもしっかり盛り込まれているというのが、新井洋行さんの作品の魅力。描き込むのではなく、むしろ極限まで削ぎ落とされた表現だからこそ、新井さんならではのアイデアが光るのだろう。

2014年は14作品、2015年に入ってからも5月末の時点ですでに6作品を出版。年内はさらに7作品ほどの出版を予定しているそうだ。ご本人いわく「アイデアは、種みたいなものも入れれば100は超えると思うのですが、編集者さんと話し合っていたりするような企画は、つねに20本くらい動いています」とのこと。まるでアイデアの泉だ。

赤ちゃん絵本のイメージが強いが、最近は『こわいものがこないわけ』(講談社)や、小林ゆき子さんの絵による『ぴーかーぶー!』『カチン コチン!』(くもん出版)など、おはなし絵本の数々も生み出していて、今後ますますの活躍が期待される。

余談だが、新井洋行さんは筆者と同じ1974年の9月生まれ。私生活では二人の娘さんを持つパパである。絵本界で輝く同年代の星、これからも応援していきたい。

加治佐 志津加治佐 志津
ミキハウスで販売職、大手新聞社系編集部で新聞その他紙媒体の企画・編集、サイバーエージェントでコンテンツディレクター等を経て、2009年よりフリーランスに。絵本と子育てをテーマに取材・執筆を続ける。これまでにインタビューした絵本作家は100人超。家族は漫画家の夫と2013年生まれの息子。趣味の書道は初等科師範。