子育てというのは、「子どもができるまでは知らなかった、考えたこともなかった」という気づきの連続で、とりわけ「保育」という観点では、知らなかったことだらけだ。

思い返せば産前はその点において「保育園」と「ベビーシッター」くらいしか思いつかなかった。
しかもベビーシッターについては、「ティーンが親公認のアルバイトとして知り合いの家の赤ちゃんをお世話する」という、海外ドラマで見たぼんやりしたイメージしかなくて、実際に日本で利用している人に会ったこともなければ、具体的な話だって聞いたこともなかった。

筆者の娘が乳児期から利用していた支援センターでの「一時預かり」、また現在は「保育ママ」もフル活用しているが、どちらも存在を知らなければ利用することもないままだったのだろうと思うと、きっかけの有り無しは非常に大きい。

そして2015年7月期のドラマであるTBS系『37.5℃の涙』(毎週木曜21:00~)は、「病児保育」をテーマとした同名の漫画原作のドラマ。「病時保育」、これもまた筆者にとって「子どもできるまで知らなかった」存在の代表である。
http://www.tbs.co.jp/375namida/


ざっくり言うと、子どもが病気で保育園に通えないとき、仕事を休んで子どもの世話をできない親のかわりに専門の保育士が保育をする制度、サービスで、病児を施設で預かって保育する「施設型」と、自宅で保育を行う「訪問型」に分類される。

本ドラマは「訪問型」の保育を行う病児保育施設「リトルスノー」を舞台としている。そしてタイトルの「37.5℃」というのは、子どもが保育園に登園できるかどうかを左右する体温、つまり境界線のことだ

蓮佛美沙子さん演じる桃子は、1年で保育園での仕事をクビになり、リトルスノーで働き始めた新米の病児保育士。単独での初出勤で5歳の男児がいる家庭に派遣されるも、保育が終了した後、母親からクレームが入ったことで、藤木直人さん演じるリトルスノーの社長から怒号を浴びせられる。

派遣された家庭はひとり親で、キャリアウーマンの母親は家事まで手が回らず、子どもに渡された食事はコンビニのパンひとつで家の中は散らかり放題。それを見かねた桃子は、「お母さん、忙しくてお片付けできないんだよね」と部屋を片付けてしまう。

その介入が、母親を、そして母親にダメ出しされたように感じた男児を傷つけることになったとクレームを受け、社長からはリトルスノーの3原則である、「子どもを注意するな、叱るな、自分の価値観を押し付けるな」という言葉を再度強く言いつけられることになる。

たしかに病時保育士の仕事というのは病気の子どもの保育であるから、家庭の事情に踏み込むのは領域外だろう。とはいえ、真摯に取り組むなかで、その家庭と子どもと向き合おうと思うと看過できなかった、という気持ちも理解ができる。

おそらく病児保育士に限らず、介護の現場などでも同じような葛藤はあるだろうし、対人間の仕事、サービス業に従事する人にとっては切り離せない悩みではないだろうか。


筆者の祖母は数年前からグループホームに入っており、週に1度面会に行っている母が、その都度ようすを報告してくれる。

よく「スタッフさんがみんないい人でね、頭が上がらないわー」と感謝の意を示しているので、介護職に就いている義母にその旨を話したところ、「まあでも仕事なんだから当たり前よ、お金をもらうっていうのはそういうことよ」と現実的な言葉が返ってきた。

義母いわく、利用者の方からプレゼントをもらったり食事をご馳走したいと言われることもあるが、それはNGなのでいつも断り方に悩むとのことであった。

筆者もお世話になっている保育士さんに旅行のお土産を渡したことがあるし、ただ保育をしてもらっているだけの間柄で終わらせるのはもったいないと考えている。

保育や介護のサービスを受けてその対価を支払う、という職務上の契約関係だけと割り切るのは、双方にとって難しい問題かもしれない。

おそらくドラマの桃子もその割り切りに抵抗があり、リトルスノーの3原則を越えてしまったのだろうなと感じる。


朗らかでにこやかな保育士のイメージとはかけ離れて、うまく笑うことができない桃子。
実の母親と確執があり、実家とも連絡が途絶えているようすから、彼女の陰の部分は幼少期の体験が影響しているようだ。

周りのベテラン保育士や、優秀なビジネスマンである同僚たちと比べて不器用で繊細な彼女が、ドライ過ぎない、行き過ぎでもない、理想の病時保育をこれから模索していくのが見物である。


そして、ドラマに出てくる母親も、病気の子どもを預けて仕事に向かうことに気が咎めていないわけではない。ドラマでは、仕事ばかりを優先せずに、子どものことをもう少し見てあげてほしい、と桃子に詰問された母親は、「この子のそばにいることは簡単だけど、もしそれで私が職を失ったら、この子をどうやって食べさせていけばよいの?」と胸のうちを吐露する。

仕事ばかり優先していいわけがないことは分かっている、だけど子どもを見つつほどよく仕事、というのは今の環境では到底実現できない。これはおそらくこの母親だけが抱えている問題じゃなく、現在の日本の社会が直面している課題でもある。

これからストーリーが進む中で登場する母親たち、そして父親たちにもどんどん本音を投げかけてきて欲しい。新米病時保育士の成長物語なだけではない、リアルな問題提起もあればいいなと期待している。


ちなみに、桃子の職場であるリトルスノーは、病児保育事業を中心に展開する認定NPO法人フローレンスをモデルにしているという。
http://www.florence.or.jp/

もちろんドラマということで、実際の病時保育とは異なる部分もあるようで、ドラマの初回放送時に、同法人代表の駒崎弘樹氏がツイッターでリアルタイム実況をしていたことも話題になっていた。

筆者はドラマ開始の21時台は寝かしつけの最中だったので、第1話は録画視聴となってしまったのだが、実況を後追いで確認してみると、駒崎氏の本音も垣間見えて興味深かった。ぜひとも次回は実況を眺めながら参戦したい!のだが、21時までに寝てくれるといいなあ……。

なお『TBSオンデマンド』では、放送後7日間は見逃し配信で視聴可能である。
http://tod.tbs.co.jp/

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。