10月の頭、初めての子連れ海外旅行に行ってきた。
行き先はフィンランドとノルウェーの北欧2ヵ国である。

妊娠してからずっと我慢してきた海外旅行、もういい加減限界だという私の想いと、学生時代の友人が研究職で現在ノルウェーの大学に勤めているのと、フィンランドまでは直行便が出ているので9時間弱で行けるという、諸々が重なって決定した今回の北欧行き。

友人が渡欧するまで、私が抱いていた北欧のイメージといえば、サーモン、オーロラ、フィヨルド、ミステリー小説……とありふれたものばかりで、特段関心を持っていたわけではない。

だけど、友人から話を聞いたり、ネットなどでの記事を読んで、子育てに関する制度が充実していて、子どもにもママパパにも優しい国ということを知ると、「中学の社会科で習った『社会保障制度』ってこのことか!」とようやく気付いたのだった。


子育てしやすい雰囲気を肌で感じてみたい!という好奇心がつのり、行くなら何かフィールドワークをしてみようと考えていた。すると、実際に育児休暇を取得していた男性を紹介するよと友人が連れて行ってくれた、ノルウェー人家族のお宅を訪問したときのことだ。

夕方5時前にお宅を訪ねると、一家のパパであるMさんと3人の娘さんが出迎えてくれた。
ママの姿が見当たらないので「奥さんはまだ仕事なの?」ときいてみると、「泊まりで研修に行ってるから3日くらい帰ってこないんだ」とアッサリ言われ、「えええ?!」と二度聞きしそうになった。

一番下の娘さんは1歳になって間もないくらいで、パパ1人で子ども3人見るって大変じゃないのか。祖父母のヘルプを頼むとか、自分も有給を取って備えるとかしてもよさそうなものなのに、Mさんはその日も通常の勤務を終えて帰宅していたようだ(5時前に帰宅しているというのもさすがなのだが……)。

ノルウェーは、1993年から「パパ・クオータ」という、育児休暇の一定期間を父親に割り当てる制度を導入していることで知られている。受給しなければ消滅する育児休暇を、制度導入当時は4週間だったものを、2013年には14週にまで拡大、1980年代に1.68(首都のオスロでは1.38)だった合計特殊出生率が1.9まで回復するのに貢献したと言われている。

また、育児休暇全体については100%有給で49週間か、80%有給で59週間かのどちらかを選択でき、国が手厚い支援制度を設けている。

夏ごろまで一番下の娘さんの育児休暇を取っていたというMさんに、「日本では女の人が子どもを生んだ後、復職するために保育園に入れることや、子育てと仕事を両立することが難しくて社会問題になっているんだよ」と話すと、「でも、女の人が働くっていうのは石油産業と同じくらいの経済貢献があるんだよ、だったら普通のことじゃない?」と逆にきかれてしまった。

サラリとした切り返しだが非常に的を得ていて、「うん……そうなんだよね……」と言葉に詰まってしまった。そして、私はいままで子育てについて男性側の意見をあまりきいたことがなかったな、と気付いた。

-----

後輩ママやこれからママになる妊婦さんから話を聞く機会が増えた。
切実な悩みもあれば、漠然とした不安もあって、みな子育てに対して何かしらの想いを抱えている。ただ、それらはすべて女性からきく話であって、現役パパや、これからパパになる男性が子育てについて、何を考えているのか、はたまた特に何も考えていないのか、私はほとんど知らない。

SNSでは男性の意見をきくこともできるが、その多くは有識者だったり、社会的にも地位が高い人であったり、彼らの発言は時に揶揄をこめて「意識が高い」と言われることもある。

つい先ごろもFacebookのCEOであるザッカーバーグ氏が育児休暇を取得する予定だと話題になっており、さすがだなあと思うと同時に、ああやっぱり選ばれた人の特権なのかな、という気にもなってしまった。何しろ世界を代表する長者なのだから。

喜ばしいニュースだし、育休を取らないより取るほうがずっといいのだが、日本人男性がどれくらいこの話題に関心を持っているのか、はたして自分のことに置き換えて考えていたりするのか、というと見当がつかない。


ノルウェーで会ったMさんは、子どもが好きなんだなという印象は受けたが、特別意識が高いというわけではない、ごく普通の男性だった。

そして1週間ちょっとの滞在で感じたのは、恐らく「普通の人」の意識が日本よりも進んでいるのだろうなということだ。

平日の日中に、男性が1人でベビーカーを押している姿があまりにも多いので、最初は不思議に思ったのだが、彼らは恐らく育休中なのだろうと気付いた。

午後3時ごろに幼稚園の周辺を歩いていると、お迎えに来たパパが子どもを肩車している姿も散見された。

もちろん日本と北欧諸国を単純に比較することは難しい。
女性の社会進出率の高さについては、人口が少ない中では女性も働かないと国の経済が回っていかないというのが根底にあるだろう。

豊かな社会福祉制度も高額な税金を納めているからこそ享受できるのだし、冬の厳しい寒さが家庭で過ごす時間に大きく寄与しているのだとも思う。

そして、すべて北欧がいいわけでも正しいわけでもない。
24時間営業している飲食店やスーパーなんてほぼ皆無だし、旅行期間中ほとんど外食もできないほど物価が高くて、不便を感じる場面もたびたびあった。

それに比べると日本は数百円で食事が取れるお店がいくらでもあって、トイレに行くのにお金を払う必要もなくて、圧倒的に便利だ。何より気候も温暖だし。

だけど、朝の30分しかパパと子どもの触れ合いがない我が家ってどうなんだろう、という気になったのもたしかだ。夫がたまたま早く帰って来れそう、という時間が21時前後で、娘の就寝時間に重なりそうなので、「その時間に帰ってくるならもう少し後にしてほしい」と言ってる私もどこか変だ。

日本人家庭ではよくあることだよ、と言ってしまえばそれまでなのだけれど、正しくはないよなあと帰国してからずっと考えている。


ひとつ、Mさんとの会話で少し前向きになれたのは、北欧でもこの20~30年の変化が目覚しいということだ。

実際に、「パパ・クオータ」制度の導入前は、男性の育休取得率は数パーセント、いまの日本とそう変わらない。Mさんの周囲でパパになった男性はほとんど取得しているけど、ひと世代上はそうでもないよ、とも言っていた。

日本だってまだまだ変化する可能性がある。20~30年と考えれば、ちょうど私たちの子どもが親になるくらいの頃ではないだろうか。

そう、私たちが祖父母世代になる頃に、男性の育休取得が当たり前になっていてほしい。
政府は女性の活躍だ、少子化対策だと言っているが、少なくともそれは育休3年で解決するものでもないし、三世代同居の推進でどうにかなるものでもないよというのが本音だ。

そしてすっかり北欧に魅せられてしまったので、また早く行きたいな、次いつ行けるかな、と皮算用している私たち家族。いつかMさんに、「あの時と比べて日本もこんなに変わったんだよ」と話せたらなと考えている。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。