東日本大震災からまもなく5年。「放射線」「放射能」「ベクレル」……といった言葉を最近またよく耳にしますが、「放射能」と聞くと、やっぱり「コワイ」「アブナイ」と思ってしまうもの。でも、本当にどれくらい「キケン」なのかよくわかりませんね。

「むやみに恐れるのではなく、『正しい知識を持ち、上手に恐れる』ことが大事」と語るのは、放射線を利用して病気の検査や治療をする「核医学」の専門家である、東京慈恵会医科大学准教授で、市民向けの放射線医学講座で広報活動も手掛ける、内山眞幸(うちやま まゆき)先生。この機会に改めて、放射線に関する知識についてうかがいました。


■私たちはつねに放射線を浴びている


「『放射線』や『放射能』と聞くと、とても怖いイメージがありますが、そもそも放射線は自然界にもあって、私たちはつねに放射線を浴びているんですよ」とやさしく語り始めた内山先生。私たちが吸っている空気の中にも微量の自然放射性物質(放射線を出す物質を「放射性物質」といいます)があって、大地からも宇宙からも放射線を受けているほか、私たちのカラダの中にも放射線を出す物質が取り込まれ、そこから自分自身も放射線を浴びているといいます。

空気中にはいろいろな気体が含まれていますが、なかでも「ラドン」という気体が、自然に存在する放射線を出す物質の代表例とのこと。私たちは空気を吸うだけで、世界平均で年間約1.26ミリシーベルトの放射線を浴びているのです。

また、宇宙から地上に降り注ぐ宇宙線と呼ばれる放射線は、年間約0.39ミリシーベルトに相当します。そして大地には、地球ができた約45億年前からたくさんの放射性物質があり、私たちはそこからも年間約0.48ミリシーベルトの放射線を浴びていると言います。

さらに高度の高いところではより多くの宇宙線を受けるため、例えば東京‐ニューヨークの往復で宇宙線から受ける放射線量は約0.2ミリシーベルトになります。

なお、大地から出る放射線は、国内はもとより世界中の地域によって異なり、たとえばブラジルのガラパリでは地域の平均値が年間5.5ミリシーベルト、最高値で35ミリシーベルト、インドのケララでは平均値が3.8ミリシーベルト、最高値で35ミリシーベルト、そしてイランのラムサール平均値が10.2ミリシーベルト、最高値で260ミリシーベルトとかなり高い地域もあるそうです。

では、これらの地域の人が、がんによる死亡率が高いのかを先生に尋ねると、「そのような傾向はみられない」とのこと。

さらに、私たちのカラダの中にある放射性物質は、おもに食べ物を通じて取り込まれたものになります。自然に存在する放射性物質は私たちがふだん口にする様々な食物に含まれ、その代表がカリウム40です。たとえばバナナ1本は15~20ベクレルの放射能を持っており、これを食べるとは約0.1マイクロシーベルト被ばくします。じつは食べ物を通じて、年間平均0.29ミリシーベルトの放射線を受けているのです。

ただし先生によると、「体内にはカリウム40、炭素14など放射性物質が取り込まれますが、時間の経過とともに放射能は低くなり、さらに代謝により体外にどんどん排出されるため、体のなかにたまり続けることはありません」とのことです。

いずれにしても、これらを合わせて、私たちは世界平均で年間約2.4ミリシーベルトの放射線を浴びている、という事実を認識しておく必要があります。

■「がん」はどうやってできるの?


では、そもそも「放射線」と「放射能」の違いとは? 「ベクレル」「シーベルト」など、単位もいろいろで混乱してしまいますが、こちらも整理をしてみましょう。

まず、私たちが浴びるのは「放射線」で、放射性物質が放射線を出す力を「放射能」といいます。「放射線」は何をしているのかというと、「電離」という原子から電子を飛ばす働きをしており、物質にエネルギーを与えています。

「放射線によってがんになる」というのは、放射線が電子を飛ばすことにより“細胞を傷つける”ためです。

細胞の中にはDNAがあります。これは私たちのカラダをつくる設計図で、二重らせんになっていることはご存じかと思います。2本のリボンがらせん状になっているイメージです。ところがここに放射線が当たると、この大事なリボンを切ってしまいます。

でも、私たちのカラダはものすごい速さで修復する力をもっているので、切られてもすぐに元に戻ります。しかし、リボン1本ならまだしも、2本とも切られてしまったら修復は難しく、またあっちでもこっちでも立て続けにリボンを切られたら、修復作業が忙しくなって、ちゃんと元に戻せなくなってしまうこともあるそう。そうなると、がんなどに発展してしまう、というしくみなのです。つまり、がんになるかどうかは、浴びる放射線の量が問題なのです。

もっとも先生がおっしゃるには、「DNAを傷つけるのは放射線だけではない」とのこと。紫外線や化学物質、ウイルスなども、DNAに損傷を与えるそうです。

私たちの周囲には、放射線以外にも多くの“がんになる”リスクがあります。喫煙は有名ですね。成人期の食事や肥満、運動不足、感染、職業環境、がんの家族歴、お酒の飲み過ぎ、環境汚染、紫外線などもがんの原因因子となります。

■「ベクレル」「シーベルト」って?


単位についてもおさらいしておきましょう。ベクレル(Bq)とは、放射性物質がもつ放射能の強さを表しています。原子は違う原子に変わるときに放射線を出しますが、これを「崩壊」または「壊変」と言います。1ベクレルは1秒間に1つの原子が崩壊(または壊変)していることを表します。

たとえば、「ほうれん草に含まれるセシウムが150ベクレル」ということは、1秒間に150個の原子が崩壊するだけの放射能があるということになります。

それに対してシーベルト(Sv)というのは、放射線が人体に及ぼす影響がどれくらいかを表す単位であり、人への影響を考える際には、シーベルトの数字を参考にするのが適切です。

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江頭紀子江頭紀子
調査会社で情報誌作成に携わった後、シンクタンクにて経営・経済に関する情報収集、コーディネートを行いつつ広報誌も作成。現在は経営、人材、ISOなど産業界のトピックを中心に、子育て、食生活、町歩きなどのテーマで執筆活動。世田谷区在住、二女の母。