わたしが「子どもを産みたい」と思った理由のひとつは、「身体に出産機能がついているから、試してみたい」というものでした。以前もちょっと書きましたが、最新機能搭載の電化製品を買ったら、その機能を一度は使ってみたくなりますよね? それと同じような気持ちです。
【関連アーカイブ】「親のエゴ」でなく生まれる子はいない?
http://mamapicks.jp/archives/52172816.html


これにちょっと補足したいのですが、ただ「機能があるから使いたい」のでなく、そう思わざるを得ない、ちょっとせつない理由もあると思うのです。

というのは、この機能がついているために、女性はこれだけ社会でハンデをつけられてきたわけです。「女は子どもを産んだら、どうせ会社を辞めるから」という理由で、昇進に差を付けられ、職種に差をつけられ、採用に差をつけられてきました。


他人から「そうしなさいよ」と言われないまでも、女自身がその価値観を内側にとりこんで、自分からは昇進を望まなかったり、「仕事と家庭の両立」をしやすそうな職種を選んだり、ときには出産退社を選んだり、ということをしてきたわけです。

そのためいまの日本では、男女の賃金格差も、会社で管理職になる男女の比率差も大変大きく、先進国のなかでは群を抜いたトップ水準です。

だったらせめて、その原因となっている機能くらいは使わないと、割に合わないじゃないですか。

その機能を使わないのだとしたら、「ただハンデがついているだけ」です。「女だから」ということでつけられた差を、埋め合わせることができません。

社会的なハンデだけでありません。生理痛やPMSなど、出産機能に伴うありがたくないオマケは、ほかにもあります。

これまた電化製品で喩えると、最新機能を搭載した商品は、他の商品よりちょっと値が張りますよね? だったら、その差額分くらいは、最新機能を使わないとソンじゃない。
そんな気持ちも、無意識のうちに、あるんじゃないかと思うのです。

■「実際に産む」のはハンデがなくなったとき


「それなら、もし女が男並みに働ける世の中になっちゃったら、出産機能を使いたい気持ちが薄れて、ますます子どもを産まなくなるんじゃない?」
と心配する方がいそうですが、それはどうか。

「子どもを産みたいと思うこと」と、「実際に子どもを産むこと」は別の話です。後者を実現するためには、何しろお金が必要です。

いまは「子どもを産みたい」と思っても、経済的な理由からあきらめる人がたくさんいます。かつてのように、夫婦片働きでやっていける時代なら、男女間に格差があっても子どもは増えるのでしょうが、いまはそんな世の中ではありません。

女が子どもを産もうが産むまいがハンデなく働ける社会になれば、「機能を使わねば損」と考える人は減るかもしれませんが、「実際に産める人」のほうが、断然増えるでしょう。

まあ「実際に産める人」が「実際に産む」ためには、「婚姻」と「出産」を切り離すとか、いろんな価値観や規範を切り替えていく必要もあるのですが。

しつこく電化製品でたとえると、もし値段の差がなくなれば、最新機能にこだわらない人もその商品を買うようになるので、結果的に、最新機能を使う人も増えるよね、ということです。

ハンデをきつくしたって、産まないですから。

大塚 玲子大塚 玲子
編集者&ライター。都内の編集プロダクションや出版社に勤めたのち、妊娠を機にフリーとなる。以来、書籍やムックの企画・編集・執筆などを行い、2014年からはWeb媒体にデビュー。結婚、離婚や子ども、家族をテーマにした仕事を数多く手がける。