「わー!もうちょっとなのに!」
「ママ、ちょっと貸して、おれがやるから!」
「もうちょっとだから!あ、でも急いで!遅れちゃうから、わー!」

子ども二人を連れて登園中、先に立ち寄った次男の保育園の玄関先でのこと。
年長さんくらいの男の子とママ。
自転車で登園してきて降りたところで、スマホと格闘している。

どうかしました?と話しかけようとしたとき、長男が先に画面を覗き込んでいた。

「あ、ポケモンやってる!」

この親子、そういえば最近よく近所で見かけていた。
自転車の後部座席に乗った男の子がずっとスマホをいじっている。
信号待ちでチラッと見たところ、モンスターボールを投げているのを確認できた。

「ちょっとかして?」

私が次男をベビーカーからおろしている間に、長男が勝手にその親子の間に入り込んでポケモンを捕まえようとしていた。

「スーパーボールにとりかえるでしょ? “ズリのみ”はこうやってつかうんだよ!」

長男のレクチャーに、その母親は感心していた。あまり取説を読まないままゲームを始めていたのだろう。

「あ、またボールからにげちゃった」

人様のモンスターボールをムダに消費するのもどうかと思い、最終的には筆者に代わってもらい、一発で仕留めた。

相手はCP 500のゴルダックだった。どうってことはない。


■こっそりはじめた“ポケモンGO”


7月末、今か今かと騒がれていた“あのゲーム”が日本国内でリリースされた。

「ポケモンGO」。

かつて、Googleのエイプリルフール企画として、Googleマップとポケモンが合体したゲームがあったのを覚えている方はいるだろうか。

≪ああ!アレを本気でスマホアプリ化したのか!≫

筆者も国内リリースを楽しみにしていたひとりだ。

しかし、筆者は年齢的にポケモンにハマっていた世代ではない。
アニメが始まった頃はすでに大人だったし、ゲームボーイも持っていたけど、『ギャラガ』ばかりやっていて、ポケモンで遊んだことはなかった。

IT系の仕事をしている関係もあり、「ポケモンGO」リリース当日は、職場全体が大きな盛り上がりを見せていた。

どこの路線にピカチュウが出た、どこに巣がある、レベル上げの方法……。
平均年齢35歳といういい大人がみな、ポケモンに夢中である。

そんななか、筆者は「ネタバレ上等」をモットーに、攻略サイトを読んで、最初にピカチュウを捕まえ、ポッポを大量に捕獲し、孵化装置には惜しみなく課金をし、同僚たちのポケモン話を聞きつつ、密かに初日からレベル上げに勤しんでいたのだった。

わりとゲームが好きな我々夫婦であるが、「ポケモンGO」の話が出ることはなかった。
ある休日のファミレス、疲れた子どもたちがそれぞれ座席で眠ってしまい、その隙に大人は酒を飲んだり甘いものを食べていたのだが、こういうシチュエーションでは時々、お互いにスマホをいじって会話のない時間帯というのが数分できる。

夫の指の動かし方からモンスターボールを投げているのが推測できたので、「ああ、まあ、やってるよねえ」くらいに思っていたのだが、次の瞬間、私の画面に「おや?」という文字。

「わーっ!ピカチュウ生まれた!見て!」

卵からピカチュウが孵化した瞬間を誰かと共有したくて、思わず夫に話しかけてしまった。……子どもか!

こうして、お互いにポケモントレーナーになっていることはなんとなく把握しているが、子どもが興味を持ちはじめるとめんどくさいので、家ではその話を出さない日々が続いていた。

■ポケモンの巣に暮らす者たちの襲来……


しかし、我が家の5歳が「ポケモンGO」に詳しくなるには、それほど時間を必要としなかった。

定年退職をして無職になったばかりの筆者の実父(ミーハー)は、案の定「ポケモンGO」を楽しんでおり、家の隣の公園がポケモンの巣になっていたことから、夫婦で大変なハマりようなのだった。

そんな両親は、孫のお迎え時にポケモンを捕まえながら帰ってくるようで、知らない間に5歳児のトレーナースキルがめきめきアップしていたのだった。

「きょうねえ、アーボックつかまえたんだよ! むらさきのへび。アーボじゃないよ、アーボックのほうだよ!」

父親は無職で元気なのをいいことにレベル上げに励んでおり、すでに筆者より上を行っていた。

レベルが上がると、珍しいポケモンも“やせいのポケモン”として出てくるようになる。最初のころよりも、同じ道を往来しているのに多種多様なポケモンを捕獲できるようになるのは、ひとつの楽しみであろう。

「それからねえ」

1歳の次男が、卵をタップしてピカチュウを誕生させたのだという。

……おい、親! 乳幼児にスマホ渡すなよ!

と5年前なら怒るところなのだが、第二子の育児というのは親のほうもだいぶ雑な仕様になっているのか、「まあ、適度に楽しかったらいいんじゃないかな」くらいのノリなのだ。

子どもを引き連れて遊ぶことを考えるに、「誰も死なない」という要素は大きい。ジムで敗れたポケモンは、瀕死になるが死なない。トレーナーである自分もとくに死なない。子どもに見つかっても、残酷な画面をうっかり見せることがないので、その点は素晴らしいと思っているのだ。

比較的陸地である実家に対して、“みずポケモン”が大量に出る筆者の自宅付近は、父にとっては楽しいようで、これまであまり来なかった実父が、子どものお迎えに参加したり、荷物を運んでくれたりと、頻繁に来るようになった。

「コダック大量ゲット! 荷物置いたので帰りまーす」

ある日のLINEにはこのような文面が書かれていたのだった。

まあ、「育ジイ」になるきっかけがポケモンだったとしても、それはそれでいいんじゃないかな。そんな風に思うことにした。

■ママと子どもとポケモンGO


8月に入ると、長男の同級生たちからもポケモンの話題が出てくるようになった。

「ねえねえ、おれのママ、いま16だよ!」
「何の話?」
「ポケモン!」

この流れになると必ず子どもたちにレベルをきかれるのだが、「16」に対しての「22」はなかなか言いづらいものがあり、なんとなく濁している昨今である。

ワーキングマザーとして暮らしていると、土日に時々、イライラが爆発してしまうことがある。

「きょうは“おかあさんの日”でいいよ。たまにはお外いって、遊んできなよ!」

5歳児にそう送り出され、「おまえが言うなよ!」と思いながらも、ある日の夕方、私はふらっと外出した。とはいえ、とくに目的もなかったので、比較的近場にある“ミニリュウの巣”とやらに行ってみることにした。

川沿いの細い道路には老若男女が群がっていた。
小学生の男の子と両親、40歳代の男性、50歳くらいの女性、20代の男性グループ、30代くらいのカップル……。

体調があまりよくなかったので、できれば家で寝ていたかったのだが、せっかくの厚意を無駄にしてもなあと、黙々とポケモンをつかまえ続けた。家にいると四六時中子どもに話しかけられてしまうので、たまに黙って何かに没頭できる時間があるのはいいことかもしれない。

1時間ほどでけっこうな量のコイキングとミニリュウ2匹などを捕獲し、2体目のギャラドスを手に入れ、路線バスでポケストップめぐりをして帰った。

「いっぱいつかまえた? いらないポケモンは、ちゃんと博士に送った?」

帰るなり5歳児の質問攻めにあう。

「いいなあ。早くスマホ欲しいなあ、ポケモンやりたいなあ……」

うらやましがる長男に、私はこういった。

「あのね、ポケモンをつかまえるには、まず13歳にならないといけないの。それまでは、大人がポケモンを捕まえるお手伝いだけだよ。」

説明がややこしくなるので、Googleアカウントを作る前提で、13歳という話をした。
案の定、「サトシは子どもなのになんで?」という質問は来るのだが、それはそれ、これはこれ。

■ほんとのこと知りたいだけなのに、夏休みはもう終わり


「ポケモンGO」のアクティブユーザー数減少というニュースも流れている中、夏休みは終わり、学校は新学期が始まった。熱に浮かされたようなあの騒ぎもひと段落なのかもしれない。たしかに、レベルが上がり、ポケモンの捕獲もレベル上げも大変になってきたので、最初のころよりはアプリを起動させるモチベーションが下がっているのは否めない。

せめてバックグラウンドで移動距離をカウントしてくれたら!と、“できるだけがんばらないで私の気持ちが続くような策”をあれこれ考えているのだが、これからのアップデートでは、長期休み関係なしに稼動する層(つまり大人)をターゲットに改修入れてくれたらいいのになあ、と思うのだ。

飽きはじめながらも終わらせられない理由のひとつに、強いポケモンを引き当てていないというのがある。そもそも、トレーナーレベルが30クラスにならないと、勝てるポケモンに強化できないこともわかってきた。

それに、私の図鑑には96種類のポケモンしか集まっていない。
“ジムによくいるあいつら”を、まだ手に入れていないのだ。

「大人の昆虫採集」の完成をめざして、もうしばらくは“レベル30オーバー”という未知の領域を目標に、ちまちま遊ぶのかもしれない。

ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。