世界中から注目されるアメリカの大統領候補の討論会がようやくすべて終了し、投票日まで2週間を切った。

シアトル在住で日本国籍の私にはアメリカの選挙権はないので、「単に見聞きしたことで騒いでいる外国人」と言われるかもしれないが(それなら世界中のアメリカ人以外はみんなそうなるのだが)、アメリカで育児をする親にとって、選挙は非常に身近なものとなる。

米国心理学会が行った調査によると、今回の選挙で「ややストレスを感じる」「かなりのストレスを感じる」と回答しているアメリカ人が52%になったというのだ。
http://www.huffingtonpost.com/entry/how-to-manage-election-stress_us_57ffa468e4b0e8c198a672d4

そのストレスの原因は、人それぞれいろいろあるだろうが、今回においては人間の基本的な部分で足元をすくわれるような発言があることがひとつかもしれない。


「アメリカの大統領になりたいという人物が、こんな程度でいいのか?」「子どもに真似してもらいたくない」とあきれさせられる、大統領としての品位がまったく感じられない人格を露呈させた発言、勝手に疑惑を作りだしては不安をあおる手腕、そしてそれに「Yeah!」と歓呼の声をあげる支持者の姿には、シアトルの自分の普段の生活では見ない異様な恐ろしさを感じるのだ。

さまざまな面で論じられるドナルド・トランプ候補による「トランプ効果」(=The Trump Effect)の子どもに対する影響は、ヒラリー・クリントン候補も討論会で少し触れたが、この春の時点でTeaching Toleranceが約2,000人の教師を対象に行った調査(3月23日~4月2日)では、

「有色人種の子どもたちの間で、驚くべきレベルの恐怖感・不安が見られ、学校で異なる人種・民族間の緊張が高まっている」
「多くの子どもが国外退去を恐れている」
「選挙について教えることを教育者が躊躇している」

という結果が発表されている。
http://www.tolerance.org/blog/trump-effect

しかしその後、女性に対する性的暴行自慢話、相手候補への薬物疑惑作り、女性やラテン系に対する攻撃、アメリカの民主主義の否定、といった大統領の品位に欠ける発言が満載の展開になり、ツイッターでもヘイトスピーチが急増。

2015年8月から2016年7月に行われたツイートで、Anti-Defamation Leagueが人種差別の言葉が含まれると判断したものは260万件にのぼる。このうち2万件近くのツイートがジャーナリスト5万人に対するもので、3分の2は1,600のアカウントから送信されたものであるという。
http://www.usatoday.com/story/tech/news/2016/10/21/massive-rise-in-hate-speech-twitter-during-presidential-election-donald-trump/92486210/

オバマ大統領の選挙の時も、人種や宗教に対する差別発言はあったが、大統領候補が自らそういう発言をしたわけではなかったことから、今回とは様相が異なる。

大人でもそういう発言をする大人には出くわしたくないと思うが、そうした発言を目にする子どもが他の子どもを人種という要素だけで攻撃したりするようになったら、親としてどのように対応するのだろうか。

私はシアトルの日常生活で、人種だけが原因のストレスにさらされているわけではないが、日本人だってアジア人、アメリカに来れば立派なマイノリティである。大統領候補にあたかも全員が不法入国者のように言われるヒスパニック系や、全員がテロリストであるかのように言われるイスラム教信者の気持ちやいかに。

投票日までわずかな時間しか残されていない今、メディアは「次の大統領が確定した後、このトランプ効果からどのようにして脱することができるのだろうか」「潔い敗者とは」という記事を載せたりしている。トランプが不当選となった場合でも、選挙中の発言によって火をつけられた不満がどのような方向に向くのかが懸念されるところだ。

大野 拓未大野 拓未
アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材コーディネート、リサーチ、ウェブサイト構築などを行う。家族は夫と2010年生まれの息子。