つい先日、シアトルのNFL(アメリカンフットボール)のチームが、アリゾナのチームとオーバータイムで引き分けとなる試合があった。
http://nfljapan.com/headlines/6992

これだけなら「へえ」と思うだけだろう。
しかし、この試合には、チーム史上初の引き分けという記録以外に、双方のチームのキッカーが、「決めれば勝利決定」という状況でゴールを外してしまうという、じつにドラマチックな出来事があったのだ。


これでも「へえ」と思うだけかもしれない。
だが、この両者の失敗について、双方の監督がまったく異なるリアクションをしたことについて、ある経営コンサルタントがチームマネジメントの例として分析していた。

そもそもこの試合、最初にフィールドゴールを外したのはアリゾナのキッカー、カタンザロ選手。彼はこの試合でそれよりも長い距離のフィールドゴールを2回決めており、3回目も当然決めると思われたが、ボールはゴールのポストに当たって外れてしまった。アリゾナの監督は驚愕の表情を浮かべ、次の瞬間、手に持っていたファイルをフィールドにたたきつけた。


試合はすぐに再開されたが、それから数分間にわたり、ゴールをミスしたアリゾナの選手がたびたび画面に映し出された。大きな体をできるだけ小さくしようとしているような申し訳なさ感いっぱいの痛々しい姿……(に私には見えた)。フィールドを見る目はうつろで、もし私がプロのスポーツ選手の親だったら、心臓に悪くて見ていられないに違いない。

しかし、そのアリゾナの失敗で息をつなぎ、フィールドキックのチャンスをものにしたシアトルのキッカー、ホーシュカ選手も、ボールがゴールポストの左にそれて失敗。彼もこの試合で、もっと距離の長いフィールドキックを2回も決めていたというのにだ。画面には、目を見開いて、口をあんぐりあけた監督が映っていた。

結果、試合は引き分け。監督2人はフィールドでさらっと言葉をかけあい、軽くハグしあった。


私はその後の記者会見のライブ中継は見られなかったのだが、翌日、監督それぞれがキッカーについて対照的なコメントをしたのを、経営コンサルタントのジャスティン・バリソ氏のコラムで知ることとなった。バリソ氏はマネジメントに関するライターとして、2015年にビジネス特化型SNSである「LinkedIn」で、上位3位に選ばれた人物である。

A Lesson in Leadership: 2 Football Coaches, 2 Players' Mistakes, and 2 Very Different Reactions
http://www.inc.com/justin-bariso/a-lesson-in-leadership-2-football-coaches-2-player-mistakes-and-2-very-different.html

▼アリゾナの監督
「決めろ。これはプロであって、高校じゃない。決めるために金をもらってるんだ」

▼シアトルの監督
「ホーシュカは我々にチャンスをくれるためにキックをするが、最後のキックは残念ながら成功しなかった。彼はここで何年にもわたり、キックで得点をあげてくれている。これから先、彼はもっと多くの決勝点をあげるだろう。私は彼に惚れ込んでおり、彼は我々が頼れる存在だ」


「厳しいプロスポーツの世界で、シアトルの監督は甘すぎる」と思うかもしれない。
だが、かつて弱かったシアトルのチームは、この監督の指揮下で見事に一丸となり、NFL パワー・ランキング上位の強豪チームに成長。2014年にはスーパーボウル(NFL の優勝決定戦)を制覇し、翌2015年には連続出場を果たしている。

どちらの考え方がそのチームや選手に合うかはわからない。アリゾナの監督のような言い方を親や上司にされても、「なにくそ」とがんばれる人もいるだろう。でも、全員がそうじゃない。

この件についてバリソ氏は、失敗を犯した個人によるところは大いにあるとしながらも、こう解説する。

「リーダーというものは、こうした失敗からその人が立ち直るのを助けられる唯一の立場にある。リーダーが自身の失敗を心に留めているなら、失望してけなすよりも、励まして次につなげる言葉を使うほうが簡単だ。ポジティブ面にフォーカスし、自分の個人的な経験をうまくシェアするか、誰にでも調子の悪いときはあると再認識させることで、その人が復活するのに最善を尽くすことになる」
「だから、リーダーのみなさん、自分に問いかけてみよう。チームのメンバーが失敗を犯したとき、自分はどのように反応するだろうか。言葉を慎重に選べば、悪い条件下で最大限の努力をするだけでなく、自分の部下の能力を最大限に引き出すことになるだろう」


どちらかといえば私も、シアトルの監督のような上司が好みだ。これまで見てきたところ、5歳の息子も私と同じだと思う。

しかし、現実にはアリゾナの監督みたいな大人もたくさんいるわけで、実にいろいろな人がいて、いろいろな状況がある。あの監督も、普段からこういうふうに言う人なのかもしれないし、ああ言わざるを得ない状況なのかもしれないし、素人にはわからない考えがあるのかもしれない。

幼い子どもを育てているさなかの親として、今からできることはなんだろう。そんな現実の中で、自分を見失わず、失敗しても逆境にぶち当たってもへこたれないタフな精神力を持つ人間に育てること。それと同時に、がんばり続けて心が折れてしまう前に、命が危うくなる前に、助けを求めてもらえる、助けられる親であること。いろいろなことが浮かぶが、どうしたらそうなるのか、何が最適なのか、明確な答えがないのが育児の難しいところだと実感させられる。

大野 拓未大野 拓未
アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材コーディネート、リサーチ、ウェブサイト構築などを行う。家族は夫と2010年生まれの息子。