ワーキングマザー(=ワーママ)が感じる子育てと仕事の両立の大変さは、その障壁ごとに“◯◯の壁”とネーミングされることが多いが、専業主婦の子育てにおいてはどうだろうか?

以前より興味があったテーマであるが、ちょうど先日、小学生ママの就業意識について、とても興味深いお話を聞く機会があった。皆さん、もともとはフルタイムで働いていたが、妊娠・出産を機に仕事を辞めて家庭に入り、子育てに専念してきた方々。言わば“フルタイムマザー”である。

■“フルタイムマザー”が感じる『自己有用感』のモヤモヤ


一昔前なら、「高校や大学卒業後、就職せずに結婚して専業主婦に……」という人も少なからずいただろうが、現在はそのようなケースは非常にまれで、ほとんどのフルタイムマザーは就業経験がある。仕事のやりがいやその大変さも知っているが、家庭を優先してキャリアを断念している人が多いようだ。

一度仕事を辞めてしまうと、“保育園への扉”は閉ざされてしまうため、小学校入学までは基本的に子どもの生活には“ママの手”が必要不可欠となる。延長のない幼稚園であれば14時にはお迎えに行かなければならず、アフター幼稚園の習い事やお友だちと公園で遊ぶのも、すべてママが同伴となるため、フルタイムマザーは終わりのない家事と子育てで自分の時間を使い果たす生活が続く。

しかし、そんなフルタイムマザーの子育ても、小学校以降は変化してくる。子どもだけで習い事に行ったりお友だちと遊べるようになってきて、徐々にではあるが、“ママの手”の必要機会が減ってくる。学校から帰ってきて、「おかえり」と言ってあげたくて家庭に入っているのに、「ただいま」と「行ってきます(遊びに)」がほぼ同時に出てくる日が、想像以上に早くやってくるという。

その時期に、多くのフルタイムマザーが、「私って社会の役にたっているのだろうか……?」という『自己有用感』についてモヤモヤっとしてくるそうだ。それまでは、子どもに必要とされているという実感を感じる時間もないほどに“子ども中心”のめまぐるしい生活であるがゆえに、それはまるで、じわじわっとやってくる“育児ロス”である。その育児ロスを埋めるために、「また働きたい」と思い始めるそうだ。

■世の中のママのうち“就業意欲がない”のはわずか8.2%


実際に、「働くつもりはない」と考えているママは、「既婚・子有り」の女性のうち、わずか8.2%だという調査結果もある(※)。金銭的に共働きでないとやっていけないという家庭でなくても、多くのママが就業意欲を持っているということだ。

私自身は、現在上の娘は3歳・下の息子は8ヵ月で、子育てのかたわらでフリーランスのマザーズコーチングと食育の講師やライターの仕事をしているが、一度は「専業主婦になる」と決意して仕事を辞めた身。しかし、フルタイムマザーを本当に楽しめたのは最初の2年間だけで、「子育てが軌道にのってきた!」という実感とともに、子育て以外の脳みそも使いたいという欲求が芽生えて、現在の就業状況に至っている。

「世の中から取り残されているような不安」まではいかないが、朝から晩まで家事と育児に追われ、気がつくと自分の子ども以外とまったく会話しなかった日というのも出てくる。子ども相手の会話においては、友人と楽しくおしゃべりするときに得られるワクワク感や、仕事で同僚や上司と話をするときのようなロジカル感はまったくない。

もちろん、子どもとの会話では癒やしであったり子どもの成長を実感できたりといった別の効能はたくさんあるが、それだけではなんだか徐々に息苦しくなってきたのだった。そんな私にとっては、フリーランスという働き方がちょうどよかった。

フルタイムマザーの多くも、「バリバリ働くことで自己実現を図りたい!」というよりも、じわじわとやってくる子育てロスを埋めてくれるちょうどよい温度感の仕事で、自己有用感を高めたいようである。

(※)ジョブズリサーチセンター「主婦の就業に関する1万人調査」より
http://jbrc.recruitjobs.co.jp/data/data20150515_228.html


■“必死に見えない”仕事が人気


世の中の仕事に優劣をつけるつもりは毛頭ないのだが、フルタイムマザーは子どもや地域を介してつながっているコミュニティがあるがゆえ、その仕事選びにも“ならでは話”があふれていた。

まず、大前提として上がるのが“必死に見えない”仕事だという。「金銭的な理由で働きたいと思ったわけではない」という背景が、仕事内容にも関わってくるようだ。例えば、「近所のスタバの接客の仕事はOKだけど、近所のスーパーのレジ打ちは嫌だ。」といった具合である。

理由を聞くと、「近所のスーパーのレジ打ちだと、知り合いが目撃した際に、何かのっぴきならない理由があるのでは? あまり深く聞いてはいけないだろう……みたいに思われるという想像をしてしまう」からだそうだ。「お金に困って働いているわけではありません!」というところを強調したいわけではなく、「何かあったのでは?」という憶測を呼ぶ可能性をはらむ地元のコミュニティにおける世間体といったところであろうか。

これには「なるほどぉ……」と深く頷いてしまった。私は子どもが生まれるまでは地元コミュニティのたぐいにはまったく属しておらず、守りたい世間体自体が存在していなかったのだが、子どもが生まれると状況は一変して、近所の名前も知らなかった人に挨拶をしたり、地元の商店街のお店に「顔なじみ」ができたりしている。上の娘が幼稚園に入れば、地元コミュニティとの繋がりはますます強まるだろうから、フルタイムマザーが働き始めるときの仕事選びは、それまでの選び方とはまた違った視点が加わるのだということには納得感がある。

■とはいえ“子ども優先”も守りたいジレンマ


もうひとつ、フルタイムマザーの仕事選びの重要なポイントとして、家庭との両立がある。ワーキングマザーでも良く上がるポイントであるが、フルタイムマザーの視点はまた一味違う。

例えば、「子どもに習い事をさせたい」といったときに、まず子ども優先で考えるため、その習い事で最も良い教室を検索して、場合によっては電車通い・車通いもいとわないという。

最近、私の友人から、「旦那様の海外転勤の付き添い赴任からの帰任時に、子どもの習い事中心で住まいを選んだ」という話を聞いて驚いたが、小中学生のフルタイムマザーにとっては珍しい話ではないのかもしれない。単純に「習い事をさせる」というのではなく、「そのジャンルでより良い環境を探す」という点がフルタイムマザーならではのように感じた。

自分が仕事をするために、子どもの習い事を諦めさせたり教室を妥協することに対して罪悪感を感じる方が多く、習い事の事情まで考慮して仕事選びをしようとすると、なかなか条件にあうものが見つからないという。


実際に、「働きたい」という就業意欲のあるフルタイムマザーであっても、実際に就業できている人は半数以下である。金銭的事情という切迫感がないがゆえ、「子ども優先」という基本的な志向との折り合いの付け方についてジレンマが存在しているからだ。

最近の子育ての傾向として、とくに幼少期の子どもにとって、彼らが選択し得る経験の機会は親次第という風潮が強まっていると感じるので、必然的にこのようなジレンマが生じるのであろう。

何が正解というわけではないが、フルタイムマザーの働き方においても、ワーキングマザーの働き方同様に、様々な選択肢が必要だなと感じるテーマであった。

森田 亜矢子
コンサルティング会社、リクルートを経て、第一子出産を機にフリーランスに。現在は、Baby&Kids食育講師・マザーズコーチング講師・ライターとして活動中。3才長女と0歳長男の二児のママ。