日本人女性の11人に1人の割合で患うといわれている乳がん。MAMApicks読者と同年代で、育ち盛りの子どもの母である有名人の乳がん公表も記憶に新しく、私たちにとっても他人事とは思えません。

乳腺診療と放射線診断の専門家で、乳がんの知識や検診の普及に尽力されている、「ピンクリボン ブレストケア クリニック表参道」の院長、島田菜穂子先生にお話を聞いてきました。

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■早期発見はマンモグラフィで


早期の発見が何より大事だという乳がん。発見するための検査としては、「マンモグラフィ」「超音波検査」が主な検査となりますが、補助的に「MRI」などを用いることもあるとか? それぞれどんな特徴があって、どれを受けたらよいのでしょうか。

「結論からいうと、乳がんを発見できる方法としては、『マンモグラフィ』と『超音波検査』が2大検診といえます。自分で乳房を触って発見できるのは、だいたい2センチ前後とお伝えしましたが、じつは医師による触診も同じで、それより小さいしこりはほとんどわからず、早い段階で発見するには画像診断が不可欠です」(島田先生、以下同)

その代表格が、自治体検診として普及している「マンモグラフィ」、つまり「乳房のX線検査」です。放射線のひとつ、X線で乳房を透かして画像化し、しこりの有無を確認するもので、脂肪は黒く、しこり部分は白く写ります。検査は以前からありましたが、日本では2000年から自治体の検診にも導入されました。

■「高濃度乳腺」の人は「マンモグラフィ」+「超音波検査」を


しこりがあればそこが白く写り、早期発見に役立つマンモグラフィなのですが、じつは乳腺も白く映し出されます。そのため、乳腺の密度が濃い「高濃度乳腺」の人は、“白い背景の白い影”、つまり雪原で白うさぎを探すような状態で、しこりが判別しにくくなります。じつは日本人女性は高濃度乳腺の人が多いそう。

「そこでマンモグラフィと合わせて受けてほしいのが、超音波検査です」と島田先生。超音波検査は、臓器に音を当てて返ってくる反射の様子を画像化して診断するもので、放射線を使わないので繰り返し行うこともできますし、妊婦さんにも適用できます。

ただ、当てたところしか画像にならず、診断能力や技術により再現性や精度に差が出ます。また、乳がんの死亡率減少効果についてはまだ科学的根拠が出てないため、一部の自治体を除き、超音波検査は自治体検診となっておらず、任意検診となり、費用も自己負担となります。

「現在はまだ中途報告ではありますが、世界初の超音波検査の有効性を検討する調査が日本で行われており(=J-START)そのデータでは、超音波検査を加えたほうが、マンモグラフィ単独より初期のがん発見率は1.5倍となることがわかっています」と島田先生は2種類の検査の併用を勧めます。

ちなみに欧米人の乳房は乳腺よりも脂肪が多いので、マンモグラフィでは黒い背景にある方が多く、しこりの白い影はたやすく発見ができます。したがって検査の主流はマンモグラフィ。白く映ってしまう高濃度乳房が少数派の米国でも、最近は個々にきちんとその状態を本人に伝えて、マンモグラフィだけでなく適切な検査を組み合わせるような運動も起こっています。欧米では「検診でがんは早期発見できる」との理解が浸透していて、受診率は日本の40%に対し、アメリカでは90%にもなります。

■「MRI」や「CT」は必要と判断された場合に


一方、「MRI」や「CT」は、検診という目的ではなく、乳がんの診断を受けその治療を適切に計画していくために使われることが多いです。

とくにMRIは、立体的に乳房を見ることができるため、乳がんの広がりの範囲が乳房の中でどのようになっているかなど、手術の計画に必要な情報を確認するのに大きな威力を発揮します。CTは肺や肝臓など乳がんがほかの臓器に転移していないか調べる場合に用いられることがあります。

最近では、乳がん遺伝子を持つ方の乳がんは、通常より若い年齢で発症することが分かってきたため、遺伝子リスクのある方には20代の若い年代からの乳がん検診が必要となります。このような特別な場合は、放射線を用いないMRI検査が検診に用いられるようになってきました。

CTはマンモグラフィの撮影に比べ約100倍程度の放射線を使う画像診断のひとつです。他の臓器への転移の有無を調べる場合には用いられますが、小さな乳がんを発見することは難しく、乳がんの早期発見には適していません。

■アメリカへのフライトで受ける放射線とほぼ同じ


ここで気になるのが、マンモグラフィによる放射線の影響です。島田先生も原発事故のあと、「マンモグラフィを受けると放射能はどのくらい体に残るのですか」「1週間以内は妊娠しないほうがいいですよね」などとよく聞かれたそうです。定期検診を受けていた北斗晶さんが乳がんを告白された後には、「定期的にマンモグラフィで被ばくするとがんになるのですか?」という質問も多かったそう。

「マンモグラフィはX線という放射線を使うので、たしかにわずかに被ばくはしますが、身体に影響が出る量ではないことは説明したとおりですし、X線は通り抜けていくので、体内に蓄積することもありません」と、放射線検査をむやみに怖がらないよう呼びかけます。
【参考】放射線被ばく早見図|放射線総合医学研究所
http://www.nirs.qst.go.jp/data/pdf/hayamizu/j/20130502.pdf

では実際どれくらいの量なのかというと、「マンモグラフィの1回の被ばく線量(吸収線量)は約0.05~0.15mSv(=ミリシーベルト)。これは東京とサンフランシスコのフライトで宇宙から受ける0.038mSvと大差ありません」とのこと。

放射線によって組織障害が確定的に起きる線量は100mSv以上なので、1000分の1程度かそれ以下です。ちなみに自然界から受けている放射線は地域で異なり、たとえば岐阜は年間0.78mSv、神奈川は年間0.42mSv。これは地質の違いなどによるものです。でも、岐阜に住む人にガンの発症が多いという事実はありません。

また、放射線業務従事者の被ばく線量限度は年間50mSv(5年間では100mSv)、航空機乗務員(最大約1000時間フライト)の年間被ばく線量は5mSv前後。航空機乗務員が業務による放射線被ばくで他の職種の方よりがんになりやすいというデータもありません。これらの数字と比較してもマンモグラフィによる被ばく線量の低さがわかります。

■乳房を圧迫するとしっかり診断でき、放射線量も少なくなる


マンモグラフィは、「乳房をはさまれて痛い」ことも検診に消極的な理由のひとつ。これについて島田先生は、「乳房を機械ではさんで薄く引き伸ばすのは、薄いほうがX線に透かしやすいからで、正しい診断をするために大事なこと。透かしやすくなれば放射線量も少なくて済みます。そしてしこりの影もより鮮明に映し出すことができるのです。乳房を押しつぶすというのではなく、乳腺の構造を理解したうえで適切に引き伸ばす技術がある技師であれば、痛くありませんし、リラックスする方法も教えてくれるはず」と言います。

検査を受ける際は「しっかりした技術がある技師」に加え、「医師」「機械」もポイントだそう。「NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構」のサイトでは、認定試験に合格した技師や医師、施設を掲載しているので、参考になりそうです。
NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構
http://www.qabcs.or.jp/
マンモグラフィ検診施設画像認定施設リスト
http://www.qabcs.or.jp/mmg_eva/list/

■自分の年齢や状態にフィットした検診が大事


現在自治体で行われている乳がん検診は、「40歳以上、2年に1回」で、「問診・視診・触診及びマンモグラフィ」が一般的。「40歳以上」なのは、高齢になるほど女性ホルモンが少なくなり、乳腺が脂肪に変わるのでマンモグラフィで診断しやすいからであり、「2年に1回」なのは、調査のうえ、費用対効果を考慮して妥当と判断された頻度です。

ただ、自治体のガイドラインどおりに検査を受けていても、高濃度乳房の方などは進行してから見つかる場合もあるため、島田先生は「1年に1回の受診」を勧め、さらに「自分の年齢や状態にフィットした検診が大事」と言います。

たとえば「20代だからまだ大丈夫」ではなく、血縁者に乳がんの人がいたら、乳がんになるリスクも高いので、マンモグラフィも超音波もしっかり受け、頻度も高める。逆に30歳で一度マンモグラフィを受けて脂肪組織が多いとわかれば、マンモグラフィで確認しやすいので、むやみに超音波検診を受ける必要はない……といったことです。

島田先生は、さらにこうアドバイスしてくれました。
「乳がん発見時の大きさは2センチが平均ですが、その大きさになるには、だいたい7年から10年かかります。乳がんのピークは40代50代ということを考えると、30代からできていたかもしれず、その頃から検診を受けることを考えたほうがよいかもしれません。
また、アンジェリーナ・ジョリーさんが予防的措置として健康な乳房を切除したのは、乳がんになるリスクが高い遺伝子をもっていたからですが、じつはそうした遺伝子をもつ日本人もいます。乳がんになりやすい遺伝子があるかどうかは、保険適用されていませんが、血液検査で調べることはできます。こうしたことも知識としてもっておくといいですね」

■乳がん検診は不妊治療の前に済ませておきたい


島田先生は長い間ホルモン剤を使用している女性には、「半年に1度の検診」を勧めることもあると言います。その理由は、ホルモン剤は多く・長く使うことで、乳がんのリスクが高まることがわかっているから。

「がんの発症と関わっているかは明確ではありませんが、先進国で乳がんが増えている理由のひとつは、晩婚化や少子化など女性のライフスタイルが変わり、女性ホルモンのコンディションが変わってきたからといわれています」

たとえば、生理不順時などに使用するピルもホルモン剤のひとつ。若い女性の使用率は年々高まってきているため、それだけ長くホルモンの影響を受けることになります。不妊治療や更年期障害の治療でもホルモン剤を使うため、島田先生は「使うときは治療を行う前に必ず安全確認を。とくに不妊治療する場合は、先に乳がん検診を」と呼びかけます。

■「おかしいな」と感じたら「検診」ではなく「受診」を


「他のがんは高齢になるにしたがって発症しますが、日本人女性の乳がんは現役世代の病気。子育て中など周囲への責任が大きい年代になるがんです。時間がない、任意検査のお金がもったいないなどと言わず、旦那さんを検診に送り出す前に自分が検診を」と島田先生は訴えます。

そして、「検診」と「診療」の違いにも触れてくれました。
「検診は、症状はないけれど念のため受けておくもの。日本の場合は保険適用にならないので、自治体が補助してくれるものもあります。一方、何らかの症状があり、その原因を調べてもらうのが受診です。受診は保険診療になりますから、『お金がかかるから、次の自治体の検診まで待とう』などと思わずに、症状があればすぐに診療を。症状があるのに検診に行き、マンモグラフィだけしか受けず、がんを見過ごしてしまうこともあります」と注意を促します。

「乳がんは進行するとやっかいですが、早いうちであればしっかり治せます。治療方法も進歩していて、3年前からは保険適用で乳房をきれいに再建できるようにもなりました。ネット情報を鵜呑みにせず、信頼できる医師や技師とともに『自分にとって必要な検診』は何か、考えてほしいですね」

子育て中だからこそ、自分のため、家族のため、もっと検診に積極的になる必要がありそうです。

江頭紀子江頭紀子
調査会社で情報誌作成に携わった後、シンクタンクにて経営・経済に関する情報収集、コーディネートを行いつつ広報誌も作成。現在は経営、人材、ISOなど産業界のトピックを中心に、子育て、食生活、町歩きなどのテーマで執筆活動。世田谷区在住、二女の母。