保育園ママ生活も10年以上となり、わりあいシッカリ者の三姉妹の末っ子が、しかも年長ともなれば、母が記名をうっかりサボタージュするのも致し方ない……わけもないが、実際のところ、よく忘れている!(いばるな!)

それでも「お着替え」の類が紛失しないのは、ひとえにこの娘がちゃんとしているからなんだろうな……と親馬鹿混じりに感心していた先日、保育士をしている友人とお茶した際、フンと一笑に付されたのである。

友人「嗅いでるから、それ」
筆者「へ?」
友人「屁じゃなくて、その名前書いてないシャツだの靴下だののね、私らが」
筆者「嗅ぐの?」
友人「嗅ぐよ。嗅げばたいてい誰のか、分かる。そこんちの洗濯物の独特なニオイってあるからね、何年もお世話してれば、なおさら精度は上がる」
筆者「何のニオイなの? カビ的な何か?」
友人「ちがうちがう、洗剤のニオイよ。洗剤っていうか、柔軟剤? それとその子の体臭が入り混じったような。とにかく、ひとりひとり違うものなんだよ。それくらい、洗濯物のニオイって、強烈なの!」

つまり我が子のノーネームなパンツの類が行方不明にならない理由とは、うちの子がシッカリしてるってわけではなく、先生方の「臭って判断」が奏功していたというだけのことなのらしい。トホホ!

いやでもちょっと待てよ。長年「我が家はこの洗剤とこの柔軟剤に決めているざます」という家庭というのはレアなんじゃないか? 巷にはすさまじい種類の洗剤、柔軟剤が満ち満ちている。ドラッグストアに行けばズラリ、バニラ、フローラル、柑橘、セッケン、なんとかベリーやら、キュウリの香り(?)やら、国籍不明の組み合わせ無限大。先週と今週の洗濯物の香りがまったく違うことだって当たり前にありそうだ。それでもわかるもんなの?

友人「それが、不思議と分かるんだなあ~……。そこんちの、お母さんの癖? みたいなのがきっとあるんだよね。ドバドバ使うとか、濯ぎ少ないとか、部屋干しか外干しかとかによっても変わってくるからね」
筆者「それはほとんど特殊技能だね……」
友人「そういうアレでいうとね、最近、子どもたちの洗濯物の柔軟剤のニオイがきつ過ぎて、お部屋の中に何種類ものニオイが充満しちゃって、ちょっと身体の弱い先生が気持ち悪くなっちゃうってまあ、事件があってさ」
筆者「なんと」
友人「赤ちゃんだっているわけじゃない? 皆で相談して、園長先生にお願いして、保護者に手紙配ってもらったんだよね、『お願いですから柔軟剤あんまり使わないでください』って。わざわざ頼むほどのことかとも思ったんだけど、なんだかすさまじいほどプンプンさせちゃってる家があるんだよ。もうさ、その子の半径5メートルぐらいニオウの。あれ、どうなってんのかね?」

人間の五感。視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚のうち、目は閉じられる。味覚、触覚は食べない触らないと言う意思で止められる。聴覚と嗅覚はどうかといえば、耳の穴と鼻の穴は意思の力で閉じられない。だから、「騒音問題」と「悪臭問題」は深刻な社会問題にまで発展しやすい。

なかでも暴力的に飛び込んでくるニオイの破壊力について、思い当たる節がひとつもない人は少ないことだろう。筆者は、逃げ場の無い梅雨時の満員電車内で、凄まじい部屋干し臭と汗臭さ、そして「頭から被ったのか」という濃度の香水臭に挟まれた時には、失神しなかったのが奇跡のように思われた。鼻を閉じる特殊技能を持たない我が身を呪ったものだ。

あと、すし詰めの超高層エレベーターで漂って来た、誰かの超強力なオナラ臭といったら……。後日、菌に関するある本を読んでいたところ、誰かのオナラのニオイを感知した時には、オナラに含まれている大腸菌が我が鼻の粘膜に届いている!という世にも恐ろしい記述があり、改めて気が遠くなった。ニオイ、ヤバい。ニオイ、恐るべし! ニオイを侮ってはいけない。

「だから、私は“ニオイ、消さなきゃ! まずい!”って思って、めっちゃくふうして洗剤とか柔軟剤の組み合わせとか配合、考えてるんだよね……」


別の日。
「通り過ぎてすら残り香が漂う」塩梅で柔軟剤を使っているのが分かったあるママ友に、「柔軟剤好きなの?」と声をかけると、ビックリしたような表情で、「やだ、まだニオウ?!」と言う。互いに瞬時には意図が汲めずにいたものの、紐解いてみれば、彼女が気にしていたのは、「体育会系の大学生、高校生息子たちのとんでもなく臭い洗濯物」のこと。これを何とかして“臭くない状態にしなければ!”という、努力の結果としての強烈な柔軟剤臭なのだった。

「末の娘にね、お兄ちゃんたちの洗濯物と同じ洗濯機で洗わないで! とまで言われて、でも実際、本ッ当~に、臭いのよ。洗濯機2個買うわけにもいかないし、なんとかニオイの強い洗剤とか柔軟剤を使って消してる感じ。あの汗臭いよりは、いいと思って……」

なるほど、そうすると、あの「半径5メートル臭う」友人の保育園の子のママも、おそらくは良かれと思って柔軟剤臭を強く漂わせていたのだろう。


改めて悩ましいこのニオイ。夜、娘のために畳んだ「お着替え」に顔を埋めてみると、えも言われぬ、まぎれもない、「うち」のニオイがした。


▼DATA


無香料タイプのヤシノミ洗たく用洗剤・柔軟剤をラインナップするサラヤ株式会社では、20代~30代男女1055名を対象に『柔軟剤の香りに関する意識調査』を実施し、その結果を公開している。

普段の生活の中で、これまでに一度でも柔軟剤の香りを不快に感じたことがあるかという質問には、43.3%が「ある」と回答。さらに、不快に感じる頻度については、「1週間以内に1回以上感じる」という方が、柔軟剤の香りを不快に感じると回答した人の過半数(52.1%)に上り、じつは半数以上が日常的に柔軟剤の香りに迷惑している実態が明らかになった。

さらに、洗濯における香り付き柔軟剤の使用についてどう思うかをたずねたところ、「とても好ましい」「好ましい」と回答した方は64.2%にも上り、洗濯における香り付き柔軟剤の使用に対しては過半数が好意的に感じていることが分かった。

一方で、香り付き柔軟剤の使用が好ましいと答えた人のうち、柔軟剤による「香害」の認知率は29.4%と少数であり、問題意識を持たずに香り付き柔軟剤を使用していた実態が浮き彫りとなった。

ここ最近、マスメディア各所においても、強い芳香の洗剤や柔軟剤が衣服に残した化学物質によって、頭痛やめまいなどを引き起こす「化学物質過敏症」の報道を散見するようになった。つまり、洗剤や柔軟剤による衣服の芳香は、単なる好みという感情的な問題でなく、深刻な人にとってはそれが健康被害になりえることは留意しておきたいところである。

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藤原千秋藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。三女の母。