「そろそろ次の子どもがほしい……。一人目はすぐにできたのに、どうして次の子はなかなかできないの?」そう悩んでいる人々は決して少なくないはずだ。


二人目不妊は決して珍しくはない。パートナーが代わった場合を除けば、一人目の時よりも男女ともに年齢が上がっているため、どうしても妊娠する確率が下がるからだ。現在、不妊症の定義は、「妊娠を希望し、ある一定期間(※1年間が目安)避妊することなく性行為を継続的に行っているのに、妊娠しない」ことをいう。

もし、子どもを真剣にほしいと思うのであれば、病院で検査を受け、必要に応じて不妊治療を行うことが妊娠への近道となる。しかし、それは女性だけではなく、男性も同様だ。なぜなら、世界保健機構(WHO)の調査により、不妊の原因の約50%は男性側にもあることがわかっているからだ。

では、男性不妊とは、いったいどのような状態のことをいうのか。順天堂大学医学部付属浦安病院泌尿器科教授であり、メンズヘルスクリニック東京でも不妊治療を担当している、辻村晃先生にお話を伺った。

■男性不妊の原因は大きく3つ


まず、男性不妊はどのような原因で起こるのだろうか。

「大きく分けて3つの原因があります。1つめは、精子をつくる睾丸の働きが悪いことで、男性不妊の原因の約8割を占めます。2つめは、精子は作られているけれど、精子の流れてくる道筋に問題があってうまく出ないこと。そして3つめは、性行為そのものができない、または射精がうまくできないということですね」(辻村先生)


睾丸の働きの悪い人は、睾丸が小さいことが多い。そして、睾丸の働きが悪いと、作られる精子の数が少ない、動きが悪い、精子の形が悪いなどの影響が出る。精子の形が悪いというのは、頭の部分が大きすぎたり、小さすぎたり、しっぽだけしかなかったりするということだ。このような精子は受精しにくかったり、受精してもその後順調に進んでいかなかったりする。

なお、1つめの睾丸の働きが悪くなる原因には、先天的なもの以外にも後天的なものがあるという。先天的なものとしては、精子をつくる遺伝子が欠損していることが挙げられる。そして後天的な原因としては、感染症などによる高熱や睾丸の上部にある精索静脈に瘤ができる「精索静脈瘤」の存在が挙げられる。

もともと、精子は32~33度Cという低い温度で作られる。睾丸の入っている陰嚢が体外に出ているのはそのためだ。だから、高熱などで睾丸が温められると、精子はうまく作られにくくなる。

また、精索静脈瘤ができると、睾丸から心臓に戻る血液が睾丸のあたりにたまりやすくなる。すると、睾丸が約36度Cの血液に囲まれて温められてしまい、やはり精子が作られにくくなるのだ。

ただ、精索静脈瘤は全男性人口の約15%にみられるというが、必ずしも精索静脈瘤=不妊とは限らない。たとえ精索静脈瘤があっても、精子が問題なく作られていることもあるからだ。

2つめの、精液の道筋に問題があるというのは、過去の感染症や手術の後遺症などが原因となる。たとえば、子どものころに鼠径ヘルニア(腸や腹膜の一部が足の付け根にはみ出てくる病気)の手術をしたときに、精液が通る道がふさがったり、傷ついたりする場合や、大人になってから前立腺や睾丸の横についている副睾丸という器官が炎症を起こして傷が残った場合などに、精液の道が閉ざされてしまいやすくなる。

3つめの射精や勃起ができないという原因も年々増えている。そもそも、日本人の性欲自体が弱くなっている傾向にあり、今やセックスレスは日本の全夫婦の45%、20~30代の若年層でも2~3割を占めるといわれている。

■自覚症状のない男性不妊


精子の数や運動性は年齢とともに徐々に下がるので、男性も女性ほどではないが、年を取るほど妊娠させにくくなっていく。しかし、男性不妊を自覚するのは難しい。というのも、精液が出ていても、精液の中に精子がないこともあるからだ。

「男性側が検査せず不妊に気づけるのは、精液そのものが少ないか、睾丸が人と比べて小さい場合でしょうか。でも、豆粒ほどの大きさしかない睾丸の持ち主でも、自分に不妊の原因があると気付かないことは決して珍しいことではありません。確かに、睾丸の大きさを人とじっくり見比べることなんてめったにないですからね」(辻村先生)

男性不妊だと診断されるには、検査が必須となる。どこの病院でも行っているのは、精液検査だ。精液を顕微鏡で見て、精子の数や形、運動の様子を判断する。もう少し専門的な病院へ行けば、睾丸のサイズが小さくないか、副睾丸に傷やたまった水がないか、しこりがないかを超音波で検査することもできる。

また、睾丸を働かせる男性ホルモンが分泌されているかどうかの検査も行う。ほか、肝機能障害、腎不全、糖尿病、血中コレステロール値が高いことも不妊につながる。淋病やクラミジアなどの性感染症の検査もしておいたほうがよいだろう。

とはいえ、男性不妊の検査はハードルが高いと感じる男性は少なくない。産婦人科に行けば、女性ばかりの待合室で順番を待ったり、採精室にまで向かったりしなければいけないが、そこに抵抗を感じるのは無理もない話だ。

その点、今回の取材協力で訪れたメンズヘルスクリニック東京のような男性専門のクリニックであれば、受診の心理的ハードルは低い。また、精液検査以外の専門的な検査を行っているのも心強いだろう。

「メンズヘルスクリニック東京の場合、結婚前や結婚してすぐ、妊活を始める前に“ブライダルチェック”として検査を受ける方が約8割を占めますね」(辻村先生)

ちなみに、このクリニックでブライダルチェックを受ける患者さんの中で、男性不妊と診断された方は約1割。特に精液の中に精子がひとつも見当たらない無精子症は2%であるという。不妊の心当たりがあって検査しているわけではないのにこの数字ということは、男性不妊が意外にありふれたことだというのがよくわかる。

■体外受精や手術などを経て妊娠につなげる


それでは、男性不妊と診断され、それでも今すぐ子どもがほしい場合は、具体的にはどのような治療を行っていくのだろうか。

まず、精子自体は存在するけれど、数の少ない人は、人工授精、体外受精、顕微授精を行うことで妊娠は可能だ。もし、時間をかけてでも自然妊娠にこだわりたいのであれば、ビタミン剤や漢方、サプリメントなどを服用して質の良い精子を生産できるようにしていく。

精索静脈瘤がある場合は、手術をすれば7割の患者さんは精子の数が増えるという。ただし、残りの3割は変化なしだということも覚えておきたい。

無精子症の場合は、妊娠のためには手術が必須となる。無精子症には、精子は作られているのに道が閉ざされていて出てこられない場合と、睾丸が小さくて働きが悪い場合がある。前者の場合は、手術して睾丸の組織をひとつまみでも採れば大量の精子が採取できるため、顕微授精で妊娠できる可能性がある。

そして後者は睾丸を手術で開いて手術用の顕微鏡を用いて精子を探す。無精子症であっても精子が数匹は存在することがあるので、その精子を凍結保存し、顕微授精して女性側の子宮に戻すことで妊娠につなげていく。

妊活は、時間との勝負。子どもを切実に望んでいるのなら、女性側だけでなく、男性側の受診も同時に行うことで、子どもを授かる可能性が高くなる。もしもパートナーがなかなか受診しようとしないときのために、男性専門クリニックの存在を覚えておきたい。

【取材協力】
メンズヘルスクリニック東京
http://www.menshealth-tokyo.com/

今井 明子
編集者&ライター、気象予報士。京都大学農学部卒。得意分野は、気象(地球科学)、生物、医療、教育、母親を取り巻く社会問題。気象予報士の資格を生かし、母親向けお天気教室の講師や地域向け防災講師も務める。