先日、初回レビューを執筆した『母になる』を継続して見るために、テレビの録画リストをあれこれと確認していたところ、放送日の水曜は夜中にもドラマが放送されていることを発見した。

2015年の秋からTBSが「水ドラ!!」と称した深夜ドラマ枠を立ち上げていたらしく、今シーズンは『3人のパパ』というドラマが始まったところだ。
http://www.tbs.co.jp/3papa_tbs/

シェアハウスで暮らす3人の男性のもとに、ある日、「この子はあなたの子どもです」という置き手紙とともに残されていた赤ちゃん。それぞれに心当たりのある3人が、戸惑いながらも、赤ちゃんの子育てをしていく、というホームドラマだ。

「3人の男性と1人の子ども」というあらすじは、映画やドラマでは定番のパターンで、
元ネタとなっているのは、1985年の『赤ちゃんに乾杯!』というフランス映画。

独身生活を謳歌していた3人の男性のもとに、置き去りにされた赤ちゃん。うち一人の男性が父親ということが発覚し、男3人で子育てに奮闘するというコメディで、大ヒットを博した後にハリウッドで『スリーメン&ベビー』としてリメイクされ、日本では、3人の女性が男の赤ちゃんを育てるという男女が入れ替わった同タイトルのドラマが制作されたこともある。

その後も、少しずつ設定を変えて似たようなドラマをいくつか見たことがあるので、コメディのスタンダードとなっていると言ってもいいだろう。


今なぜこのタイミングで、と気になりつつも、男性の育児参加に関心が集まっていることもあるのかな、とりあえず見ておくかと初回を鑑賞したのだが、思わず「うわあ……めちゃくちゃノリが軽いな……」と声が出そうになった。

これまで執筆した数々のドラマレビューを振り返ると、コメディからサスペンスタッチのもの、ドラマ性の高いものなど、作風はそれぞれ異なるが、扱ってきたテーマはシングルマザー、産後クライシス、特別養子縁組、妊娠・出産に関わる医療問題など、何かしらシリアスなものが含まれている。

時事性の強いトピックに触れることも多いため、子育て中の身として共感したり、胸を痛めたり、問題提起にうなってみたり、俳優陣の熱演にもらい泣きしたり、当事者として思い入れながら鑑賞してきた。

ところが、この『3人のパパ』、胸に迫ってくるものが何もないのだ。
今まで鑑賞してきたドラマの中でも群を抜いて軽い。ドラマというよりお芝居に近い雰囲気のせいなのか、そもそも深夜ドラマというのはこういうノリなのかは分からないが、今まで見てきた子育て系のドラマとはあまりに違いすぎて新鮮に感じる。

「父親が誰かも明かさず、赤ちゃんを置き去りにせざるを得なかった母親の心情とは」など、深読みすれば真面目な分析もできるかもしれないが、恐らくそこは本質ではないのだろう。あくまでも、子どもとほとんど触れ合ったことのない若い男性のドタバタコメディなのだ。

しかし、主役を演じる3人はいずれも「D-BOYS」という俳優集団のメンバーで、若い女性から高い人気を誇る存在でもある。必然的にこのドラマの視聴者は彼らのファンになると考えると、若い女性たちが「何となく」子育てのことを見聞きするには非常にいい取っ掛かりなんじゃないだろうか。

描写も決してリアルではないけれど、子育てを身近に感じるきっかけって意外と「赤ちゃんがかわいい」くらいのもので、その実情を事細かに描く必要はないのかもしれない。


娘の通う保育園には、近隣の中学生が体験学習で時々遊びに来てくれる。
どうやら東京都主体の取り組みらしいのだが、本を読んでくれたり、一緒に体操をしたり、
子どもたちもすごく楽しそうにしていて、お互いにとっていい時間になるな、と感銘を受けた一方で、どうして自分が中学生の時代にはこんな体験がなかったのだろうと不思議にも思った。

時代の変化ということなのだろうけど、中学生のうちから小さな子どもにたくさん触れ合うことで、親しみも沸くだろうし、もちろん教育の側面からも素晴らしいものだ。彼らが大人になる頃にはもっとキッズフレンドリーな世の中になっているんだろなうとも感じた。

がっつりと子育てにコミットしなくても、「そういえばあのドラマでこういう場面見たことある」とか「中学のときに隣の保育園に行く授業があって、こんなことやったかも」くらいのフワっとした感触の方が、子どもに抵抗なく接するのには適しているのかもしれない。

そして我々子育て世代には、「若い世代には、子育てってこういう風に見えているんだな」と知るきっかけでもある。

ドラマの中で、熱を出した赤ちゃんを前に、3人が買ってきたものといえば水とリンゴ、おしゃぶりだった。そのチョイスは果たして正しいのかと頭をかしげたが、10年前、いや5年前の自分だって、風邪を引いた赤ちゃんに何をすべきかなんて知らなかったはずだ。月齢によって、口にできるものが違うとか、一目見て、この子は何ヵ月くらいかな、なんて子どもが生まれるまでは自分だってまったく分からなかったのだから。

番組サイトの「ファンメッセージ」(http://www.tbs.co.jp/3papa_tbs/bbs1/)を見たところ、視聴者の中心はやはり10代、20代。主題歌を歌うKEYTALKも若者に絶大な支持を得ているバンドなので、全方位的に若い世代へ向けてのドラマのようだ。

『母になる』がかなり気合を要するドラマなので、これくらい軽快なものでバランスを取るのも良いのかもしれない。

1話が30分足らずなので、スマホで空き時間にさくっと見るのもよし、2話目以降も続けて見て、若者の価値観に触れてみたい。

放送終了後から1週間はTBSFREE by TBSオンデマンドで視聴可能。
http://www.tbs.co.jp/muryou-douga/3papa_tbs/001.html

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。