「うっせーんだよ!!」
「○△□¥※……!!! あんたが×××じゃないかーーっ!!!」
「てめぇ、***……だぞっ!!!」
続いてズドン、ドスンという音……。

……またはじまった。同じマンションの、とある部屋からしばし聞こえてくる、母と娘の罵詈雑言。

いやいや、ヒトゴトではないぞ。わが家の中1女子もそろそろそんな時期。
「ウザイ」
「ウッセ」(うるさい)
怒鳴りはしないものの、ボソッとつぶやく頻度が増えてきた。

いや、わかりますよ、私だって中学生の頃、とくに母親に反発していたし。
でもなぁ。今はわたしが思春期を過ごした時代と違って、ネットやスマホなどがあるし、塾や習い事で余裕がないようにも見えるし、子どものストレス度もかつてよりずっと大きいのでは?

そう思うと、自分が通ってきた道とはいえ、思春期のわが子への不安や心配も大きくなる。そして、どうしても、「育て方が悪かったのかな」と、自分を責めてしまいがちだ。


そうした不安に科学的な切り口で、親にある種の「安心感」と「納得感」を与えてくれるのが、6月10日(土)に放送予定のNHKスペシャル『ニッポンの家族が非常事態!? 第1集 わが子がキレる本当のワケ』だ。



■親なら誰もが戸惑うわが子の「変化」


「娘の髪をさわっただけで、キモイ、と言われた」
「息子に注意しただけでウルセー、と言われた」

番組ではスタジオの出演者たちも、わが子への思春期エピソードで大盛り上がり。

かわいかったわが子が「感情を爆発させていく」映像が淡々と映し出され、「どこも同じだな」なんて安心もしてしまうが、番組ではしっかりと、アメリカの最新の脳研究の報告を交えつつ、思春期の「暴走」の正体を科学的に解き明かしていく。

その解説に、出演者たちから「そういうことか!」と納得の声があがる。



ご存じのとおり、思春期は身体に変化が起きる時期。それはもちろん性ホルモンの働きによるものだが、その性ホルモンが脳とも関係しているらしい。この年頃の脳が、いかに他人の感情に敏感か、中学生と大人を比較した実験が、それをしっかり証明していて興味深い。



■思春期の脳ではいったい何が起こっている?


でも、なぜ思春期の脳はそんなになっちゃうのか? そして、仕組みはわかったが、では実際に、感情爆発する子にどう接すればいいのか?

その疑問に明快に答えてくれるのが、専門家ゲストのお二人、乳幼児・児童・思春期精神科医の渡辺久子先生と、京都大学大学院教育学研究科教授の明和政子先生である。

明和先生は脳科学や人類進化学の視点から、身体と脳の発達の違い、脳が完成するまでには25年もかかることなどを挙げ、思春期の感情爆発の背景を解説してくれる。驚いたのは、感情を抑制する前頭前野が一番最後に完成する、ということ。つまり思春期はここが未完成だから、「感情爆発」するらしい。



■子どもの不安は親の100倍!


脳が完成するまでには25年……ということは、思春期は25歳まで続くってこと?
そんな不安に、「子どもは親の100倍くらい不安」と、子の気持ちに寄り添いつつ、親に向けて助言してくれるのが、精神的な治療が必要な児童をこれまで数多く診療してきた渡辺先生だ。

子どもは、親にだからこそ、自分の「変化」を見せている。むしろ「変化」、つまり子どもが「感情爆発」している家族は大丈夫、とエールを送る。

■いろいろな関係性の中で育つのが大事


……とは言われても、現実的には「やってらんない!」「こっちだって!」と言いたくなるし、「爆発」が家庭内暴力にエスカレートする心配だってある。

なんて思っていると、先生方からその対処法としてヒントになるようなお言葉が。
それは「大人同士で支え合う」ということ。
先生方は、親だけでなく、周囲の大人、社会の中で育つことの大切さを強調する。

そう、これはまさしく「共同養育」。

以前、大きな話題を呼んだNHKスペシャル「ママたちが非常事態!?」にも出演されていた明和先生が強調されたことである。

とくに思春期は親離れの時期なので、親子関係が希薄になり、だからこそ親以外の大人や社会が、思春期の子、そしてその親をも支える必要があるという。

子どもが親に(じつは)支えてもらいたいと思うように、親だって誰かに支えてもらいたい、というのは実感として、ものすごくある。孤独になるのが一番つらいのは、親も子も同じだ。

となると、一番身近なのはパートナー……夫婦の関係がキモになってくるような?……これについては「ニッポンの家族が非常事態!? 第2集」に譲ろう。

■感情爆発するほど脳にはいい?


さて、話題は必然的に「コミュニケーション」にも広がる。
スマホとのつきあい方、スマホと脳の関係などなど、「そこ、知りたい!」と思うツボが押さえられていく。

わたしが一番興味をもったのは、親にとってはできれば避けたい「感情爆発」が、思春期の脳の学習能力を一気に高める、ということだ。そのカラクリも番組ではていねいに説明。知れば知るほど、「いや~わたしたちの脳はなんて合理的にできているんだろう!」と驚嘆せざるをえない。

思春期の存在意義、「感情爆発」の大切さ……その、一つひとつに科学的根拠があることに驚きつつ、「そうか、そういうことだったのか。なら、もう少しこちらの態度も変えてみよう」なんて、珍しくすなおに思えてしまうのであった。

■「親の立場vs子の立場」それぞれの立場で発言するスタジオ出演者のホンネがおもしろい


番組に登場する出演者4人のうち3人は、父親、母親の立場で、親の気持ちを代弁してくれている。

4児の父である番組進行役の恵俊彰さんは、ケータイやスマホは自身の思春期には存在しなかったことに触れ、だからこそ不安な気持ちでいること、また5児の父、レッド吉田さんは、中1の娘にスマホを与えることへの抵抗感を吐露。

そうした親の立場の意見に対し、18歳の“みちょぱ”こと池田美優さんは、少し前までの自身の「反抗期の様子」を率直に語りつつ、子の立場でしっかり主張。

まさに現代の親子の見解の違いというか悩ましさというか、それがスタジオで繰り広げられていることに、「あー、みんな悩みどころは同じなんだなあ」と親近感をもつ。

歌舞伎役者の妻である三田寛子さんが、これまた「そうそう!」とうなづきたくなるコメントを随時してくれる。3人の息子さんたちとのエピソードも楽しい。

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結局のところ、悪いのは親でも子でもないし、むしろ思春期の「感情爆発」が脳の成長にも大事らしいということがわかり、いくぶん不安は拭えた。次のハードルとしては、「おお、思春期きたか、どうぞたくさん爆発して、脳を成長させて」と、おおらかに子の爆発を見守れるかどうかだ。

そこは親も修行かもしれないが、子が変貌する理由を知っているのと知らないのとでは、こちらの心情や相対する姿勢も違ってくる。わが子が思春期を迎え、「なぜ?」「どうすればいい?」と悩んでいる方にはぜひ、この番組をお勧めしたい。きっと心が軽くなる。

NHKスペシャル『ニッポンの家族が非常事態!? 第1集 わが子がキレる本当のワケ』
放送:2017年6月10日(土) 総合テレビ 午後9時00分~9時49分
出演:恵俊彰さん 三田寛子さん 池田美優さん レッド吉田さん
番組サイト
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20170610


江頭紀子江頭紀子
調査会社で情報誌作成に携わった後、シンクタンクにて経営・経済に関する情報収集、コーディネートを行いつつ広報誌も作成。現在は経営、人材、ISOなど産業界のトピックを中心に、子育て、食生活、町歩きなどのテーマで執筆活動。世田谷区在住、11歳5歳の二女の母。