妻「そういうことじゃないんだよね、言ってるのは」
夫「わかってる」
妻「わかってねーし」

あぁ、なんかその……こういうやりとり、力加減こそいろいろでも、身に覚えがあったりしないだろうか?「そうじゃないのに!」「なんでわかんないの?」って私もいくらでも言ったことあるよなぁ……。

なんだか思わず苦笑してしまう夫婦のやりとりが連続するNHKスペシャルが6月11日(日)に放映される。『ニッポンの家族が非常事態!? 第2集 妻が夫にキレる本当のワケ』。

イラっとして「キレる」妻と理由がまったくわからない夫、そのカラクリを科学しようという番組だ。


■「聞いてほしいだけ」がわからぬ夫


子育て中ってとにかく小さな不安とか心配ごとがつきない。私も息子が幼い時ほどちょっとした判断に悩んだ。

熱を出して不安な深夜「大丈夫かなぁ、いや救急なんか無理して行くほどじゃないよね、明日まで様子みる方がいいよね、まぁこれは大丈夫なパターンだよね、明日判断だね……」とだらだらと繰り返し言い続ける私に、「うんそれでいいんじゃない」と夫が言う。

「なにそれ!心配じゃないの!!」と言いたくもなるけれど、だいたいこの先の展開は「だってどうせ自分で決めるんでしょ、俺の意見はない」「いやそういうことじゃなくてさ……」と悪化するのがお決まりだ。

おっしゃるとおりで救急に行くレベルじゃない判断はしているけれど、不安で自信がないという気持ちをとりあえず受け止めて、ゆるーく共有してくれる感じが欲しいだけなんだけどなぁ。

……こんなやりとりは、どうやらあちこちの夫婦で発生しているらしい。

■負の記憶ボックスがありまして……


夫との小さなやりとりに怒りながら、実際には、あぁ、3日前もそうだったよね、3ヵ月前にもあった、5年前のあれだって……と、類似シチュエーションが数珠繋ぎに蘇り、頭の中ではそっちのことをメインに怒っている、なんてことが、私にはあったりする。

対夫の記憶ボックスみたいなのがあって、そこにはどうにも消化し切れないネガティブな記憶が放り込まれている。ずるずるっと取り出された過去のシーンがありありと頭に浮かんで、怒りが倍増&つらい気分になっていたって、夫の頭には今目の前で起きていることしかない。そもそも私のネガティブ記憶リストの1割も彼の記憶には残っていないだろう。

これを人は「女は根に持つ」と表現するのかもしれない。でも、根に持ってるつもりはなくて、簡単に忘れて「なかったこと」になっちゃうことの方が、単純にもうまったく理解できないだけ。

……どうやらこれも、私に限ったことではないらしい。

■「脳」でみる男女の感情の取り扱いの違い


番組では、こんな夫婦のありがちシチュエーションを脳の機能に注目して解説する。脳内の情報伝達パターンやネガティブな経験の処理方法に男女差があるという研究に、人類の進化や動物の認知メカニズムなどちょっと壮大な視点も加わっていく。


夫婦のずれのカラクリをこんなアプローチで説明されると、「ほぉ!そうなんですか!!」と結構素直に聞けるから不思議だ。ならば仕方ないか、と譲歩できそうな気もするし、こちらがそうなる事情もわかってくれたらなと思う。

とはいえ、「男/女ってこうだから仕方ないでしょ」と言い訳にするだけだったり、「はい、そういうことですから双方忍耐ね!」で終わったら何の救いもない。進化を振り返り太古に回帰すべきだ的な理屈もありえない。

大丈夫、そこは、ちゃんと続きがある。

■現代の生活スタイルとのミスマッチを乗り越えるスキル


例えば今の育児環境。核家族の母子密着型とか共働きスタイルでの多忙型で、かなりの高ストレスなのに、その受け皿が乏しい。夫が「共感力」を機能させないと女性はつぶれてしまう。つぶれる代わりに夫婦関係が破綻する可能性もあるだろう。

男女の役割は確実に新しいフェーズに入っていて、この環境を乗りこなしていくしかない。男性が「共感」が苦手だというカラクリを知識と経験でカバーして、むしろスキルとして意識的に実行した方がいい、という方向が示されるのが救いだ。

さらに、どうしたら、よりうまく機能させることができるか?と踏み込んでいく。

ここで登場するのがホルモンの話。昨年放映されて話題となった「ママたちが非常事態!?」シリーズでも話題になった、愛着形成の元になる「オキシトシン」がクローズアップされ、新たに「テストステロン」という男性ホルモンにも注目する。これらが、現在の人間の生活スタイルの中、さまざまな社会的役割を担う男女の体内でどう作用しているのか……。

本来備わっているホルモンの仕組みが機能しづらい環境だからこそ、ちょっとの努力をして機能のスイッチを入れたらいいのでは?とそのスキルが紹介される。さて、それは夫婦の行き止まり感を打開できるのか……。


■「他人の夫婦」というフィルターで自分を客観視


スタジオ出演者の反応も楽しく、男性同士、女性同士、苦笑しながら両サイドからそれぞれ「あるある」と共感しあっている。なのに男女ではお互い、本当にそうなの?わかんないなぁ、と笑いに包まれたやりとり。専門家ゲストもどこか我が身を振り返るようなムードがあって暖かい。

収録を見守るスタッフや関係者たちもこっそり苦笑していたり、あーこれきついなぁーって表情で見ていたり。たぶん皆、他人の夫婦のリビングをのぞき込みながら、自分の妻や夫のことを考えている。脳の輪切りやグラフを見ながら、自分の言動と向き合っている。だから感情的にならず、「自分たち夫婦」のことを素直に考えてみようかな、と思えるんだろう。

対立ではなく、なんとなく許し合い、認め合いのような暖かさ。

これ、当事者同士でやるのは一番難しいと思うのだけれど、夫婦でこの番組を観ることで同じ効果が期待できるんじゃないのかな、と感じた。きっと、他人を通すからこそ素直に受け止められる何かがあるはずだ。自分たち夫婦に大切な小さなきっかけが見つけられるだろう。

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VTRに出てくるご夫婦。「妻が夫にキレる」と称されるシーンの妻の顔は、怒っているというよりも、ものすごくつらそうで寂しそうに見えた。後半、夫婦でスキルを試した時の表情が忘れられない。

……パパのみなさん、今、あなたの妻はどんな顔をしていますか?

NHKスペシャル『ニッポンの家族が非常事態!? 第2集 妻が夫にキレる本当のワケ』
放送:2017年6月11日(日) 総合テレビ 午後9時00分~9時49分
出演:恵俊彰さん 押切もえさん 大島美幸さん レッド吉田さん
番組サイト
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20170611


狩野さやか狩野さやか
Studio947でデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる。自身の子育てがきっかけで、子育てやそれに伴う親の問題について興味を持ち、現在「patomato」を主宰しワークショップを行うほか、「ict-toolbox」ではICT教育系の情報発信も。2006年生まれの息子と夫の3人で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者資格有り。