突然だが、「子どもを生んでから時間が経つのが早い」と感じないだろうか。
2017年、梅雨が明けたと思ったら、もう8月が終わろうとしている、このままあっという間に生涯を閉じてしまうのではないか、という危機感を持つのは私だけではないだろう。

この理由として、人は年を重ねたぶんだけ時間が早く過ぎると感じる「ジャネーの法則」や、大人になると新鮮な体験が無くなり日常がマンネリ化するから、というものがあって、どれも納得する。


で、今回それに加えたいのが、「人生の主役を降りがちで、時間の裁量権からも降りがち」を挙げてみたい。

■子どもと主役を交代


私が子どもを生んで愕然としたことを総括すると、「人生の主役をのっとられた感じ=自分がない感じ」に尽きる。周知のとおり、赤子を献身的に世話するとなると、ブラック企業かくたるやという奴隷っぷりになる。

新生児期を無事やり過ごし、幼児期に突入しても、基本的にお母さんは日々のタスクが山積みである。働きのメインは子どもと家族のセコンド役と家事。それに仕事復帰が重なると、1分単位の時間が惜しい。「他者から自分の時間を喰われまくっている感じ」はピークである。

「自分にもやりたいことはある」が、時間が足りずに子どもたちの就寝(寝かしつけ)を迎え、それが繰り返されていくうち、「自分がやりたいことって何だっけ?(放心)」となっていき、やんわりと自我が滅されていく(※家庭差・個人差はあります)。

私も例外ではなく、二人目の子どもが新生児期に、夫から「将来進みたいビジョンはなんだ?」と高尚なことをきかれて、「寝たい」とだけしか言えなかったのだが、今ならわかる。

有名どころの「マズローの5段階欲求」でいう最底辺、「生理的欲求(寝たい、食べたい、排せつしたいなど)」にいた私が、最高位の自我をバリバリ発揮した「自己実現欲求(不労所得で生活して日本酒を作りたい)」のビジョンなど考える余裕は1ミリもないのだ。マズローにしたがえば、欲求とは段階的にしか満たされないというし。

▼参考
【マズローの5段階欲求】
ピラミッド型をしていて、下から「第一欲求・生理的欲求」、「第二欲求・安全欲求」「第三欲求・社会的欲求/帰属欲求」「第四欲求・承認欲求」「第五欲求・自己実現欲求」。


というわけで、産後のやや異常事態の脳が落ち着き、身体のサイクルが整い、マズローのでいうところの下から3番目、「社会的欲求(友だちと飲み会に行きたい)」に来たあたりでふと思うのである。

「いま、世の中ってどうなってるの?」

流行りのドラマや音楽、映画、ファッションなどなど、カルチャー的なものをゴッソリ斬り捨てて久しい。政治・経済もよくわからん。そこに悔いや悲しさがないところがまたイタイ。それこそ若者/若かりし時の我々が、「ああはなりたくない」と思う「オバサン像」ではないだろうか。

■近視的なオバサンはマズいのか?


そもそもこのカルチャーや政治系に興味のない状況は、果たしてマズいのか?
経済的視点からするとマズい。なぜなら消費をしないから。しかし、例えば未就学児の子どもの視点からすれば、とくにマズくもなく、逆に環境視点からだと超エコで歓迎される人間である。

だから胸を張って俗世と離れ、子どもを愛しんで、それが幸せと思って生活すればよい……良いはずであるが、気持ちが悪い向きもあるだろう(気持ちが悪くなければそれはきっと幸せかもしれない)。

気持ち悪さの原因は、出産以前に生きてきたビジネス界が植え付けた価値観と、子育てだけに傾倒していると視野が狭くなるぞ、というSNSの呪いである。

簡単にいうと、「女たるもの何歳でも自我を持ってキラキラしてなきゃいけない」と、「子どもが巣立ったら何も残らない人間になりたくない」というダブル強迫観念が、今の状態を否定するのだ。

■人生の主役は戻るのか?


果たして現在の「自我半減&時間は喰われてます状態」から脱却し、人生の主役を取り戻すことはできるのだろうか?

私の母親などを見ていると、大いにイエス、子育て時期を超えれば、テニス、パート、旅行などなど、それなりに好きなことをやれそうだ。

しかし、オバさん完全体になる前のジャストナウな状況での何かが必要なのである!

私の結論は、「流行っているモノコトに触れてみる」だった。ただそれだけなのに、若干勇気がいるのはどうしたことか。

流行っているものの触れ方として、人気漫画を読むことにした。半日仕事を休んでTSUTAYAに行き、『東京タラレバ娘』を借りたのである……お、おもしろい! ちょくちょく「タラレバ読んでますか?」ときかれていたことを思い出した。そうか、みんなこの世界に共感しているのだな。いいな、イケメン。今は「こういう雰囲気」でいるから、資生堂SKIIのWEB CMが賞賛されたり批判されたりしているのだな、とつながった。

同時に、昔は本やマンガや映画を見て、美術館にも行ってたな~……と思い出す。

その後、別のマンガを読みたくて、子どもたちの就寝を待たずに読むことに挑戦してみた。子どもを寝かしつけたあとに読みたくても、たいてい下の子が起きてしまうためである。

「ママ~見てみて~!」×2人の子の嵐の中、ネグレクトと言われるのかもね……と思いながら、一斉を無視して読み進めた『闇金ウシジマくん』は、なんともいえない味だった(しかし中断は余儀なくされる)。マズローでいう下から2番目の安全欲求が危うい登場人物たちがゴロゴロ出てきて、自分のマシ加減も噛みしめられる。

以上、子どものいる日常に、無理やり母親の「あそび」を割り込ませたのだが、なかなか気分がいいので、できる方はお試しあれ。お母さんだって自分のあそびに時間を使いたい、そう思うのは人間の自然な欲求だ。

夜中の晩酌でも、DVD視聴でもなんでもいい。できる範囲で得られる「満足」があると、人生を乗っ取られているとか、時間を喰われているという感覚も薄まる。そして、精神的なオバさんからの脱却を図れると思うのだが、いかに。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。