米国育ちの息子は日本語が好きらしい。普段から私とは日本語で話しているが、昨年4月に1年生になってからは、日本語の土曜学校で学び始めた漢字がとくに好きで、字の成り立ちを解説した絵に感心しては、「今度日本に行ったらさあ、あっちこっちに書いてある漢字が読めるよね。フフフ」と不敵な笑いをもらしている。自分の名前のひらがなを覚えたばかりだった数年前は、日本滞在中にそのひらがなを見つけるたび、「どうしてここに?」と驚いていたというのに、時が過ぎるのは早いものだ。

そうして、「日本に行ったらやりたいことはね……」と話すうち、「ねえ、次は日本にいつ行くの?」ときいてくるようになった。息子とは1歳になる前から毎年日本に行っているが、昨年はタイミングを逃して行くことができなかったので、最後に行ったのはまだ5歳だった2016年の春。「日本のことを考えると、行きたくなっちゃうんだよね」と言う息子はもう7歳だ。


日本に行く場合の一番簡単なオプションは夏休みである。アメリカの夏休みは3ヵ月ほどあるし、高学年になるとその時しか学校を休めないということもあり、私のまわりでも夏に日本に行く人は多い。

しかし、私と息子には日本のあの夏は無理だろう。なにせ私が日本の真夏を体験したのは1997年が最後である。こう言うと、たいていの日本人が「日本の夏は毎年さらに蒸し暑くなってて、ありえないですよ」「シアトルのほうが長いと、あの暑さは無理です」と言ってくれる。たしかに、日本の5月や10月でも「蒸し暑い!」とイライラしてしまった私は、真夏の日本で息子にやさしくいられる自信がまったくない。

秋はアメリカでは新学年が始まるから対象外として、そうすると残るは春か冬だ。日本の都市部の冬は寒い。シアトル生まれの息子は寒さをものともしないが、スキーは大好きな私でも、寒い中を駅や店まで歩いたり、電車をじっと待ったりしないといけないのは苦手である。なので、冬もやさしいお母さんでいられる自信がない……。

そうすると残されたオプションは春。ちょうど4月上旬に春休みが1週間あるから、それにさらに1週間休めば、あわせて2週間になる。息子のクラスメートには、「お母さんの母国のインドに行くので」と1ヵ月休んだ子もいたぐらいで、1年生はまだ結構フレキシブルだ。

まわりの先輩お母さんたちも、「1年生なら全然大丈夫! 春に行くほうが、夏より楽!」と言う。そこで保護者面談で担任の先生にきいてみたところ、“Sounds fun!”(=楽しそうですね!)という答えが返ってきた。“We won't be doing too many new things right after spring break, so he can catch up when he returns!”(=春休み直後にそんなにたくさん新しいことはやりませんから、戻ってきた時に追いつけますよ!)「まだ1年生だし、世界を見ることも大事」とも付け加えた彼女は、出産してまだ1年ちょっとの若いお母さんでもある。

風邪や発熱など、突発的な病気で休むことを学校に知らせる場合は、それ専用の電話番号があるが、前もって決めた期間を休むことを知らせるには、学校のオンラインフォームを使う。子どもの名前や学年、担任の名前など、そして休む期間とその理由を記入して送信ボタンを押すだけで、情報が学校に送られ、担任にも通知が行くようになっている。署名もいらない(もちろん、アメリカには個人の捺印というシステムもない)。紙の用紙も置いてあるが、オンラインでやるほうが親も学校も楽だ。

そんなわけで、4月上旬の春休みと翌週の2週間を日本で過ごすことになった。「やったー!」と大喜びの息子は、「日本に行くまで後○日!」とカウントダウンをし、「日本のグランマに会ったら……」「日本に行ったら食べたいのは……」「日本でやりたいのは……」と妄想にふけっている。出発前の仕事に追われてクラクラな私は、そんな息子を見て、「やるぞー! 日本で遊ぶぞー!」と元気を出して前進あるのみだ。

これから息子の中で日本や日本語がどういう位置を占めていくことになるのかはわからない。でも、日本で祖父母と再会し、いろいろな人に出会い、いい経験をして、それが将来何かの役に立てばいいなと思うのだ。そして、息子の目に日本がどんなふうに映るのか、それをたくさん教えてもらいたい。何かのヒントになるかもしれないから。

大野 拓未大野 拓未
アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材や教育プログラム
のコーディネート、リサーチ、マーケティングなどを行っている。家族は夫と2010年生まれの息子。