2018年4月21日に放映された『新幹線変形ロボ シンカリオン THE ANIMATION』に、人気ボーカロイドの「初音ミク」が「発音ミク」となって、H5系はやぶさに搭乗した。

「だからなに?」と思うのが通常の反応だろう。以前当サイトで書いたコラム『アニメ「シンカリオン」の「こまち」のパイロットが女子じゃない問題』で、「こまちに乗るのは女子だろう!」といういたたまれない私の気持ちを吐露して数ヵ月、私の声が届いたのか?(……いや、コラム公開と同時くらいに正式発表があった)、女の子がシンカリオンのパイロットになったことが、単純にうれしいのである。

ただ、見ているうちに、発音ミクがどんどん自分ゴト化されてしまい、男女間の「よくある光景」を通り過ぎ、ほろ苦い過去を思い出し、やや暗い気分になってしまった。今まさにセクハラのトピックがメディアを席巻し、男女間の就労意識の差にも意識が向いているからだろうか……。


■男性職場で同等に戦う女性像


私のデジャヴのトリガーとなったのは、発音ミクの登場シーンである。
主要キャラの男児3人が、H5系シンカリオンの運転士(パイロット)が発音ミクだと知った瞬間、「女の子!?」と驚き、「何か問題でも?」と発音ミクが応答する。

ああ、これは男だらけの職場、もしくは取引先に登場する「強い系」女子の雰囲気。男児陣に悪気はないけど、ささくれ立った空気になる。

その後、男児3人が敵に苦戦するなか、発音ミクがピンチを救い、敵を華麗に撃退する(キメポーズが美しい)。シンカリオンを降りて、仲良くなろうとする主役男児と、それを快く思わない発音ミク。平和になった街へ観光に出かける男児たちと、剣道の竹刀を振って鍛錬を重ねる発音ミク。

そして男児たちへひとこと、
「運転士として、少しでも腕を磨こうとは思わないのですか?」と発する。

深読みは百も承知だが、あえて書きたい。これは私の十数年前の光景とダブるのである。


――当時、私は今でいうブラックな中小企業に勤めていた。自称Eコマースだが、端的にいって卸問屋である。就労時間もブラックながら、人事評価の仕方が真っ黒で、基準は「社長のお気に入りかどうか」。

そんな、まさか。ふつうは営業売上の数字で評価されるんじゃないの?というところだが、社長のお気に入りになる→大口の小売店担当に回される→努力しなくても売上数字は1番!というあんばいだ。

私は、その会社が扱う商品の広告を作っていたので、営業部隊ではなかった。だからこそ、「金を稼いでこない部署の人」として下に見られていた。

広告も商品の売上に貢献しているはずだが、当時はそれを計る指針が採用されず、「おかしいと思います!」と正面切って異議を唱えていた私は、想像どおり社長から嫌われていた。

そんななか、私が最も納得がいかなかったのは、営業部の「仲良し男子チーム」であった。
こちら制作部(部長以外すべて女性)は、商品がより売れるためにどうしたらいいのかを模索し、機能する広告を作るために残業していたのだが、営業チームの残業といえばおもに談笑。彼らは「社長より先に帰らないこと」を重要視していた。

もっといえば、社長室から出てくる社長と同じタイミングで離席し、同じエスカレーターに乗り、「ボク、こんなことやってます!」の報告に腐心していたのである。少なくとも当時の私たちにはそういう風に見えていた。何しろデスクトップPCの電源をすでに切ったまま談笑し、社長の姿が見えた瞬間、バッグを持って立ち、社長が忘れ物で戻ると自分も戻る、という行動なのだから。

おいおいそれが「営業」かよ、と思うところだが、そんな行動で社長のお気に入りとなり、「なんだか、そこはかとなく、がんばっている雰囲気が出ている!」という理由で、残業代が出て、ボーナスが出るとなれば、やらない手はない。

ただ、当時の私はそれが許せず、「会社は利益を追求する場所であり、余計なコストはカットすべき。残業は無能の証!」というカタブツで、社長の犬的な立ち回りをする面々にイライラしていたのであった。

……というわけで、時代は違うものの作中の発音ミクさんも、「こんなに意識が低い人たちと同列にみなされるのがイヤだ」という気持ちだったかもしれない。

■ママがパパに思うイライラ


私のデジャヴはさらに続く。
後半、主人公が風邪をひいて熱を出してしまうのだが、その様子に発音ミクがひとこと。

「体調管理もできないなんて、あなた運転士失格ですね」。

私はこの「運転士」を、今度は「父親」と置き換えてしまった。

例えば冬の公園に行って発見したことのある人もいるだろう。小さな子どもを遊ばせている母親はほぼ100%マスクをしているのに対して、父親はほぼ100%マスクをしていない(筆者調べ)。

ささいなことなのだが、それについて友人と考察したところ、「病原菌をもらって倒れてはいけない」と思っている母親と、そのあたりを考えていない父親の意識の差なのだとあっさり結論づいたのだった。

「マスクで病気は防げない」という問題ではなく、風邪防止の心構えがあるかないか。ママは「パパの視線が家族へ注がれているかどうか」で判断するのだ。例にもれず、私の夫も初期のころはノーマスクであり、それだけでちょっと落胆したものだ。


……さて、再びアニメの話に戻したい。
悪気がなく性格のいい主人公と、キツい態度をとる発音ミクさんだが、今後なんだかんだで仲良くなっていき、同志として地球の平和を守るため、共に戦うのだと思う。おそらく次回は発音さんがピンチとなり、それを男児陣が助けるんじゃなかろうか?

他方、現実世界でもそうした局面がないとはいえない。意識が無駄に高いカタブツは職場で立ち回りのうまい犬に助けられることがあるかもしれないし、マスクをしてないだけでdisられるパパもいざという時には活躍するかもしれない。

だから、もっと視点を高くしておおらかな心で見て……と書きたいところだが、それができたらモヤモヤしない。シンカリオンを見ただけで、どす黒い思い出がフラッシュバックしたのだ。

男だ、女だ、と敵対したくない。
まして夫を敵だとみなしたくない。

だが、そうなってしまいがちな構造への特効薬は見当たらない。
きっと、皮膚が新陳代謝し垢となって消えるように、かけ離れた両者の言動が徐々に消え、すり合わさっていくのだろう。ただ、自分の子育てはどうか?「男の子だから〇〇、女の子だから〇〇」とは言っていないが、でもそれだけでいいのか……シンカリオンは、なかなかの難問を投げかけてきた。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。