本稿では、育休の先にある「働く」×「育児」の両立の多様な実現方法を模索すべく、他社に先駆けて先進的な取り組みをされている企業の制度と、実際にその制度を利用して育児と仕事の『自分らしい両立』を実現している社員の方の声をご紹介していきたい。連載の第2回目は、レゴジャパン株式会社を取り上げる。

子どもを持つ親なら、レゴを知らない人はいないだろう。昭和後期生まれでファミコン世代の私も、物心がつくころからレゴに慣れ親しんできた。自分の子どもには、レゴ・デュプロ(幼児向けライン)のディズニープリンセスシリーズを、ママ自身の趣味も兼ねて買い与えている。世界130ヵ国以上で販売され熱狂的なファンも多いレゴであるが、発祥の地であり現在も本社を構えるのは、「幸せの国・デンマーク」ということは、あまり知られていないかもしれない。

デンマークのある北欧と言えば、男女平等が早くから進んでいて、女性の就業率がとても高く、産後も働き続けることが当たり前の地域である。そんなデンマークに本社を置くレゴジャパンには、「子育てをしながら働く社員にとって働きやすい仕組みがあるのではないか?」と思い、同社の制度や子育て社員の働き方を取材させていただいた。

■ワークライフバランスの鍵は半径数メートル以内の信頼関係



▲お話を伺った3人の子育て中社員の皆さん
(左)清水さん、(中)今井さん、(右)Fengさん

お話を伺ったレゴジャパンの子育て中の社員3名(3人とも職種・ポジションは異なる方)が、「職場で働きやすさを感じる点」について、3人全員が異口同音に挙げたのは「子どもの急病や学校行事などで休むときに、ごめんなさいと言わなくて済むこと」だった。なんだったら、休む際にその理由を言う必要もないらしい。
どんなに時短の制度が整っていても、育休から復帰した後に、周りのメンバーより早く帰ることに「スミマセン」「ごめんなさい」という罪悪感を抱いてしまうママも少なくないだろう。レゴジャパンでは、子どもの都合で仕事を早退することに対して、「スミマセン」と言わなくて済むのはどうしてか。成果主義であるという前提があるが、社員同士がお互いの「ライフ」を尊重し合う風土が根付いているということが、その一番の要因であると感じた。

安全衛生担当のFengさん(6才・4才のママ)は、もともと日系のメーカーに勤めていたので、レゴジャパンと前職の職場環境の違いをすごく感じるようだ。例えば、子どもの学校が休校になってしまった時、上司に「それならお子さんを連れて来ておいでよ!」と言ってもらい、実際に職場に子どもを連れて出勤したことがあるという。

レゴでは12歳までの子ども同伴での出勤が認められており、子どもはママと一緒に会議に出て、空いている会議室を借りてレゴで遊び、そのままお昼寝へ。その姿を上司や同僚が暖かく見守ってくれる。日常的に子ども同伴で出勤している社員は居ないようだが、困ったときには上司やメンバーが臨機応変に協力してくれるというのはとても羨ましい。

営業部アカウントマネージャーの清水さんは、3才・1才の二児のパパで、過去にパタニティ・リーブ(男性育休)を取得されている。奥さんが専業主婦であっても、例えば奥さんが体調を崩してしまったらパパが奥さんと子供たちのケアをしなければならないので、急遽家に帰らなければならないということもある。日常的に各社員は自身の勤務状況を上司に逐一報告する必要はないので、仕事に支障がなければ自分の判断で早退することが可能で、その理由を告げなくてもとくに問題はないという。

営業という職種柄、上司への報告よりも営業先との調整が大変なのでは?と思ったが、それはレゴという商材ならではの話だが、「営業先もおもちゃ屋さん。子どもの急病に対する理解と思いやりは手厚い」という。自社を越えた商材をとりまく環境という要素もあるようだ。

また、2才の娘を育てるシニアマーケティングマネージャーの今井さんは、娘の誕生日に休みを取る予定があることを上司に伝えたところ、「それは意味があることだ。キミにはママとしての大切な役割もあるからね。」と言われた。その時、レゴジャパンという職場での働きやすさを改めて実感したという。自然にこうした休暇が受け入れられるというだけでなく、職種柄、時々は海外出張で数日間家を開けることもあるママだからこその願いを、丁寧に汲み取り思いやった対応だなぁと感じる。

いくら制度としてフレックス勤務や有給があったとしても、それを利用する際に心理的なハードルがあれば、やはり「スミマセン」「ごめんなさい」という思いが生まれてしまうだろう。その心理的なハードルを取っ払うのは、周りのメンバー、具体的には半径数メートル以内で一緒に働くメンバーとの信頼関係なんだそうだ。

■企業理念に「Care」、人事評価基準に「コラボレーション」の指標


「実は、人事制度として特別なものは何もないんです」というレゴジャパンの人事責任者 小林さんが、唯一、とてもユニークな制度かもしれないとして教えてくれたのは、企業理念の中に「Care:メンバーが困っているときにどれだけ助けてあげられたか」、人事評価基準の中に「コラボレーション」いう項目があることだ。


▲人事責任者 小林さん

同社の人事評価基準は、成果主義がベースであることは欧米企業と同様だが、同社は社員同士のコラボレーションがうまくできることを重視しているので、これが社員を家族のように大切にするデンマーク流の社風にもつながっているようだ。

「Care」や「コラボレーション」という評価基準はとても面白い。数値目標で業績管理するだけでなく、それぞれの社員の視界が、周りのメンバー全体へ開いていくことで間接的に組織力を強化するという効果もある。

例えば、家族の急病で休まなければならない社員の仕事を、誰かが肩代わりしなければいけない状況があった場合、通常ならどうなるだろうか? 同僚が率先して肩代わりするケースよりも、上司が自分の責任範囲の中で処理(自分が対応するかメンバーの誰かに振るか)というケースの方が多いのではないだろうか。

「仕事だから仕方ない」と思いながら対応するのと、本当にその社員の状況を思いやるのとでは大きな違いがあるように感じる。前者であれば、やはり「迷惑をかける者」「迷惑をかけられた者」という人間関係であるし、「迷惑をかけた者」の方は、すみませんと謝罪することしかできないかもしれない。一方で、「思いやり」が前提であれば、助けてもらった恩を今度は自分が返したいという、さらなる思いやりの連鎖につながるような気がする。

「誰かを思いやること」が、客観的にも評価されるというのは本当に興味深い。

■働くママの働きやすさの鍵はママ自身の中にある


小林さんは、画期的なダイバーシティー制度で有名なユニリーバを始めとする、数々の有名企業での経験を持つ人事スペシャリスト。そんな小林さんの、「制度だけで職場の働きやすさは作れない。一人ひとりのマインドの方が重要。」という言葉がとても印象的だった。

例えば、時短勤務中のママが、他の社員より早めに退社することに「申し訳ない」という思いを抱いてしまう件。そもそも、なぜ早く帰ることが「申し訳ない」という気持ちにつながるのか? そこを深掘って理解しなければ、制度として「時短」を作っても、その制度を利用する社員の働きやすさにはつながらない。

小林さんは前職の会社で、「ベビーシッター費用を一部補助する制度があったが、実際にはほとんど使われなかった」ということを経験されたという。ベビーシッターを使うことに対して抵抗のあるママ社員が多くいたため、いくら会社が補助したとしても、積極的に使おうという動きはみられなかったそうだ。

時短で早く退社するママの「申し訳ない」という気持ちにも、もしかしたら、「早く帰ること自体が悪。みんなと同じように◯時まで働くべき。」というようなママ自身の価値観が原因になっている可能性がある。そしてその価値観は、自分の周りの半径数メートル以内の人間関係にも影響していくだろう。

自分自身が心地よく働けるワークとライフのバランス、どうしたらライフの都合で早く帰るときに「ごめんなさい」と言わなくて済む状況が作れるか?の答えは、会社の制度ではなく、自分自身のマインドの中にあるのかもしれない。

人によっては、「そもそも業務量が勤務時間に収まっていないから、もう少し調整させてもらいたい」ということかもしれない。しかし、それであっても、誰かがそのしわ寄せを食う形ではなく(それだと結局「ごめんなさい」の気持ちに繋がる)、チーム全体の働きやすさという視点でどう調整をしていきましょうかと、“Give & Take”の姿勢でマネージャーに相談できる人間関係が築けていれば、うまく解決できる可能性はある。

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私は現在、様々な活動を平行する“スラッシュキャリア”のフリーランサーであるが、平日に働くのは、週4くらいで10:00~15:00がちょうど良い。週1は新しいインプットを得るための余白として残しておけば、子どもの急病にも対応可能だ。ま、実際には、子どもがインフルエンザになったり、肺炎で入院することもあって、週1の余白では収集がつかなかったこともある。それでも、せっかくフリーランスという働き方なんだから、うまくバランスがとれる働き方をしたいという意識は常に持とうと心がけている。

もしこの働き方を、フリーランスではなく会社の中で実現しようとするなら……と考えてみると、就業規則や採用条件だけではなく、一緒に働くメンバーとの人間関係や信頼関係が重要になるだろうな、と想像した。簡単にできることではないが、ちょっと一度、試してみたい気持ちも。

「どんな風に働きたいか。
そのために、半径数メートルのメンバーたちと、どんな信頼関係を築くことができるか。」

これは子育て中のママ社員に限った話ではなく、介護などの理由で働く時間が制限される社員や、会社の仕事とは別の夢に向かった活動を行っている社員にも共通して言えるだろう。レゴジャパンの事例は、多様な働き方を受容していく社会に向けて、とても重要な視点を与えてくれるものだと感じ、大変勉強になった。

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パパの育児休暇を当たり前に ――≪after育休≫リクルートコミュニケーョンズの取り組み

森田 亜矢子
コンサルティング会社、リクルートを経て、第一子出産を機にフリーランスに。現在は、Baby&Kids食育講師・マザーズコーチング講師・ライターとして活動中。3才長女と0歳長男の二児のママ。