米国生まれ育ちの息子と一緒に日本で過ごした2週間。

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シアトルから成田へのフライトは快適だった。「飛行機ではスクリーンタイムに制限なし」と決めたので、最初は「ダディに2週間会えないから、さみしくなってきた」と少しぼんやりしていた7歳の息子も、日本語の映画を見たりゲームをしたりしているうちに気分が上がってきたらしい。


持ってきた本を読んだり外を眺めたり、疲れれば「ちょっと寝るね」とスヤスヤ寝たりと落ち着いて過ごし、約10時間後に成田空港に到着した時は、「日本だね!」と元気いっぱいで嬉しそうだ。

一緒に旅をすると、相手や自分について再確認したり新しい発見をしたりすることがある。それはまだ幼い子どもについても言えることで、今回の旅では、時差や気候の違いで本調子でないにしても、やはり息子はポジティブかつハッピーな気質なんだと気づかされ、ありがたく思うことが何度かあった。

例えば、おそらく彼が記憶しているどんな場所よりもたくさんの人がいたであろう品川駅で、通勤ビジネスピープルの波を必死で(?)横切ったことも、満員電車に乗ったことも(一駅だけだったが)、「あんなにたくさん人が急いで歩いてるの初めて見たねー!」「あんなにぎゅうぎゅう押されたことないから、パンケーキみたいになっちゃう~と思ったけど、だいじょうぶだった。ママはだいじょうぶだった?」と、彼なりに消化している。

「子どもは大人が思うよりずっとフレキシブル」と言うこともできるが、楽しいわけでも心地よいわけでもない状況でも、落ち着いていてくれてありがたいと思ってしまうのは親バカだろうか。

とは言え、そんな息子の気質に私が無意識に甘えてしまって反省する展開になったこともあった。仕事関係のミーティングが盛り上がって2時間に及んでしまった時は、横で折り紙やらお絵描きかやらしていた息子もさすがにキーッとなった。「ぼくは1時間ならじぶんで好きなことしてられるけど、ちょっと長すぎだよう」。

しかし、息子が行きたがっていた江戸東京博物館に直行してすぐにハッピーになってもらえたことで、ネチネチ文句を言い続けないところを再確認。東京での1日半が終わる頃には、きれいなホテルに泊まり、早朝に起きて日本庭園を散歩し、朝食に自分の好きなものを選んで食べ、行きたかった江戸東京博物館やすみだ北斎博物館に行き、抹茶クリームパフェやざるそばを食べた、そんな楽しい記憶でいっぱいになり、「明日はカマクラでグランマに会えるね!」「カマクラはどんなところ~?」と、ハッピーな性格が全開になっていた。

午前中に東京から鎌倉に移動し、お友だち親子に鎌倉大仏などに連れて行ってもらった後、七里ヶ浜のホテルに入ると、先に到着していた母がロビーのソファにすわっている。「グランマ!」と、息子はすっ飛んでいったが、後から母が、「そっとハグしてくれて、すっごく会いたかったんだようって、2回も言ってくれた」と嬉しそうに話してくれた。

2泊3日ですっかり鎌倉を好きになったが、母の72歳の誕生日を祝うため、子連れで楽しめるというリゾナーレ熱海へ。公式サイトの説明どおり、子どもが喜びそうな、それでいて大人も心地良いスタイリッシュなインテリア、活発な子ども向けのロッククライミングや森でのアクティビティ、温泉、美味しい食事、高台からの相模湾の素晴らしい眺めと、コンパクトながら盛りだくさんのリゾートである。

窓が大きく、青と白が基本のおしゃれなインテリアで畳敷きの和室もある客室に、母も「さすが星野リゾートがやってるだけあるわ」と喜び、息子は「ぼくの部屋もこんなふうにしたい」。畳や押入れは無理だが、色のコーディネートぐらいは真似できるかも。

ロッククライミングをしたり、温泉に行ったりしているうちに、夕食の時間がやって来た。テーブルにつくと、事前に申し込んでおいた「子どもがケーキをデコレーションするアクティビティ」についてスタッフの方が説明してくれる。しかし、息子が私の顔色を伺うような感じで「あまりやりたくないな……って思っちゃうんだよね」と言い出した。

そうそう、ポジティブでハッピーな性格でも、人前にぐいぐい出ていくタイプではないのだと思いつつ、「お料理が好きだから、きっと楽しいよ」「グランマも見てみたいなあ」と、私と母で盛り上げる。「じゃあ、やる」と、あっさり気持ちを切り替えたのは意外だったが、用意されたシェフコートを着てシェフハットもかぶると、他の子どもたちと子ども用のキッチンに集まり、はにかみつつも楽しそう。先生に褒められるとますます笑顔になって、「写真を撮って」「上手?」「すごく丁寧にやったんだよ」「おいしい?」とノリノリだ。

その笑顔を見ながら、「やってよかったなあ」としみじみしていると、「あのね、日本語がね、わからなかったらどうしようって思ってたの」と、息子がボソッと言った。「でもよかった、やってみて。先生が言ってることがわかったし、ぼくも日本語で言えたしね」。

私と母は、きょとんとなった。
息子がちょっと照れたような笑顔で続ける。

「だって……ぼくは日本の人みたいに日本語が上手じゃないって思ってたから」。

確かに、2歳半から5歳半の日本語プリスクール時代は週30時間だった日本語環境の時間は、5歳半で現地(英語)のキンダーガーテンに進級してから小学1年生の現在までの2年間は週4時間半(土曜日の日本語学校での4時間半)しかない。それでも、私や私の母と日本語で会話し、ドラえもんの漫画や日本語のテレビ番組に笑い、普段の生活でも日本語の人とは日本語で話をしているので、息子が自分の日本語を日本の人(って、誰だろう?)と比較していたとは思いもしなかった。

翌日、リゾート内の森での親子アクティビティで、他の参加者の男の子やインストラクターと会話したり、その後に滞在した私の故郷の神戸で、本屋で欲しい本を伝えて売り場を教えてもらったり、ソフトクリームを買ったり、小学生の子どもたちと話したりする息子を見て、「これは当たり前ではなく、息子ががんばって自信がついた結果なのだな」と、意識して見るようになった自分がいた。

新しい経験を自分で成功体験にして自信をつけることになったわずか20分ほどの教室は、息子だけでなく、私にもいい効果があったというわけだ。

大野 拓未大野 拓未
アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材や教育プログラム
のコーディネート、リサーチ、マーケティングなどを行っている。家族は夫と2010年生まれの息子。