「パルムドール??? マジで???」

5月某日、第71回カンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の『万引き家族』が最高賞であるパルムドールを受賞したというニュースを目にした私の第一声だ。


日頃から映画祭のニュースはよくチェックしているので、今回も是枝監督の新作が出品されていることは知っていた。【東京の下町に暮らす、一見どこにでもいそうな平凡で貧しい家族。しかし彼らは「犯罪」で生計をたて、ひっそり暮らしていたのだった】というあらすじを一目見た時から胸がざわついていた。

是枝監督の名を世界的なものにした映画『誰も知らない』を思わせるものがあったので、映画祭での動向も気にしていた。母親から育児放棄され、漂流生活を送る4人の兄妹を描き、長男を演じた柳楽優弥さんが、2004年度の第57回カンヌ国際映画祭において史上最年少および日本人として初めての最優秀主演男優賞を獲得したことで大きな話題を呼んだ『誰も知らない』はかなりセンセーショナルな作品だった。

困窮した生活を強いられた子どもたちが何とか生きていこうとする様子が残酷で絶望的ながらも、監督から子どもたちへ注ぐ目線が優しくて、何と説明したら良いのか分からない感情に包まれたことを覚えている。

それ以降の作品でも、とにかく子どもの撮り方が秀逸な監督なので、『万引き家族』も重たいだけではない何かがあるんじゃないだろうかという期待を旨に、一部劇場で実施された先行上映を鑑賞することに。


感想から言ってしまうと、素晴らしい作品で、見た人と感想を共有したくてうずうずしているところだ。月並みな言い方ではあるが「考えさせられる」作品であることはたしか。

祥太(城桧吏)の横顔にカメラがフォーカスして物語が始まる。
大人びて見えるけどまだまだ幼い彼が、「万引き家族」の柴田家の一員として鮮やかな手つきで万引きを繰り返す。父親である治(リリー・フランキー)と共謀して、店員の目を盗んでは食糧や日用品をリュックに収めていく姿にこちらとしては良心が咎めつつも見入ってしまう。

2人が一仕事終えたあと、近所の団地で寒空の下、震えている小さな女の子「ゆり」を見つけ、ひとまず家に連れて帰るが、暴力を振るわれている痕跡を発見し、親元に戻すことができず、新しい家族として迎え入れ、親交を深めていく。

大切なのは本当の血の繋がりや血縁なのか、もしくはともに過ごす時間なのか。
是枝監督が『そして父になる』でも投げかけてきた命題を再度料理したようにも感じられて、こちらも数日考えてはいるが答えは出ない。

祖母の年金と万引きで食いつないでいる柴田家の生活はお世辞にも豊かとは言えないが、会話も笑顔もあるし、からっと明るい。

治の妻である信代(安藤サクラ)がゆりを受け入れ、本当の娘のように慈しみ、ぎゅっと抱き寄せるシーンには思わず涙がこぼれる。

子どもにはできるだけ金銭面で不自由させたくないと思っているし、実際子育てするにはお金がかかるのだけれど、お金のあるなしとはまた違う幸せが柴田家にはあることが分かる。

ある価値観を是としたとき、それ以外のものを振るい落としていたり、切り捨ててしまう恐ろしさ、誰もがその危うさに身を置いていることを肌身で感じるのだ。

一方で、子どもを愛していれば、幸せだと感じていれば何もかもが許されるのか。
衣食住だけでも満たしていれば、子どもに万引きさせることも教育を受けさせていないことも容認されるのか。家族観、道徳観、倫理観などを矢継ぎ早に問うてくるのだが、決して断定的なメッセージはなく、感情を処理できないまま劇場を後にした。


現在上映中の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』という映画も同じく貧困が描かれている作品だ。
フロリダ・ディズニーワールドのすぐ外側にある安モーテルに暮らす母娘の物語で、明るく破天荒に生きる主人公たちやファンタジックで美しい映像と、厳しい現実のバランスが絶妙な秀作で、『万引き家族』ともリンクするものがある。

≪ホワイト・トラッシュ≫と呼ばれる白人の貧困家庭、低所得者層を題材にした作品が今年に入って立て続けに公開されていて、アメリカと日本では政治的背景も異なるとはいえ、毛色の似た作品が洋邦問わず、ほぼ同タイミングで公開されていることは、全くの偶然ではなさそうだ。

『万引き家族』は行政や制度といった体制側から断罪するでもなく、かといって家族愛の尊さだけを押し通すだけではなく、見る人一人ひとりに委ねてくるような作りのため、余韻はものすごく大きい。

そして相変らず見事な子役たちの演技。子どもたちには台本を渡さないのが監督のポリシーらしく、本当にこの家族が実在するんじゃないかな、と思わされてしまう。

劇場で鑑賞中、終盤で近くにいたお客さんが退出しようとしていたので、おや、と思ったら小学校低学年くらいの男の子がトイレに行こうとしていたようだった。まだこんな小さい子も一緒に見るのか、すごいなと思ったが、実はこれは家族で鑑賞するのに良いのかも。

複雑なストーリー展開もないし、台詞も多すぎない。行間を読み取らなくてはいけない類のものでもないので、子どもに「どう思った?」ときいてみたら大人が気が付かないようなことに目をつけているかもしれないし、一緒に話し合ってみるのも面白そう。我が家はあと何年後くらいに一緒に観れるだろうか。

21年ぶりとなる日本作品のパルムドールという快挙を成し遂げ、112ヵ国で公開予定となったそうで世界中で期待されていることだろう。

ノルウェーにいた友人が現地のアジア映画祭のような催しで、是枝監督の『海街diary』が絶賛されていたよと教えてくれたことがあったので、世界中でどのような反応があるのかにも関心を寄せている。

『万引き家族』公式サイト
http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。